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スイープリニュー3

 

『少し優勢か。序盤に軌道兵器のうち二つを潰したが、それくらいだ。そっちこそ、想像より早いな』


 さすがに墜ちてはないだろうと思っていたが、予想外の奮闘にイセンは息を飲む。


『強い……相手もエース級なんだよな?』

『相手も、というより我が軍のエースは俺だけ……敵軍は撤退か』


 一瞬イセンは不思議に思ったが、そういえばエース級という言葉は何度か聞いたことがあっても、エースと呼ばれている者は今まで一人も居なかった気がする。両者に何の違いがあるのかはいまいち分からないが。


『諸君、戦いは終わりだ』


 ステイルが見合っていたもう一機の旗機が撤退を始める。赤く輝いていた機体は、撤退の合図と言わんばかりに励起を止め、宇宙の暗黒に溶けていくように見えた。


『今回の勝利を見届けられなかった者は多い。勝って得たものより失ったものに悲しむかもしれない。だが、防衛は成功した。それも確かだ。先程の言葉通り、俺は再び戦線に立つお前らに期待している』


 今度は敵に臆せず戦えるだろうか。久しぶりに死の予感が間近に迫り、イセンはそんなことを考えていた。次はもっと近接の腕も、操作技術も上達しよう、そう思う。イセンだけではない。より強い未来の自分を思い描いた者は少なくなかった。まるで自分一人と対話しているかと錯覚するほどに、ステイルの言葉には想いが込められていた。


『むう、自軍の青い光が強くなったような……単純に俺の気分の問題か?』

『それで良い。俺たち操者はな』


 なんとなく呟いたイセンとそれに応えるステイル。イセンが待つように沈黙すると、ステイルが切った言葉を続ける。


『心が動かなくなったら死ぬんだよ。とっとと休んどけ。俺は後始末だ』

『……ありがとうございました。サーマン少尉、俺らも帰るか?』


 ステイルは機体を素早く転換させ、何処かへ駆けていく。


『帰りましょう。みんな心配してると思いますし』


 こちらはサーマンが再び先導し、来た道を帰る。行きとは違い、速度には多少の余裕があったが、イセンは少し張り詰めた表情をしていた。


『サーマン』

『なんですか』

『お前は焦ったりしないのか』

『戦いの話ですか? それとも、何か躊躇いでもあるんですか?』


 いきなりの問いだったが、サーマンにもなんとなく心当たりはある。まだ戦闘中かのようなイセンの声色に対し、平時に雑談をするような口調で返された。


『あー、戦いの方から頼む』


 両方聞くのか、と思ったサーマンだが口には出さず、少し考えをまとめる。


『戦いの時は、最近はあまり焦りませんね。新兵も来ましたし』

『新兵と焦りにどう関係があるんだ?』


 新兵とは明らかに自分を指しているのだが、それだけではイセンもよく分からなかった。


『イセン伍長の故郷には遊園地とかありましたか?』

『ん、まあ無いことはないな』


 ふと、家族で出掛けた日々を思い出し、遠くの惑星を眺めるイセン。


『例えば自分以上に怖がってたり、慌てたりしてる人を見ると冷静になるじゃないですか。そういうことです』

『成程。でも、周りにそんな人がいないときはどうするんだ?』


 サーマンはお化け屋敷やジェットコースターのような物を想像していたのだろう。彼がそのようなもので怖がる性格とも思えないが。


『さっきまでの自分と今の自分を比べたら良いんじゃないですかね』

『今の自分がより落ち着いていると?』

『自分を客観視出来てるのなら、多少は。そうでなくても、そう思えば落ち着きますし』


 自己暗示のようだが、イセンも確かに効きそうだと思った。この時点でサーマンに乗せられている可能性もあるが。


『ま、考えようですよ。たまたま生きていたことを振り返るより、次は生きる為にどう動くか。死んでないなら、戦闘中に無駄な事に気をとられている場合じゃないと思いますよ』

『……確かにな。緊張した時だけ力が出せないってのも、普段実力を発揮できてると思えば悪くないか』


 一度言葉を切ったイセン。再び口を開く前に、先んじてサーマンが話を切り出した。


『イセン伍長』

『な、なんだ急に改まって』

『最近少し生き急いでいませんか?』

『目的なく戦争なんてしたくないが、焦って見えたか』

『こんな質問されたらバレバレですよ』


 ここしばらく、イセンも多少思うところがあった。成り行きとはいえ命懸けの戦場に赴き、素性の知らない敵を墜とす。彼自身内に秘めていた気でいたが、サーマンからすれば何も感じない方が不可能だ。


『ウォードでしたっけ。敵に固執しなくていいと思いますけど。目的を持って戦争しても、戦いが終わったら出来ることないですし』


 以前ウォードと遭遇した後、サーマンはブリディガルとファルーに相談をしていたが、ファルーが自分と模擬戦をさせるという想定外のフォローをぶちこんで来たのは記憶に新しい。


『それより、私との模擬戦に勝ってまだクヨクヨしてるなんて余程自信の付け方が下手くそなんですね』


 確かにファルーの強引な独断によって模擬戦が仕組まれたが、あの時のサーマンに負ける気は更々なかった。それでいて、ここまで実力不足だと嘆かれるとサーマンとしても、もどかしいものがある。


『あれは俺の勝ちなのか?』

『……勝ちで良いですよ。イセン伍長が調子を付けてくれるなら』

『そうか……そうか。今さら結果は変わらないが、その言葉が嬉しいよ』


 中々本音を聞く機会こそないが、自分が思った以上に認められていると感じたイセン。何よりこれまでの言葉から、いかに気に掛けられていたかが伝わって来て、素直に感謝を述べる。


『あなた性格最悪ですね』


 自分が敗けを認めて喜ぶイセンにサーマンが少し茶々をいれる。


『そういうことじゃない! ……でも、ははっ、戦いの前に聞けていれば、レージも一人で倒せたかもな!』

『それは調子乗り過ぎですね』


 二人が話しているとジャンダルムの基地が見えてくる。相変わらず灰色で統一された地形は、起伏に関わらずのっぺりと見える。


『まあ、後半の話は為になったよ、ありがとう。ようやく自分の気持ちと向き合えた気がする』

『前半もまあまあ良いこと言いましたけど』

『調子に乗るなよ』


 二人の任務はようやく終了した。サーマンは何か忘れている気もしたが、着地体勢に入る。





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