ブラインドスペース8
ジャンダルム隊が追加の任務に備えて機体の整備を行っていた頃。ヌーフのエース級であるバイルとロウンの二人組は軽い報告を無線で行った後、衛星に帰還し機体を外から眺めていた。
「マジで危なかったですね、ロウン中尉」
「本当にな。まさか命を救われるとは思わなかったよ。感謝している」
ロウンの機体頭部を狙った射撃を代わりに受けたバイルの機体は右腕が損傷していた。当人は特に気にしていないが、ロウンには少し気になった。
「ま、部下の命を守るのを二番目に優先してますから」
「部下ねえ……さっきの任務ではそう言うことだな。宿舎に帰るか」
一番目はなんなのかは置いておき、機体から離れていく二人。これでもいつもよりは喋っていると言うのはバイルの所感である。
「そう言えばお前、なんで頭部に射撃が来ると分かった?」
「不意討ちなら胴体か頭部しかないですし、胴体なんか狙われたらどうやっても守れんですよ」
宿舎に帰る前に煙草を一服しておきたかったが、しょうがない。考えてみると同格の操者と出撃するのはバイルにとって多くないことだった。
「にしてもあの新兵器というかガラクタ群、役に立ってたんですかね……追撃は来なかったが」
「案外研究が進んでて、あれは初期の試作品とかかもな」
「その通りならば、俺らは本当に見せて問題ないガラクタを持たされたって訳ですかい」
「斥候にほいほい新型兵器は持たせられんだろ」
宿舎内に入ると早々に宇宙服を脱ぐバイル。対して待つつもりはないのかロウンは速度を落とさず先に行く。
「待ってくださいよ中尉殿。簡単な報告は済ませたし、あっさい任務でしたが」
「一応交戦しただろう」
走って追い付く時にはマナケル少将の部屋の前だった。バイルは先んじて扉の取っ手を掴み、息を整える。
「どうした」
「ちょっと……喫煙と運動不足が祟りまして……」
一度深く息を吸い、扉を開ける。
「失礼します、マナケル少将」
「ノックぐらいせい」
「あ、ハハ……」
初対面であれば機嫌の悪さをあらわにしているとしか思えない少将の表情だが、慣れた二人からしてみれば特に気にしている様子には見えない。
「バレたときは中々ヒヤッとしましたが、一応は使えましたよ、あの廃棄……投棄物」
「バイル中尉、その言い方はフォローになりません」
「あー、ちなみに回収は出来ませんでした」
「まあそこら辺は気にしなくて良い」
「まーた宇宙ごみが増えるな」
ロウンが溜め息を漏らす。バイルにしてみれば、初めからゴミになるくらいなら爆発でもさせておけといった感じ。最近は少し目につくデブリが増えてきた。異星人から見たらこの辺りはさぞ汚く映るだろう。
「最後に、今度リアル中尉が試験機を運用する。問題がなければ教育隊にも回す」
「なんであいつが? なんでしょうかマナケル少将」
心の声がほぼ漏れた後に気持ちフォローが足される。
「現行の機体向けに作っている都合、量産機と同じ構造のが良いのだ」
「その次に教育隊ですか。まあ爆発しなければ良いんじゃないですかね」
「その教育隊だが、先程ノアの増援と交戦しているとのことだ」
「言って良いやつですかい?」
「隊長なら権利はあるだろう」
ロウンは出撃した宙域の付近に副隊長率いる部下たちが出撃していたことを思い出した。増援と言っても交戦しているなら十や二十の規模ではないだろう。増援に適した数人で構成される隊には一つだけ心当たりがある。
「その敵の部隊とは過去に戦闘経験はありますか?」
「ああ、いや……情報は来ていない」
「成程。少将、報告は終わりましたので失礼します」
少将にかまを掛けて反応を伺うロウン。僅かに言い淀む様子から、結論を断定し部屋を飛び出して行く。読みが外れたら隊員達が驚くだろうか。わざわざ駆け付けるなんて。私はバイルと違って部下思いではないから。
「制止した方が良かったですかね?」
「まあ、間に合わないだろう。色々と」
「じゃ、私も一服しようと思いますのでーー」
「少し待て」
「はい?」
不意に呼び止められて少し上ずった声を出すバイル。わざわざ言葉を制して掛けてくるとは、少なくとも物事が一段落した際の喫煙よりは大事なことなのだろう。
「奇襲を受けた際、何故自分ではなくロウンに射撃が来ると分かった?」
「将校の勘ですかね……」
「ハハッこやつめ」
お互い談笑しているようではあるものの、全く目が笑ってはいない。バイルが煙草に火をつけるのはもう少し後の話になりそうだ。
「宇宙服を着たままで良かった。ロウン・スクーシュ、再出撃する。急で済まないが整備は後で頼みます」
いつもの新型トロップに乗り込んで腕を組み、応答を待つ。
「一応動くと思いますが、メインカメラがガタつくかもしれませんよ」
「了解。行きます」
再び飛び立つ機体。
「交戦宙域が作戦時から変動していなければこっちか」
『ロウン中尉、今どこーー』
『すまんな、無線の通信限界だ』
隊員内で通信を使っているのならそろそろ繋がるだろうか。
『ーーまだーー味方機ーーファレム副隊長ーー』
途切れ途切れではあるが、聞き覚えのある声をロウンの耳が拾う。隕石帯をくぐり抜けつつ、狙撃銃を腕に携えて推進を続ける。
「撤退するーー」
副隊長の声を聞き、ロウンも人知れず足を止めてスコープを覗く。
「ジャンダルム……いや、味方のために援護射撃を送らなければな!」
瞬くようにインスヴァイトが輝き、光線を撃ち出す。直後に機体の発光も収まり、再び宇宙の闇に同化する。高熱を帯びた銃口だけが僅かに赤く焼けていた。
「ーー隊長、戻られたんですか?」
「まあな。生き残りは何機だ?」
「三機です。また数が減りましたよ」
ロウンが機体のモニタを見やると、いたるところにノイズが発生している。ガタつくとは言われたがここまでとは。まるで戦闘に参加していない身ではあるが、生存者と合流した後先導を隊員に任せて再び帰還する。




