インターミッション9
「お疲れさまです、今日のところはこれで以上となります」
サーマンよりさらに少し遅れてリーム大尉がやって来た。特に問題は見つからなかったようで、荷物を背負って帰る準備に入るジャンダルム一行。
「いつもの我々ならそろそろ襲撃される頃合いだな」
帰りの通路にてブリディガルが不吉なことを口走る。イセンも全く同じことを切り出そうかと思っていた所だった。
「流石に衛星施設はこちらの中枢の内の一つですからね。そうそう襲撃されることもありませんよ」
「全ての施設を合わせても、被害を受けたのは一回だけだ」
母星から数万キロの位置にある都合で実感は湧きづらいが、この場所はノアにとっての最終防衛ラインである。そもそも母星にあまり馴染みのないイセンでもなんとなく理解していたのだが、今までの運の悪さが勝るのか、さすがにそんなことはないのか。
「イセンにミライ、帰りに寄るところはあるか?」
「寄るところですか?」
「特に詳しくないですからねー。よく分からないです」
四輪車両に乗り込む前にブリディガルが確認を取ったが、それもそうだな、と一言残して別れる。残ったのは行きと同じくティラー、イセン、ミライのジャンダルム新参組である。
「帰りも飛ばします!」
「行きは生きてましたね」
「そりゃ移動の度に使ってますし。せっかくなのでミライさんも運転します?」
「それじゃやりますか!」
ミライは断るかと思いきや、いたって普通に運転席に乗り換える。急遽運転手が交代することとなったが、イセンも特に言うこともないので後ろから見守り、今日のことを振り返る。
「ファルーさんの代わりに飛ばしますよ!」
「いざとなったら補助ブレーキを踏んでくれ」
「教習車じゃないんですから……」
上半身がわずかに仰け反った。ミライが車両のアクセルを踏んだらしい。
今日はサーマンもそうだが、ファルーもよく戦っていた。ウォードとはサーマンとミライと共に交戦したが、あの時自分とミライが他の敵を足止めしていれば良かったのかもしれない。曹長のミルミドを含めた彼ら三人で立ち向かえば勝てる相手だった。
サーマンには勝てなかったとしても焦る必要はないと言われたが、もしかすると足手まといになるなということだったのか。
「イセンさん、着きましたよー」
「うーむ、返事がないですね。それにしても、私の自己ベストを越えるとは、ミライさんも隅に置けない」
ジャンダルムの基地に帰り、車両を機体ドックの横につけて停まるミライ達。一足先に着いていたサーマンが近付いてきた。
「ファルー、何をしているんですか」
「え、特に悪いことはしてないですけど」
サーマンに名指しされたファルーはギクッと体を強張らせ、思い当たる節を考える。
「わざわざミライに操作を教えたのか?」
ブリディガルが軽く問う。どうやら運転手に関して気になったらしい。
「いや、なんか普通に運転してましたよ」
「ええ……」
サーマンの口からなんとも言えない声が漏れた。一連のやり取りをしている間に、反応の薄いイセンのことが気になったのか頭部を叩く。髪の毛をくしゃくしゃにしたかったのだが、船外服を着ているために手が出せない。
「ん? サーマンか」
「考え事ですかね。上の空でしたけど」
「上の空……まあ、そうだな。だいぶ高度は高いな」
「宇宙ジョークですか。言うようになりましたね」
「何の話だ」
いつものように軽口を叩いているサーマンをあしらっていると、ファルーが建物から出て歩いてくる。どうやら中に来てもらいたいらしい。
「ちょうど帰ってきてくれたな。サーマン少尉……だけでいいか」
「いや、イセンさんとミライさんも顔合わせくらいしてもらいましょう」
サーマンの返事により二人とも着いていくこととなった。もっとも何があるのかさっぱりだが、顔合わせと言うからには誰かと会うのだろう。
「今度はどこの人だ? この隊に縁があるのなんてそういないんじゃなかったのか」
「お二人に一つ。今回のヒントはドックで会うというとこですよ」
「整備士ですか? でもライさんとティラーさんでなんとかやってるような」
イセンも適当な相づちを打ちつつ考えた。機体の損傷具合から追加人員が来たのかとも思ったが、それならわざわざ顔合わせすることが不自然に感じる。そもそも本隊がそんな人員を送ってくれそうもないので、結局口に出すことはなかった。
「割と惜しかったですね。多分いるのは装備開発の方ですよ。ジャンダルム専属のね」
「専属で開発者がついているのか? 一周回って逆に怪しいな」
「いえいえ。装備の実験をしたくて他の隊をたらい回しにされたとかそんなんじゃないんで安心してください」
「おい、早く来てくれよ」
サーマンが問題の予感をひしひしと漂わせつつも、ティラーから促されたのでそれに応じるミライとイセン。他のメンバーはいつの間にか宿舎へと引き上げていた。
「また室内か。着脱が面倒だな」
「別に面倒なら脱がなくてもいいですけどね」
イセンが文句を言いつつ船外服をバックパックにしまう。服の収納が可能な推進装置なのだが、どうにもランドセル感が拭えないためイセン本人はあまり好きではなかった。
「さて、挨拶に行きますよ。あそこでライと話してますね」
「え、あの人ですか?」
サーマンに促された先には黒髪の好青年が映る。開発者というと職人気質の年長者というイメージがあったので、これは少し意外だった。
「どうも、サーマン少尉に見慣れないお二人さん。今後ともよろしくね」
男性は愛想よく対応してくる。ただ、二人に目線は合わせてくれない。というよりこちらの立ち振る舞いを観察しているのか、どうにも視線の先に自分があっていないような感じがする。
「イセン・シュベルクだ。階級は伍長。今後ともよろしく」
形式的な挨拶をしつつも、一癖ありそうな奴だと思うイセンだった。




