ブラインドスペース6
「お、帰って……ファルーの機体、大丈夫かそれ? 一応自立して移動出来てるし、中は無事なんだよな?」
宿舎近くに降り立つと、無線を通して声が聞こえる。ティラーが外で作業していたらしい。ファルーのウェンは胸部の損傷が激しく、首が外れそうになっている。
「みんな無事だ。ティラーこそ何をしてるんだ?」
「ん、そっちが追加で任務に当たってたからな。何となくハンガの整理をしたり、備品の帳簿を覗いたり……要するに、落ち着かなかった」
真剣な表情で話すティラー。思わず息が詰まりそうだったが、イセンは笑いかける。
「そうか。落ち着かなかっただけか」
「おい、笑うなよ。なんだ、答えてやったのに。もう何も教えてやらん」
「はは、すまない。気に掛けてくれてありがとうよ。想ってくれる人がいれば、何もせずとも人のために生きることが出来るのだな」
待っててくれる人がいることをもう少し考えてもいいのかも。と思うイセンだったが、ミルミドが口を挟む。
「なんか最近、全体的に……思春期にでもなったの? さっき言ってたイセン式換装術だー! もそうだけど、公開無線で変なこと言わないで頂戴。気恥ずかしいわ」
「面白いな、それ。ハンガで機体を修理するときに言ってみようかな」
「やめて」
イセンが何か口を挟む間もなくミルミドにより却下される。なんだかもう喋る気が失せてしまい、とぼとぼと宿舎に帰る。
「なんか、イセンさんとティラー軍曹が親密な雰囲気です……ブリ准将!」
「あー、そうか。ブリはやめろと言っただろ、ブリは」
ラックワイトが准将の部屋で窓から顔を押し付け、外の様子を食い入るように見ている。椅子に座ったままやる気ない返事をしたブリディガルは、ふと思い立ったように後方からラックワイトに近付く。
「おら」
「うみゅっ」
出来心からラックワイトの後頭部を軽く押すブリディガル。声のような音のようなものがラックワイトの口から漏れる。
「び、びっくりさせないでください」
「驚かせたか。今度から許可をとる」
「絶対許可しませんからね!」
ムッとして部屋から出ていくラックワイト。おそらくパイロット組の報告が来るため退室したのだろうが、一見すると拗ねた子供みたいな言動にも感じられたため、椅子に腰掛けてブリディガルが笑みを溢す。
ほぼ入れ違いとなって予想通り扉が叩かれる。
「あい、こちらブリ准将」
「失礼します。少々手狭ですがすいませんね」
サーマンを先頭にわらわらジャンダルムの操者たちが入ってくる。珍しく全員集合して報告に来るので少し驚いた。上層部に反対こそしたものの、敢行することとなった連続任務に対しての異議でもあるのかと、ブリディガルが身構える。
「その台詞は私が言うことだろう。狭くて悪かったな」
もちろん悪いとは微塵も思っていない准将。五人も前に並ぶと最初の間取りを失敗した感が否めないが、それなりに思い入れもある部屋である。勿論飾られた写真も含めて。
「写真撮っていいか? 趣味なんでな」
「ラックワイトさんがいないから、隠し撮りではないんですね!」
ぶっ込んできたミライに皆それぞれの反応を示す。頭に手を当てため息を吐くイセンに、ファルーとミルミドはそっぽ向いて苦笑している。サーマンはいつも通り笑みを浮かべているが、あれは本心からなのだろうか。
好きなことをしている五人がなんとかフレームに収まったので、写真を撮る准将。
「本題に入りますよ。星外拠点設営任務は、一箇所目に到着する前にて敵の斥候二機を発見。奇襲は失敗し、相手は未確認兵器を用いて逃走しました」
「未確認兵器?」
記録していたブリディガルが聞き返す。斥候が新兵器を持っているというのは、少し腑に落ちない。
「遠隔で動力を点けられ、心力を使用した計器に干渉するデコイのようなものです」
「無人で心力を用いて操作できるのなら強力だが、未確認兵器はその場を漂っているだけだったのだな?」
「はい。実際他の隊が回収にあたりました」
インスヴァイトのように心の力を伝導させて動力源とする兵器は、仕組みも解明されてないところが多いまま、慢性的な戦争の道具となっていた。人を直接介する有線、有人の形式でしか運用出来ないことも今までは課題の一つだった。
「無線で動力を点けることが可能とは驚いたな。まあ、逆に言うとまだそれだけしか発展していないとも言えるな。斥候にそれらを持たせた意図は掴めんが」
「単純に斥候の人に死んで欲しくなかったんじゃないんですか? 二人ともエース級のパイロットでしたし」
不意にミライが口を挟む。今回は特にイセンも負い目がないので、その横でリラックスしながら話を聞いていた。
「それならそもそも奴らに出撃させなければ良くないか?」
「でもあの二人じゃなければ死んでたかもしれませんよ?」
「うむ……言ってはなんだが、斥候の命のためにそこまでする気もしないのだ」
話し合う地球人の二人を眺めるブリディガル。ここら辺はおいおい考えるものとして、次の報告を聞く。
「さ、今度は侵攻任務の報告か?」
「自分の武勇伝の時間ですかね?」
「ファルー軍曹……」
ミルミドの呆れたような声が挟まれたが、特に構うことなくサーマンは戦果を一通り説明する。




