ブラインドスペース7
「悪くない成果だ。いっそのこと破損してれば追加で動くこともなかったんだがな。今のところ実働隊を総動員して報告する理由は見当たらないな」
「話のトリまでお待ち下さい」
「任務報告に起承転結を取り入れるとは恐れ入る」
てっきりこのタイミングで苦情が入ると思って身構えていた准将だが、空回りしてしまったようだ。最後に文句言われて退室されたら流石に凹みそうなので、やめて貰いたいところ。
「まあ、思いがけないことがあったので転が生まれましたけどね」
「じゃあ聞こうか」
「えー、結局味方機は二機生存、敵は十機中三機生存です」
「うちで何機落としたんだ?」
「五機です。なんやかんやで私は左腕が動かなくなり、ファルーは中破と大破の狭間を漂い、イセンは右手の銃が故障し左手の銃は紛失したので、もう焦りましたね」
羅列してみると広く損害を受けた一行。戦いの最中は余裕がなかったが、修理の方も大変そうである。
「一個前の戦いから右手の銃が故障していたかも知れん。使い方が荒すぎたようだ」
「よく相手を抑えられたな」
「で、ここからなんですが、敵が撤退した直後に高出力のビームがかなりの精度でレーダー外から放たれまして。視角で捉える前にミル曹長が反応してたんですよね」
「あの案件か」
ブリディガルが机の引き出しを開けて何かの資料を取り出す。右手にはペンを持ち、左手で資料を眺めて続きの言葉を待つ。
「規模はミルミド曹長とファルー軍曹の二人ですかね?」
「自分は特には」
「私もあやうく消し炭になるところだったな……」
「で、二人は何で勘付いた?」
「なんで……ですかね」
「戦闘中にメモ取れれば良いんですけど」
適当に相槌しながらペンを動かす准将。
「あと、相手も」
「別に全員で来なくて良くないか?」
「まあ、何か気になることがあったら、こうやって報告しましょうねーってことで」
サーマンはイセンとミライを見て話す。准将はさっきとうってかわって施設見学の案内を待ち受けていた気分になる。もしかするとまだまだ意外なところで教え抜けみたいなものがあるかもしれない。
「そういえばうちの施設、めちゃくちゃ見学の人気少ないですよね」
「懲罰部隊ジャンダルムってもう名前からダメじゃないの」
「特撮ヒーローみたいでカッコ良くないですか?」
サーマンも似たようなことを思い出したのか、軽く話題が逸れる。
「そうだな。とりあえず報告終わったんなら自由解散で」
切り上げたもののどことなく腑に落ちない感情もあるが、こちらだけなのだろうか。ぞろぞろと人がはけていく。
「見学ツアーはお開きみたいだが、久々に祝杯でもあげようか。私は特になにもしていないがな」
一週間経たずに宴会が開かれるジャンダルム宿舎。もっともブリディガルは前回参加していないので、久々なのは確かである。
「イセンさん、この後どうしますかね」
「私は寝る。そこそこ機体がぶっ壊れてるし、しばらく休めると良いが」
イセンとミライは同室なので一緒に廊下を歩いていく。
「言うほど久しぶりの帰宅というわけではないが、戻って来れて良かったな」
「ようやくこの場所にも慣れてきたところですからね」
「掛け布団にも愛着が沸いてきたわ。しかし煙草のような嗜好品はどうやって入手してるんだろうな」
「吸うんですか?」
「いや、煙草は吸わん」
「見学で聞きそびれましたね」
「明日にでも聞いてくるとするか」
イセンは床に就き目を閉じる。誰でも答えてくれるだろうとは思うが、整備班ーーティラーから話を聞いてみようかと思った。なんとなく色々教えてくれそうだし。
「お早うございますイセンさん。自分は朝食を取りに行ってきますよー」
当のイセンは無反応だが、構わず部屋を出ていくミライ。今の声で目が覚めたは良いが、特に話すこともなかったのと、寝てると思ってる人が起きていると驚かせるかもという謎の配慮だった。
なんとなく寝返りをうつが今ので頭が覚めてしまったようで、体を起こして静止する。
「あーあ。とりあえず着替えるかー」
掛け布団から足を抜き、寝間着から隊員服へと変わる。ふとイセンの頭に浮かんだことであるが、今は他の隊員は何をしているのだろうか。というか戦闘して修理してを二つの班で交互に行っているなら、今ティラー達は手を離せないのでは。そう思いつつ、休んでいるときにインスヴァイトのドックには行ったことも無かったので、興味本位で足を向ける。
「イセンさんじゃないですか。何処かへお出掛けです?」
「ファルーは早いな。いや、みんなこんなもんなのか? ドックへ行こうかと。機体とか、諸々の様子を見るつもりだ」
ドックへ行って機体を見るのがメインではないが、見ないのもそれはそれでおかしいので言ってみた。だが、これは後からすれば余計な一言となった。
「実を言うと自分も気になってたんですよね! ベッドに入る前は一睡もできないんじゃないかと思ってましたよ! 一緒にいきましょうか!」
「あ、まあ、そうだな。一緒にいくか」
目を輝かせて捲し立てるファルーに流され、二人で宿舎を出ることとなった。そういえば、インスヴァイトのことになると割と盲目的な性質だった。ま、日頃世話になってるし顔でも拝んどくか。軽いノリでイセンは出掛けていく。




