インターミッション11
「サーマンがいなくなった隙に話すけど、この隊には馴染んでるかい?」
「最初に比べれば、幾分か」
聞く限り中々の性格であるが、イセン個人はロシオンに何かあるわけでもないので素直に返す。
「ここに配属になった理由は知らないけど、ジャンダルムにおける数少ない利点を教えてあげよう」
「と言いますと?」
なんとなくろくでもなさそうだと思ったので様子を見ていたら、通販のようにミライが乗っかるのでロシオンもはにかんで答える。
「えへ、僕の開発した物が自由に使えるってことさ。なんなら使ってみた感想も次に活かすよ。君の話を参考にする。興味があったら今度も来てくれると嬉しいな。イセン伍長もどうだい?」
「すまないが、しばらくは遠慮させていただく」
開発したものの使用者の意見を取り入れ、場合により反映する。悪くないことを並べてはいるが、つまるところ普通のテスターと変わりはしない。
「おっと、サーマンの準備も出来たらしい」
先程から話もそこそこでロシオンの新型に意識を傾けていたティラー。今の声が合図だったかのようにドックの奥、格納庫の方から低い音が響いてくる。イセンに確証はないが、大方カタパルトか何かで運んでいるのだろうと推測する。
『ーーオーケイ?』
『ええ』
ロシオンの方からやや機械的なサーマンの声が聞こえる。目をやると通信端末のような物を片手にやり取りをしているらしい。
『モニタのある部屋に行くから適当に動かしててよ』
『了解』
「と言うことで、場所を移すね」
ロシオンが脇の小部屋に歩きだし、周りもぞろぞろと付いていく。殺風景な灰色の壁と床に負けず劣らず質素な扉を開くと、部屋の上部に二箇所と中央に一箇所モニタが備え付けられている。
『この機体、武装がないようですがどうなっているんですか?』
部屋のモニタにサーマンを含めた周辺の景色が映る。相変わらず灰色と紺色の世界であるが、イセンはかろうじて光る何かが動いているのを認識できた。
『……え? すまない、想像以上の速度に見とれて聞いてなかったよ』
イセンも早速ロシオンがサーマンに聞き返すさまに突っ込みを入れたくなったであろう。もしサーマンの駆る機体を目にしていなければ。
「速いな……」
「これ、模擬戦でやった速度比べの時に乗ってたらぶっちぎりですね」
灰色のインスヴァイトは備え付けのモニタ越しには輪郭を捉えるに精一杯で、おおよそ正確な形を把握することも出来ない。藍色の機体の輝きが装甲下から噴出して、辿った軌道をなぞるようだ。
装備の荷重を取り除いただけで容易に実現する速さでないということは、目の当たりにした一同がこれまでの経験から感じ取るところだった。
『で、なんだっけか』
『武装がないんですってば』
しかし、当のロシオンとサーマンはいつもと変わらぬやり取りを繰り広げている。
『可動性と運動性が高いから、拳部マニュピレータでどうにかしてくれ』
『つまり?』
『頭と拳を使うんだ』
マニュピレータとは主に機械の腕や手にあたり、物を操作する部分であるが、そんな箇所で殴り付けたら故障しないかと心配になるイセンだった。
『貴方の代わりに私が頭を?』
『これまでの任務は自分で考えてこなかったのかい?』
横を見るイセンの目には険しい表情を浮かべるティラーが映った。二人の言い合いによるものなのか、素材強度への心配から来ているのかは全くもって謎だ。
「ロシオンさんはおいといて、あそこまで俊敏に動かせる操者は大分限られてそうですね……」
「ミライ、開発主任をおいておくな」
久々に保護者然とするイセン。一方ミライは機体をじっくり観察しているようだ。自分でこのインスヴァイトを操れるのか考えているのかもしれない。俺ならどうするか。イセンとしても考えずにはいられないところ。
「そういえばこの機体に名前は付いてますか、ロシオン主任」
「ギブノクスって呼んでたよ」
「成程? 改名したんですかね」
過去形なのが引っ掛かるイセンだが、そもそもどれくらいの期間を費やしたのだろうか。謹慎中と言っていたので長年基礎から設計まで、と言うことはないはず。
「新人伍長ちゃん達、周りと同じように敬語は抜いてもらって構わないけど」
「なんかまとめられたな」
「俺らもよく軍曹で纏められるぞ。主にサーマン少尉やミル曹長、ラック中尉にブリ准将からな」
ティラーの台詞を聞いてイセンもジャンダルムの関係者を思い返す。下から彼を含めライとファルーが軍曹で、一つ上には曹長の長銃使いミルミド、サーマン少尉より上となるとあまり戦闘には出撃しないラックワイトにブリディガル。
「……全員じゃないか」
「その通り。だれか昇格したら巻き込めるんだけどな」
「そもそも俺らは伍長だが、一体何をもって長なんだ? 誰も束ねてないぞ」
「それを話すにはまず今のジャンダルムの人手不足をだな……って、せっかくサーマン少尉が動かしてるんだし、集中すっか」
ティラーの言っていることはもっともだが、どうにもはぐらかされた感。
『しかし、武装がなくて正解だったかもしれませんね。衛星リング上で許可なく使用するわけにはいきませんが、ついつい魔が差してしまうかも』
『そうしたら僕も道連れじゃないか。立て続けはヤバいですよ。ホントに』
『ああ、一石二鳥ですね』
サーマンは相変わらずモニタに捉えられる速度で動く気はなさそうだ。そんなんでよく会話できるなと思うが、彼の言葉にロシオンも少し焦ったのか敬語が口をつく。
「話を変えちゃうんですけど、サーマンさん搭乗前に何も言わなかったんです?」
「いや、まあ特に言うこともなかったと思うけど」
ロシオンが少し不思議そうにミライの質問に答える。全然会話に参加していなかったミライだが、返答を受けモニタを見返し、真剣な表情でなにやら考えているようだ。自分とミライの意識の違いに少しイセンの心が曇る。
「やっぱり、この機体と戦ったことあると思うんですけど」
「へっ」
ミライの言葉にマジかよ、とこぼす前にロシオンの呼吸がつっかえたような音が驚きをさらっていった。




