インターミッション1
衛星モノにて機体のドックを訪れたイセンとファルーだが、入って正面には輝きを失ったインスヴァイト達が横並びに整列している。足元には機体の外見について語るライとティラーも見えたが、宇宙服は着ていない。室内は生身で良いのだろうか。
「見れば見るほど厳つい損傷の仕方してんなー、これは評価高いわ」
「微妙に首の左下を穿たれているのが気になるが、ど真ん中でも収まりが悪いか。……地球人の気配!」
ライがイセンに勘づいて振り向いた。久し振りに会うが、相変わらずイセンとミライのことは気に入らないらしい。
「おはよう。二人揃って何の話をしてるんだ?」
「決まってるだろ地球人、修理予定の機体たちの芸術点コンテストだ」
「ん? あまり会わないから名前を忘れたか? イセン・シュベルクだ。毎回やってるのか、それ」
「……イ、セン。複数機故障しているなら開催される」
まるで聞いたことのない言葉を反芻するように名前を口に出す。ある意味その通りではあるが、その様子が微妙にティラーのツボに入ったらしい。
「なんじゃそりゃ。初めて言葉を知ったような言い方だな。まあ特に外傷がなければ長剣潰して帰るファルーくらいしか見所……修理箇所ねえからな」
「修理といっても大体いつも交換だ。あれで耐久力に優れてるシリーズなのが笑えてくる」
「で、どうする? ファルーの機体は。まるごと廃棄するか?」
「いや、使えるところは使う」
ライとティラーによる整備屋談義が始まってしまった。イセンが横を見ると、ファルーが機体の方へ歩いていくのが見えたので後を追う。
「やっぱり半壊した機体の断面は綺麗です」
「その好みは分からんが生きてて良かった」
「よく見るとまた剣が鞘に収まってないな」
「ティラーとライのウケが良いんですよ。この前は意識も剣も手放しちゃいましたが、両方取り戻しましたよ」
「わざわざ拾ってきたのか」
思い出されるは増援に駆り出された直近の任務だった。あの時に結局イセンの銃一挺は光に飲まれてしまった。
「そう言えば、ファルーもサーマンも全く銃器を使わないよな。理由でもあるのか?」
「自分はあまり得意じゃないので……散弾式のとかあるんでしょうかね」
「割といろんな武器があるんだな」
「近接も短剣長剣以外もありますよ。サーマン少尉は旧機体の手指の部分……マニュピレータが銃を握れない構造だから使ってないのかと思いますが、本人に聞くのが早いですね」
イセンの方は何気に為になる話は聞けたが、まだティラーはサーマンの機体についてライと奥で色々しゃべっている。
故障箇所を見る二人の表情は険しく、芸術点を稼ぐことは難しそうだ。意外と点検も兼ねているのだろうか。
「ま、自分の機体も廃棄されないらしいんで、散弾銃の話を聞いて帰りますかね」
「あ、分かった」
満足したファルーが整備士二人の元へ歩いていく。付いていきそびれたイセンの目には、自分の乗っていた機体が目に映る。機体が損傷を受けているのもあるが、各々のインスヴァイトを見分けられるようになってきた。
「元気してたかよ……俺の……ウェン……えー、名前はなんでも良いか」
インスヴァイトに話し掛けるイセン。当然だが返答はないためデカめの独り言になった。もっとも、誰かに聞こえてる状況でこんな言葉は投げ掛けなかっただろう。
「お前が道具なら力を貸してくれ。そうでないのなら……」
冷たい足部を宇宙服の上から触る。出来ることなら殺し合いたくは無いが、戦争に託つけて人殺しをしようというのはウォードと変わらないのだろうか。
「よっ……答えを示してくれた後に話し掛けた方が面白かったか?」
「ぬおっ! ティラーか……ここも宇宙服はいらないようだな」
「なんなら外も携帯酸素があればどうにかなるぜ」
「ホントか? お守りかなんかではなかったのか」
思い出すのはサーマンから持っていてくださいねと渡されたペットボトルサイズの缶。持ち運びづらいため、最近捨てようか少し悩んでいた。
「衝撃で小銃が壊れたんだっけか。重いし取り回しも少し悪いが、少しゴツい小銃もあるぞ?」
「いや、今までので何とかする」
歩いてきたのはティラーだけだったらしい。ライとファルーはいつの間にか居なくなっている。
「そう言えばライはなんで地球人を毛嫌いしてるんだ?」
「初めて会ったのがサーマンを撃ったファクテムだったからかな?」
「その点は普通にご迷惑をお掛けした」
「一緒の部分があるのを良いことに、都合良く解釈してなんでもかんでも同一だと思い込むアイツにも問題あるよ。気にしないでくれ」
ティラーは辺りを見回すと懐から煙草を取り出す。今いない二人は嫌煙家なのだろうか。
「我らを極悪人だと思うことはライにとって都合良いのか分からないが、そう言ってくれるとありがたいな」
「戦争もそうだ。会ってしまえば目の前の敵と戦わないわけにはいかない。悪いか悪くないかは別問題だが」
ティラーがイセンに煙草を一つ渡す。もちろん渡されたそれを口に持ってくのだが、途中でヘルメットに阻まれて頭部に軽い衝撃が走る。
「まだ宇宙に慣れてないか? 案外争うときは相手が悪いって経験則で、自分は悪を討っていると思ってるやつもいるぞ?」
「悪いから争うのではなく、争うから悪いのか。泥臭いな。恣意的な経験則だ」
「スパゲッティの茹で加減は食べてみないと分からないって言うしな」
「すまん、それは初耳」
「PCP内のジョークだしな」
イセンは火のついてない自分の煙草と、ティラーの咥える煙草の先を見て思いに耽る。正直ウォードと自分の行いに大差はないのかもしれない。しかし、奴が生き、自分が死ねば他の仲間を守れない。それは嫌だ。どうにもならないなりに、意味を見つけて戦いたい。
「あ、そうだ。嗜好品の調達の仕方を教えてくれ」




