インターミッション10
「ミライ君にイセン君ね。新人の噂は耳に入ってるよ」
「噂になっていたのに名前は知らないのか……えーと」
軽い自己紹介を済ませ、イセンが言い淀むと男は着ていた白いコートのポケットを探る。てっきり所属証なりを見せられるのかと思ったが、紙切れが一枚、二枚……三枚目を取り出したところでまた全てポケットに突っ込み、何もなかったかのように話し始めた。
「ロシオン開発主任と呼んでくれ。部下はおそらくこれからもいないけどね。ま、墜ちた噂が入ってこない新人ってだけでまずまずだよ」
「それで、今日は何しに来られたのですか?」
話を変えるようにサーマンが被せてくる。余所行きの声とはまた違うが、ジャンダルムの関係者相手にしては対応が冷たいな、などとイセンは思った。
「一つインスヴァイトを作ったからさ」
「良ければ乗ってくださいと? なんで毎回完成してから持ってくるんですか。設計の段階が飛んでますよ」
「だって一生許可出さないだろ?」
「当たり前ですよ」
最初の発言にイセンが驚く暇もなく話を進めるサーマン。部下はいないとの事だったが、中々の開発品だ。
「でも仕込み手甲は役に立ったらしいじゃないか」
「役に立つ立たないだけで決めてないので。あれはオプションパーツかと思ったら外れなくて大変でしたが」
「アタッチメントなら少し弄ったくらいじゃバレないね。何が変わったのか分からないのもアレだが」
いつぞやの戦闘で逃げる際に使ったらしいが、あれもロシオンが作った物だったのか。イセンは知らない間に機体が改造されていないか不安になったが、幸いウェンにはロシオンの手は加えられていない。
「RPGでありますよね、呪いの装備みたいな」
「よく今の流れで口を挟めるじゃないか……」
それなりに旧知の仲なのか腐れ縁なのか分からないが、捲し立てる二人の間に踏み込めずにいた中でミライが口を挟む。呪いの装備とはずいぶんな言い方であるが、物が物なのでイセンとしても下手に訂正もしづらいところだ。
「あの時は機体修理を頼んだのによくも改造してくれましたね」
「その件だけど、謹慎期間が終わったから宿舎に帰って来たらしいぞ」
今度はファルーがサーマンに伝える。ミライの一言で幾分か周りも口を出しやすくなったが、まだサーマンも止まらない。
「謹慎って闇インスヴァイトを開発する期間じゃないんですけどね」
「人が頑張って作ったものをまるで違法品みたいに言うねえ」
「頑張って違法品作ってただけじゃないですか」
「なんか思ったより険悪な雰囲気だが、毎回毎回サーマンもよく搭乗するな」
取り外せないアタッチメントについてはどうしようもない気がするが、文句を言いつつ試運転はしてると踏んで、イセンも軽く話を振ってみる。
「前までは任務も少なかったので。あと、最近は調子に乗っている節がありますよね、ティラー軍曹?」
「あ、俺に聞くのかよ。そうだな……ようやく自分の作ったものが実戦に出るのは確かに嬉しい」
望まぬパスを受けたティラーだが、最初はロシオンのフォローに回る。しかし、サーマンが怖いので口早に切り上げ、先を続ける。
「でも、やりたいことを何でも試すために開発しているんじゃなかったはずです。サーマン少尉の言うとおり、もう少し控えた方が良いと思います。パイロットありきだしな」
「でも、多分これからはあまり使わないですよね」
ティラーのちょっと良い話に不穏な補足を入れるミライ。それによりロシオンの顔が僅かに曇ったが、気付いたのはサーマンくらいであった。
「まあTM11が配備されれば仕込み手甲に頼ってる場合じゃないですね」
「11? 僕が現場にいたときは0番台の開発段階だったのに……」
ティラーは少し興味が湧いたのか、僅かに身を傾ける。
「ま、今までご苦労様でした」
「いや、まてサーマン少尉。今日持ってきたインスヴァイトに乗ってくれよ。自分でも一通り動かしたが、全く力が引き出せなかったんだ。ライ、頼む」
ロシオンが親指で自分の背後を指し示す。奥の方で照明が灯り、一同の視線が注がれる。
「確かに10メートルくらいか? えらく小型の機械が置いてあるな」
一般的なインスヴァイトと比べて半分ほどの高さしかないそれに対し、目をこらしていたミライはあることに気付いた。
「あの機体、クラウチングスタートの姿勢じゃないですか?」
「ああ、右膝を立ててしゃがみこんでいるね……やっぱり直立で着地するのは難しいなあ」
自分が乗り込みインスヴァイトが動いていた時を振り返るロシオン。機体の操縦はお世辞にも上手いと言えるものでは無さそうだが、どこか満足げな表情をしている
「歩行はできないのに姿勢は制御出来るんだな、ロシオン主任」
「どっちもできなきゃこんな半端に乗り込まないんでしょうけどね。さて、私に任せてくれればこの機体も格好よく待機させておきますよ」
サーマンもまだ見ぬ機体に血が騒ぐのか、品定めするように目を見開いている。相変わらずロシオン相手には対応が冷たいが、ロシオン本人は乗り手が決まって喜んでいる。
「このシャープなフォルム……相変わらず良い見た目の機体を作りますね。ただ、どこかで見たことある気がするんですが」
「こんな独創的な機体が三つも四つもあるわけないよ。とりあえずさっさと乗り込んでくれ」
どこか引っかかる言い回しをしつつも、ロシオンに促されサーマンが奥へと進んでいく。




