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インターミッション13

 

 サーマンとイセンの会話はモニタ室にいたジャンダルムの面々、そして後から来たライの耳にも届いていた。


「ハハハ、彼の言いようだと順序を無視して謹慎になった人がいるみたいじゃないか」


 分かりやすく冗談を言うロシオンの横で、この状況にしばらく白い顔をしていたライが口を開く。


「ロシオン主任、もしあの機体の不備で少尉に何かあったらタダじゃおきませんから」

「もう僕じゃ何も出来ないし、今言葉にするより後に行動で示すべきじゃないかな。自分のためにはなるよ」


 少し剣呑な雰囲気を避けるように、ミライがモニタを眺めていると、打ち切るようにロシオンが続ける。


「それに、あの機体なら大丈夫だよ」


 ロシオンが指すあの機体、ギブノクスは前面こそ何の変哲もないインスヴァイトに見える。しかし、背部・間接部付近の加減速と機動性を補助するブースタが唯一無二の特徴を持っている。武装との干渉を考慮しその一切が省かれたわけだが、文字通り格闘戦において真価を発揮する。


『相手も武器なしとはいえ、あまり装甲で受けたいものではないですね』

『この……攻める気はないのか』

『今は受ける気でいますね』


 イセンの繰り出す右ストレートにはサーマンも横から右の掌を当てて受け流し、左腕での追撃が来る前に胴体部を蹴り飛ばして距離をとる。


『頭部以外はおざなりですが、何度も食らってると戦闘どころじゃなくなりますよ』

『足癖が良くないな。だが、今のを左腕で受けなかったのは何故だ』


 サーマンにイセンは純粋な疑問をぶつける。当然同じ側で受けた方が隙は少ないので、逆で受けて生まれた隙を消すために距離を離す必要もなかった筈だと思ったのだ。


『……当然のことですが、やはりインスヴァイト乗りとしては練度に欠けますね』

『この期に及んで言ってくれるな』

『私は機体の質量の増幅値が抑え目ですからね。払いのけて防ぎきれるか分からないんですよ。今のだって腕関節の推進装置がなければ危なかったかも』

『結構使いこなしてるじゃないか……』


 小言は挟むが質問には答えるサーマン。元々の間合いも含めてただでさえ彼に分がある勝負であるが、イセンも諦めない。


『逆に言えば、大きな隙を晒さざるを得ない状況を作ればいい訳だな』

『目的地が見えたなら、後は過程ですね。どうするつもりです?』

『一つずつ試してやる!』


 今度は先のサーマン同様蹴りを放つ。これは予備動作の時点でイセンの隙も多く、見切られて失敗。

 右腕を使い上から叩きつけてみるが、そのまま肩で受けられた。


『装甲で受けたくないとか言ってなかったか』

『効きませんし、そんな攻撃』


 多少体勢を崩したところへ正拳突きを繰り出すが、サーマンが姿勢を屈ませて当たらない。潜るように迫るギブノクスを見て、イセンは右手で突き放すように後退する。


『上を取ったときは警戒した方がいいですよ』


 サーマンの言葉の意味、イセンは避けた直後に身をもって体感した。


『伸びが違う……推進力か!』


 インスヴァイトの構造上、正面や上方への攻撃はブースタの加速を利用することが出来る。逆にイセンの攻撃は腕の振りのみに任せ、ギブノクスの装甲でも防ぎきれた。


『それならこちらも同じ手を使う!』


 加速を乗せて再び右手で殴りにかかる。僅かに機体のバランスが崩れ、咄嗟に上体を傾けたギブノクスの顔をかすめる。


『下手に動かなければ大丈夫かと思ってましたが、次からはしっかり避けなければいけませんね』


 終始ペースを握っているサーマンだが、イセンが狂いなく機体を動かしたことはサーマンにとっては誤算だった。絶対的に戦闘知識が不足しているのは間違いないが、想像以上に操縦技術は高まっている。


『あなたが地球で手に入れたライセンス、何人くらい持っているんですか?』

『俺とミライが持ってるやつのことか? 三十人程度かな』


 唐突な質問でイセンはあっけに取られるが、律儀に答える。地球ではインスヴァイトは普及していたとは言いづらく、乗る者も厳正な審査を通過している。言い方を変えれば、イセンやミライは地球で屈指の乗り手だったという訳だ。


『なるほど、中々なものですね』


 返事を聞いてイセンのウェンに接近するサーマン。そろそろ勝負を決めにかかる。それに合わせてイセンも距離をとるため背を向けて飛ぶ。


『スピード勝負なら負けませんよ』


 猟犬のように追い掛けるサーマンを視認するために、イセンは一回横に回転を加えた。前に失敗したバレルロールである。披露した時間は一秒にも満たないが、上達した腕前を知るには逆に十分である。


『無策で技術だけ覚えても活かせませんよ』


 このウェンの速度にはイセンも慣れていないはず。それに加えてあの一瞬で周囲の把握は不可能であると見越し、サーマンはイセンの次の動きを見る。もっとも、何も起こらなければ背後から頭部を穿つ。


『そろそろ終わりです』


 イセンの機体が横に傾く。すなわち再度バレルロールすることを選んだらしい。しかし、もう既に格闘の間合いに入っている。


『俺がこの機体を動かす感情は、焦燥感だ』


 ちょうどイセンの機体が半回転するタイミングでギブノクスのメインカメラの右側が黒く翳る。メキリ、と鈍い音が響き、次に視界が晴れたときには目の前からイセンのウェンが消えていた。


『何が……踏まれた?』

『策も技術も用意してきたということだ。お前のためにな』


 サーマンの後方、交差するように漂いながらイセンが呟く。一度目のバレルロールで狙いをつけ、二度目で仕留めたイセンの勝ちである。



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