インターミッション8
「准将、今日はこの後何をするのですか?」
「開発部とリーム大尉が戦闘記録をチェックしたら終わりだ」
「承知した……我々は何をしに来たんだ?」
「私は出撃予定のない新人を軽く見学させようと」
「自分は戦いが呼んでいたので」
確かに戦闘の見学はしていたが、今立っている軍事施設に関しては少し勉強不足のイセンだった。少し今日の出来事を頭のなかで振り返っていると、不意にミライが口を開く。
「アテナイでしたっけ、この建物ってPCPが所有しているんですか?」
イセンやミライはもちろん、ここに入る全員が所属している組織がPCPであるが、ノアの軍事組織ということくらいしか二人は知らない。
「そもそも戦争の前から……軌道リング? 衛星リング? 我々が立ってるデカい輪っかは存在していたのか? 戦時にこんなもん作れるとは思わないが」
「確かにそれよりは前からありましたね。隊員用の宿舎等は無かったですが」
「ついでに言っておくが、こっち側の区画はPCPが所有している」
最初の質問に准将が答える。イセンはここに着いた時、研究施設は別の区画にあると言われたのを思い出す。どうやら管轄はいくつかの組織に分かれているらしい。一体どのような組織があるのか気になったが、あまりに色々聞くと全て忘れて帰りそうな予感がしたので深掘りは控える。
「PCPは避難救助の方が専門で、外敵もいないでのんびりやってたんですけどね」
「今となっては軍事組織だ」
イセンは宇宙で救助活動でもするのか? などと思っていると、不意に部屋の自動扉が開いた。サーマンが来たのかと顔を向けるが、真っ先に見慣れぬ服装が目に入ったためファルー達に視線を戻す。と、周りが敬礼の姿勢を取っていたので慌てて動きを合わせる。
「あー、ウルーニイ少将。来られたのですね。もう戦闘は終わりましたが」
ブリディガルが少し間延びした声で入ってきた男性に応じる。少将と言っていたが、隊服で少々見た目を取り繕ってはいるが、あまり品があるようにも見えない。あら探しをするように少しの間付近の人物を見回した後、ようやく口を開いた。
「そうか。まあ逃げる暇もなかったと言うことだな。結構なことじゃないか。役目が終わったならさっさと帰ればよろしい」
この男の失礼な物言いになんと返そうかと咄嗟に考えを巡らせるイセン。この時、黙ったままでいようという選択肢もあったが、すっかり抜けていたくらいには熱くなっていた。
「お言葉ですが、ウルーニイ少将でしたか。一切ご覧にならずにーー」
「でしたか、だって? ジャンダルム隊は随分田舎から寄せ集められた部隊なんですなあ。さぞや倒し甲斐のない相手だったでしょう」
「少将、あまり対戦相手のことを蔑むべきではないですわ」
「いやね、私はいくらTM11の量産化体制が整ったと言っても、こんな部隊に渡せば猫に小判だと言いたいんですよ。元々それなりの実績を持つ隊から配備していく予定だけど、いやあ無駄な投資はしたくないなあ」
先程はやる気のない応対をしていたブリディガル准将も、険しい目付きでウルーニイを見やる。当の本人は全く気付いてないようで、ヨル中尉の言葉も聞かず悠長に話している。
「なるほど、確かに無駄な投資でなければ良いですね。例えばSOSに匹敵する隊には最優先で回すべきだ」
「ま、あなた方には縁のない話ですな」
ウルーニイがひとしきり喋り終わると、准将は渇いた笑いをしてみせる。彼がこれ以上喋る気配もなかったので、今度は彼女から切り出した。
「ところで、まだお伝えしてませんでしたね」
「話すこともないだろう」
「うちのサーマンが模擬戦でスラウ中尉を先に討ったのですが、まあ話すほどのことではないか」
これはさすがに予想外だったのか、声も出さず目を丸くする。我に返ると、彼の目の前には誰もいない。ブリディガルは他の隊員と雑談をしているようだ。
「……今の話は本当か?」
「はい」
ヨルの返事を聞くと、ウルーニイはそのままフラフラと部屋から出ていってしまった。実のところ、近くに用事があったため部下を褒めるつもりで立ち寄っただけだったのだが、今さらそんな余裕は残されてない。
「お疲れさまです少将……もう聞こえてなさそうだ」
「なんなんだ、あいーー」
イセンの言葉は自動扉が再び空いたことにより途切れた。精神的にもえらく早いお帰りだと思ったが、今入ってきたのは見慣れた顔だった。
「サーマン! 一部始終見させてもらったぞ!」
「さっき魂が抜けたようなウルーニイ少将を見ましたが、何があったんですかね。あれじゃインスヴァイトも動かせなそうですよ」
「勝手に落ち込んだだけだ」
と言ってもこのままでは話がさっぱりなので、准将自ら簡潔に先程のことをサーマンにも説明する。
「でも、口約束でTM11が支給されますかね」
少々不安そうなミライに対してブリディガルが口を開く。
「そもそもそれに関して奴が口を出す余地はないと思っている。戦闘記録は取っているし、我々の実力は示しただろう」
言われてみればそうなのだが、と考えているとさらにブリディガルが続ける。
「ただ、あの場で奴の言質を取ったように見せる必要はあった。なぜなら……」
「なぜなら?」
「傲慢な上官殿の鼻っ柱を折るためだ」
准将は今度こそ心から笑ってみせる。




