スイープリニュー1
『俺はまた怒られるのか?』
『毎度過ぎたことにうるさいですね。まあ、今回のはうまくやれば不問でしょう』
かたが付いたからか、戦いの熱も引いてきたイセンに対して、サーマンはややぶっきらぼうに応える。
『そうか、それはーー』
『本部から緊急通達、インスヴァイトに搭乗している操者一同は宙域Db3に救援に向かえ。敵軍は未確認のエネルギー兵器を有している可能性が高い。繰り返すーー』
『先導します。イセン伍長、付いてきなさい』
イセンが話を続けようとした瞬間、馴染みのない通信が機体に走る。相変わらずサーマンは判断から機体の速度まで迅速である。多少出遅れたイセンが置いていかれたかと錯覚する程だった。
『今のはどういうことだ?』
『分かりませんよ、初めてですので。大方想像の通りだと思いますが。悪い意味で』
なんとか後に続いて航行するイセン。自分なりに思考をまとめるべく集中していると、またしても通信が入る。今度はサーマンからではないが、聞いたことのある声だ。
『そこの丸腰』
『スラウ、貴方はお留守番ですか?』
呼び掛けられてイセンが辺りを確認すると、SoSが駐屯するノア上層施設、アテナイの側に来ていた。こんな近くまで来ていたのか、というちょっとした感動と同時にイセンは身体の後ろの方が冷えるのを感じた。
今から殺し合いに行くのに、上官に付いていくだけで周りが全く見えていないじゃないか。いつもこの男の後を追うだけではない。それは独り善がりの勝手な決心だったのか? 違う筈だろ。自分に言い聞かせる。
『そう。お前ら活きの良い奴の留守の番だよ。だが、黄昏はお出かけしても良いらしい』
先程より視野を広く持つイセン。先頭を行くサーマンが減速したのを確認し、素早く隣に付く。するとスラウの駆るインスヴァイトが追い付き、真ん中に位置取る。
『黄昏、あのインスヴァイトと励起する剣のことか』
『通達の際に指令が降りた。信頼できる乗り手に黄昏を渡しておけと』
スラウの話を聞いたサーマンは、彼の機体の腰部分に装備されている黄昏を引き抜き、自分の機体と馴染ませるように握り直す。サーマンのインスヴァイト、ギブノクスに武器を懸下する箇所は無いので、柄を手に納め前進を続ける。
『よし、行きますか』
『ああ』
サーマンの声に気を引き締めるが、並走していたスラウが今度はイセンの方へ機体を近づける。
『ちょっと待て、なんだ……スラウ中尉』
『ヨル中尉は今顔を出したくないようでね。期待してるよ、サーマンの跡継くん』
『俺が一体何を』
『置いていきますよ』
その一言と共にサーマンは機体を加速させる。今度こそ宣言通り置いてきぼりにされかねないので、急いで黄昏を受け取り、機体右膝の外側下部に収納する。いつもは小銃を装備している箇所である。
『スラウ中尉……サーマンは任せろ!』
『全く、調子が良いですね』
スラウとの別れ際、イセンが言い残す。これにはやれやれと頭に手を当てるサーマンだが、口元は微かに笑っていた。
今までにない異例の通信。気を張っていたのはイセンだけではなかった。サーマンとイセンは目的の宙域まで一直線に進んでいく。
『ここら辺は大分基地らしい天体が多いな』
進む毎に僅かではあるが、周りの様子も変わっていく。イセンの目につく小天体は、ただの岩の塊からステーションのような構造物を有するものが多くなっていた。
『この戦争の最前線といって差し支えないですからね』
『そこに緊急の救援とは、だいぶ切羽詰まっているようだな』
『SoSは守りの要。対してステイル少将自ら率いる第一大隊は攻めの要ですからね。気を引き締めていきますよ』
イセンはSoS隊長、リームの操縦するインスヴァイトを未だ見たことがない。しかし、スラウ、ヨルをまとめる人物と並び評される者が苦戦を強いられている。その事実は戦いの苛烈さを表すには十分である。
『光が見えてきたな』
『我々もインスヴァイト、モードCに移行させますよーー』
暗黒空間を彩る赤と青の光。二人がその中に混ざるべく機体を灯し、黄昏を励起させると、この戦場に新たな通信が入る。
『諸君、続々と援軍が集まるこの宙域に、我が軍の新兵器を持つ者が投入された』
『うお、何だこの声は!』
突然の事に思わず驚くイセン。
『第一大隊隊長ステイル少将です。戦闘全域への通信ですね』
『次の戦闘でノアの機体を叩き斬る様を想像出来ない者はいるか? 俺は出来る、この戦いを生きて返る。お前らも出来る筈だ。俺が連れていく』
敵は新兵器を所有している可能性が高い。先程の通告を思い出すイセン。サーマンとイセンが持つ武器は、ステイルが味方を鼓舞する切っ掛けとなった。
『イセン、大事なところですよ』
通信が流れている間も戦場は止まってはくれない。二人に接近する敵機が二機。どちらも獲物は近接のようだ。
『……サーマンこそ、討ち漏らすなよ!』
イセンの励起させた刀身が相手へ向けられる。程なく、敵機と交差する瞬間に戦いは終わった。インスヴァイトの装甲はイセンの刃を一切抵抗せず胴から背まで飲み込み、断面から火花を吐いて爆発した。
イセンがサーマンの方に目をやると、やはり勝負は着いていた。二人がこの戦場での最初の役目を果たすと、宇宙に散らばる青い光は明るさを増したように見えた。
『サーマン、さっきはご苦労。懐かしい顔が見えたから利用させて貰った』
乱戦の只中で一際強い輝きを放つ味方機が、僅かにイセン達の方へ顔を向けた気がした。その強烈な光に付近が照らされ、数多の敵機が散らばっているのを確認できるが、自ら発光している機体はいない。
『よく気付きましたね。スクラップがこんなに沢山……ご無沙汰してます。どうしてここまでの被害を?』
見たところ敵の規模はこちらと大差ない。しかし、ステイルの戦果を鑑みても、乗り手を失い漂っている機体はノアのものが二倍近くありそうだ。
『あれを……特に激しい交戦域を見ろ。敵エース級のレージとリアルだ』
『レージか……』
リアルと言うのはサーマンには聞き慣れないが、レージは以前戦ったことがある。機体の質量から来る大剣の一撃に、姿勢を崩した相手へ用いる大砲が特徴的なパイロットだ。
『見慣れない武装を周囲に停滞させているな』
機体の頭ほどの三角錘の装置が数個、敵機の頭から足先までを囲うようにくるくると回っている。
『どうやらパイロットが遠隔で操作しているらしい。先の戦いで相手が使用したデコイはこれの失敗作かもな』
ステイルが話しているのは、イセンの記憶に新しいバイルとの交戦のことだろう。インスヴァイトは人が接触しなければ動力が生まれないはず。だが、あの時も彼がばら蒔いた鉄塊は、確かにインスヴァイトと同質の反応を示していた。
『まるで惑星に追従する衛星だな。一つ一つの威力は低いが、収束した所をまともに食らえば一撃だ』
『あの二人を俺らで倒すのか?』
イセンの問いかけにステイルは笑って返す。
『いや、二人でレージをやれ。俺はリアルと戦う』
『大丈夫なのか?』
『あの兵器を持っているのはエース級だけじゃない。被害を抑えるためにも徹底して潰しに行け』
言い方を変えれば、イセンとサーマンが早く墜とせばそれだけ被害が減るということだ。
『一人くらいなら足止め出来る筈。約束したからな。俺が隊員を守る』
『本気だったんですね』
先程の通信はサーマンからしてみれば士気を上げるだけの宣言に見えたが、ステイルの声からは並々ならぬ気迫を感じた。
『まあな。そっちはよろしく、サーマンに後輩くん』
話の最後にステイルが敵機を銃で撃ち抜くのが見えた。その機体は武器を携えたまま、相手の旗機の元へ青い軌道を描いて向かっていく。
『イセン。戦闘開始です』




