インターミッション2
イセンがファルーと共に宿舎外のドックへ足を運んでいた頃、サーマンはブリディガル准将の部屋へと向かっていた。
「失礼します、准将」
扉を開くといつも通り椅子に腰掛けているのが目に映る。サーマンが足を踏み入れ、後ろのドアが閉じられると話が始まった。
「来たか。まずは機体の修理予定期間を教えよう」
「どうぞよろしくお願いします」
柔和な笑みでやや大仰に一礼するサーマン。しかし、上司は上司でなんとも思ってないのか、部下が特に何も考えてないことを知っていてか、特に動じず話は続く。
「約二週間とのことだ」
「長いですね……いや」
「ああ。損傷具合と動員人数を考えれば寧ろ破格だ。しかし時間は持て余すだろうな」
「私ぐらいになれば生身で十分ですよ」
ところ構わず口は軽いサーマン。思わず准将も一瞬あきれた顔を浮かべたが、話が進まないので深掘りはしなかった。
「馬鹿言うな。お前の機体以外は調達も容易な点から支給を待って出撃する手も考えた」
「結局どうなったんですか」
「ある隊が新たな近接武器の運用テスト中でな」
「まさかこの時期に模擬戦なんて言うんです? 実戦に投入すれば良いじゃないですか。新旧構わず武器なんて壊れるし壊されるし」
そんな余裕ないでしょうと言いたげだが、ある意味当然の反応とも言える。もしここにファルーやミルミドがいたなら同様に難色を示していたであろう。機体や隊員ならともかく、ただの武器のために戦闘で試運用と言うのは前例がない。
「ところが今回はかなり気合いが入った代物なんで、そうもいかない。開発コードはTM11」
「いや分かりませんって。任されてるのはどこの隊ですか?」
珍しく嫌な様子を匂わせつつ、話を聞き出すサーマン。もし無名の新設隊のような所と戦うのなら願い下げなので、承諾する前に質問を投げる。
「通称SOS。惑星軌道隊だ」
「あそこが模擬戦を? 衛星の防衛は大丈夫なのですか」
「軌道上での模擬戦だしな。不測の事態には肩を並べて戦うことになるぞ」
「それもそうですね。こちらが軌道エレベーター上部でウェン五機を借りてくるなら、中々の戦力にはなりそうですし」
「今回借りるのは二機だけだ」
ジャンダルムは人も増えて、いつの間にか五人いることが当然だと思っていた。しかし、一般的に……ノアの正規軍PCPとして考えれば、色物部隊の新参二人と選りすぐりの精鋭隊との模擬戦は時間の無駄と考えるのが妥当だろう。
「自分で言うのもなんですが、私以外の指名は誰でしょう……と言うか指名されたパイロット二名が戦うって認識でいいですよね? ここまで言って誰でもいいから二名とか言われてたら恥ずかしいんですが」
「うるさい。指名されてるから安心しろ。お前とファルーだ」
指名されるとしたら自分の他にはミルミドとファルーの二択だと考えていたサーマン。本部がイセンとミライをどう思ってるかは分からないが、戦時中にどこの誰ともわからない新人兵士を評価する気も暇もない筈である。
除外された二択を除いて考えれば、サーマンの相方にミルミドを含めると一般的な前衛後衛の形……はたまたファルーと組むと近接戦闘に特化した形となるが、今回のSOSは近接特化のペアがお好みのようである。
「まあ私が入ってればいいんですけどね。はい。……その指名はSOSによるものですか? それとも本部が?」
「流石に知らん。だが、指令の元は現SOS隊長、リーム・ローレライ大尉からだな」
拠点防衛の中核を担うSOSだが、その元は各隊の実力者が統率されて結成した混成部隊だ。各々が戦場で培った経験から、再び実力を披露しようと目論む隊員達。それを現在統率するリーム・ローレライは四代目にしてSOS隊長初の女性操者である。悪目立ちする暇な部隊だと思われているのか定かでないが、白羽の矢が立ったわけである。
「それもそうですね……記念写真とか撮って来ようかな」
「お前、意外と節操がないと言うか、すぐ浮わつきやがって」
少なからずそわそわしているサーマンにどことなくもどかしい思いをぶつける准将。当の本人はすっかり乗り気になっている。
「それでは、ファルーと二人で行ってきますね!」
「言い忘れたというか、何やら誤解しているようだが他の面子も同行するぞ」
「そうなんですね。イセンさんとミライさんは世間知らずと言うか、ギャップがあるせいで心配だな……」
ちょうど今宿舎の外にあるドックでは、イセンがギャップを埋めようとティラーと話している頃合いである。
「引率の先生になってるじゃないか」
「そこまでの差はないですよ。せいぜい上司と部下か、先輩と後輩くらいのもんです」
「そうか。じゃあ後輩たちを含めた操者組と中尉にはかいつまんで伝えておいてくれ」
「承知しました。いつ集合ですか?」
「20時間後に広間で頼む」
ブリディガルが下がれと言う前に一礼し部屋を後にするサーマン。部屋で一人になった後また扉が開かれないか少々様子を見ていたが、人の気配もなさそうなので椅子を立つ。部屋の脇まで歩いてきてクローゼットを開けると、並んでいる派手な赤いコートの内一つを取り出した。
「この服の初お披露目だな……我ながら良い品に出会ったものだ」
幾度となくコートを羽織り部下に感想を聞くも概ね不評の准将だが、ミライとイセンという異星の二人には見せたことがない。彼女は彼女で今回こそ良い評価が貰えるのではないかと内心期待して集合までの時を過ごす。




