ブラインドスペース5
「バシック、敵機が前線に出た。ノイアス、そいつは任せる」
副隊長と思われる男は、空間に漂うイセンの銃を流し見る。オーバーヒートし使えたものではない。放棄するのも至極真っ当だ。イセンには部下をあたらせ、サーマンとの戦いに専念するようだ。
「サーマン、やれるか?」
「やるだけやりますよ」
兎にも角にも格闘戦ながら、攻撃を受けること自体抑えなければ。サーマンは敵を引き付けて、イセン達から距離を放す。
『ファレム副隊長どっか行っちまったよ……手負いの隊長機を撃墜して報酬でも狙ってんのかな?』
右腕で鉈を振り上げ、前進してくる敵機。緩慢と言うほどではないが、隙だらけだ。万全の状態のサーマンなら間合いに入った瞬間、腕を両断していただろう。
「ミライ、そっちはどうだ?」
「ダガーが潰れてきて、有効打が中々入りません」
「了解」
とりあえず、先程も使った戦法で対処することにしたイセン。右手の武器で振り下ろしを受ける。
「ぐ……中々衝撃が強いな」
『なんだよ、狙撃で飛ばした奴が一番強いのか? ラッキー』
間髪いれず左腕も使い敵の鉈を挟み込み、頭部に射撃を叩き込む。
『クソが……』
何発かは入ったが、咄嗟に相手の左腕で庇われた。
『後手後手に回るのは慣れてないのか? ラッキーだな。いや、実力か』
がら空きとなった腹部に、今度は右の小銃を突きつけてトリガーを引く。
「……な、なんだ! もしかして、故障してるのか!?」
右手の小銃が反応しない。思い返せば強度に合わない使い方ばかりしていたが、こんなところで響いてくるとは。イセンも瞬時に頭を切り換えるが、相手はこちらの不調を悟ったようだった。
『な、なんだよ! 驚かせやがって、マジで恵まれてねえな!』
先程のイセンを真似るように、残った左に持つ小銃を両手の得物で挟み込む敵機。
「イセン伍長、離れてください。狙撃されます」
ミルミドの声を聞き、即座に後方へ飛び距離を放す。ほぼ同時に元いた場所へ敵の狙撃が到達した。撃ったのは相手だけではない。ミルミドの射撃も敵機に放たれ、避けきれずに左腕へ命中する。
「おい、敵から撃たれたぞ! 後ろから見てんなら助言の一つや二つできねえのかよ!」
「黙れノイアス。お前があいつを離さなければ、それだけで勝てたんだよ」
敵対するヌーフの軍勢は剣呑な雰囲気だ。ノイアスと呼ばれた男は少々の沈黙を置き、気を取り直したようにイセンへと威勢よく声を掛ける。
『はは……左腕は使えなくなったが、お前は片方手ぶらでもう一方は発砲できない。右腕だけでも負ける道理はないなあ!』
サーマンと同じく身を翻して距離を取ったイセンを、ノイアスが追従する。サーマンと違うとすれば、ミライの方へ逃げていることか。
「ミライ、少し背中借りるぞ!」
「え? は、はい」
少し困惑するも、何となくイセンに背中を向けておくミライ。それを確認しバレルロールで半回転する。敵に向き直りつつ、姿勢を崩してミライにぶつかったように見せる。
『もう、イセンさんってば! こんな時にまたバレルロールなんて、慣れないことやらないでくださいよ!』
『うおっと! ミライ、お前の機体は重いな……』
『ん? その名にその行動、もしかしてジャンダルム隊か? 負けず嫌いのロウン中尉には悪いが、戦果は俺のものだぜ! 宇宙といえども安全運転しろよなあ!』
もう逃げられることはないと踏んでか、残った右腕を振り上げて迫る相手。やはり隙だらけである。
『これがイセン式換装術よ! 取り締まられるのは、貴様の方だ』
ノイアスは機体に何かが突き立てられるように見えた。鉈が間合いに入るより早い。対応しようにもイセンが前進してくるとは思わなかった為、反応が間に合わない。
『銃……』
ノイアスの機体と完全に衝突する前に、ミライの銃のトリガーを引くイセン。零距離射撃は中々に衝撃が凄まじく、イセンは思わず目を閉じた。再び開いたときには眼前の機体には風穴が空いていた。
「ちょっと! これ自分のお陰ですよね! よく分かりませんが、多分倒しましたよね!」
「三文芝居のことは知らんが礼を言うぞ。なんか、私の悪評は教育隊内でやけに伝わってるようだな……」
「お二方、狙い撃たれます」
一機討ち取り、複雑ながらも安堵した気持ちに浸りたかったイセンだが、そんな余裕もない。一旦ミライと離れると、二人の間を光線が通り過ぎる。
「イセンさん、一本使います?」
ミライの背部から頂戴した銃はダメになった……とは言えなくとも、いささか元の通り使えるとも言いがたい。そんなわけでミライがダガーを渡すか迷ったのだが、イセンの方は迷わず応答した。
「大丈夫だ。敵のハチェットを使う!」
「伍長、あまり調子に乗り過ぎないでください」
「すまない………」
イセンが敵を撃墜したことは隊を率いる両名にも伝わっていた。サーマンはデブリが連なる障害物の多い宙域へと入り込んでいる。
『部下が功績を上げるまで逃げ回っていたのか。気に食わんやつだ』
『まだ戦いますか? あなた方の味方機はどんどん減っていくと思いますけど。えー、ファレム副隊長?』
ファレムは逡巡した末、忌々しげにサーマンに背を向けて去っていく。それに手を出せるほどサーマンも機体が万全ではないので、味方に合流しようと来た道を引き返す。
「撤退するぞ、バシックはアロネの援護を頼む」
「任せろ」
「任せる! そろそろマジにヤバくなってきたよ!」
COCは三名生存し、敵拠点へと帰還を開始する。イセンとミライが気合いを入れ直すと共に逃げていく敵機に二の足を踏んでいると、サーマンからの指示が下る。
「相手の深追いはやめましょう。ファルーの安否も確認しなければいけませんからね」
サーマンが到着する間で律儀にもハチェットを敵機へ返しに行き、代わりに先程奪われた小銃を取りに行くイセン。今回は一段と長い出撃になってしまったが、ようやく一息つけるといったところ。
小銃を見つけて機嫌良くなっているところ、不意に何者かの視線を感じる。
「避けろ、イセン!」
ミルミドの怒号と共に、視線を感じた方角から軸をずらすよう垂直に動くイセン。その直後、先程までいた場所をまばゆい光の筋が通り過ぎていく。一瞬辺りが昼になったかのような錯覚すら受け、呆然と軌跡を見つめる。
「次弾は……来ないか。何を使ったか知らないけど、あんなのそうそう撃てる筈もないものね」
「今の、さっきの敵スナイパーですかね?」
「いや……モニタを見ていても、あちらに映る反応は三つだけでしたよ……計器類に異常がなければですが」
聞き覚えのある声がミライに応える。驚きと喜びから、ミライも声の主を呼ぶ。
「ファルーさん!」
「さっきまで気を失ってましたがね。頑張ってくれたようで」
「回収予定の部下が目を覚ましたようですし、こちらも帰りますよ」
一行は今度こそ一息つき、モノへと帰還する。




