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ブラインドスペース4

 

 ファルーの長剣の交換にさほど時間は要さなかった。もっとも、損傷が激しければ他の隊が当たっていたのだが。


「今度向かう場所はFd4です。斥候同士の散発的戦闘ですが、たまたま急行出来る隊がいると言うことで」

「我々が行くというわけか」

「皆さん特に故障箇所は無いですよね? もうすぐ見えてくると思いますが」


 例によって、奇襲が気付かれる限界まで接近して戦闘を行うというサーマン。今回二度目の戦場が見える。


「イセンさん……」

「ああ、見えてきたな」


 前より確実に敵を目視するのが早くなった気がする。どういう分野を働かせているのか分からないが、やっていると上達するものだ。


「それでは我々は先行しますね」


 戦場の規模はずっと小さく、少ないオレンジ色の光ともっと少ない青色の光が見える。


「見たところ相手は接近戦屋さんばっかりですが、自分の任務を最要に」


 鞘に収まる剣の柄に手を掛けて先頭を行くサーマン。ファーストコンタクトの際に二本の剣を逆手で切り上げるつもりなのだろうか。


「敵機がこちらに気付いたようです。イセン伍長と共に射撃開始します」


 牽制で撃つ二人の攻撃は回避されるが、同時に友軍が撤退した。もう青い光は二つのみとなっている。


「相手は強化型のトロップーーアンセルが七機。味方と合わせればこちらと同数だけど、味方機は撤退。相手はやる気ね」


 応答をする前にサーマンが敵機に接近戦を仕掛ける。高速で接近し突如鞘から振り抜く二刀は、相手から見て間合いの一歩後ろから切り裂かれる錯覚すら引き起こす。


「五対五ですね。こちらも続行します。トロップより腕間接部が太い機体を切り裂けるとは。突きも切りもこなせるなんて、やはり良い機体です」

「ミル曹長、イセン伍長、一人そちらに抜けました」

「了解だ!」


 サーマンが両腕を寸断した傍ら、ファルーは敵機の肩を長剣で貫いている。ミライは敵機にダガーを受け止められており、長くなりそうだ。そんな周囲の確認と共に機体を反転させ、敵機のコックピットを蹴り跳んで、距離を放す。側方から別の一機が迫っているのに気付いた為だった。


『敵機が味方に来ると見るや食い付いてくる。いやはやスゴい執念ですね』

『当然だろ! エース級の教育隊の俺らに叶うやつなんてそういねえからな! 隊長は諸事情で居ねえから副隊長がーー』

『ペラペラ喋んな。その二刀流抑えとけ』


 教育隊と聞いて一瞬サーマンの動きが止まるも、指令をうけたであろう敵に反応し、敵の叩き込みを両手の剣で受ける。


『中々軽いな、オイ! タラタラ来たと思ったら援軍もよえーのかよ』

『そういう戦い方はしてないので、あしからず』


 先程の攻撃で緩く飛ばされたところに再び鉈の打撃を繰り出すのを、サーマンがまたも二刀で受け流す。


『一撃が重い方が勝つのは生き残った兵が証明してんだろうが』

『私もこうして生きてますよ』

『おい、んなやつに手こずってんなよ。こっちは副隊長と二人で抑えるのがやっとなんだ』

『てめーもヤキが回ってんな。二人掛かりで遊んでんなよ』


 通信で不穏な空気を漂わせながらもしっかり手を動かす相手。叩き飛ばしては無防備な所に一撃入れようと迫って来るので、サーマンとしても中々反撃に移れない。


『め、面倒くせえな! そんなに攻撃食らいたいのかよ』


 サーマンが姿勢を制御し、くるくると死角をカバーして攻撃を弾くので、相手は相手で攻めきれないことに苛立っている。視点が移ろう中で、敵機が一つ弾け飛ぶのが見えた。射撃によるもので、後衛の二人が撃墜したのだろう。


『食らうってどの程度のことを言うんでしょうね。立て続けに攻撃を食らわせても相手は無傷でした、という報告でもするんですか?』

『マジにいい加減にしやがれ!』


 相手の怒鳴り声と共により一層の力で鉈が振り下ろされる。得物ごと破壊せんとする一撃に、身を翻して敵の側面を取ろうとするサーマンだが、左肩を掠めて装甲の破片が零れ落ちる。

 咄嗟に片手でコックピットの下、腰の装甲部を横凪ぎにするが入りは浅かった。自らの機体に剣が刺さっているにも関わらず相手は機嫌が良さそうだ。サーマンの機体は左腕に不調をきたしたようで、相手と距離を取り剣を右腕に持ち替える。


『なんだよその一撃! この剣俺にくれるのか?』

『はい、どうぞ。あ、取り扱いに気を付けてくださいね』


 後ろからミルミドとイセンの援護射撃が通る。狙いは先程敵に刺さったサーマンの剣だ。


『くっそ……撃たれただけで粉砕されるとは、耐久イカれてんのかよ!』


 射撃により粉々になった武器に文句を言う相手に、間髪いれず接近して蹴り込む。武器の破片が深く刺さった胴体は、強い衝撃により下半身と別れる。


『軽く……ないな?』

『見くびられていたのかもしれませんが、助走を付ければこの程度ですかね』


 先日交戦したウォードの徒手空拳を参考にしたものだが、弱体化した部位には効果があったようだ。


『だが副隊長、無傷の前衛はあと二機ぽっちですよ!』


 騒ぐ相手を尻目にファルーの加勢に入るサーマン。こちらに気付いていた一機が攻撃を受け止める。それを確認すると、ファルーと戦闘していたもう一機が軽く後ずさる。


「よし、目にもの見せてやれ」


 ジャンダルム隊には聞こえないが、相手の遥か後方から二つ応答が返ってくる。目に見える形として、二つの光線がファルーの機体へ放たれる。


「ファルー!」


 光の粒子を散らして後方に機体が流れていく。しかし、サーマンも人の心配をしている暇はない。片手だけで剣を振るい、二機を相手取る必要がある。


「ミライ、敵の援護に注意しつつ戦ってください! こちらが手の届かない距離から射撃が来ますよ!」


 幸い機動性は高い前衛二機なので、虚を突かれなければそうそう当たらないだろう。しかし相手もわざわざ狙撃に頼るまでもないだろう、という位には危機的な状況である。


『味方は墜ちたが、勝ちは逃さなかったという訳だ。さて、隊長殿。覚悟を』


 なにも言わず思考を巡らせるサーマン。敵機は待ってくれない以上、何でもいいが回避行動を取らなければならない。


『おっと……そちらは任せますよ』


 言葉の意味をサーマンが理解する前に、後ろから光線が何本か飛んでくる。ミルミドは味方が行動不能になって取り乱す性格ではない。


「オーバーヒートしますよ、伍長」


 僅かに身を引いた際、視界の端に映るものに思わず声を漏らす。


「イセン伍長……あなた一出撃に一回は突進しなければいけないのですか?」

「今回ばかりは気がすまないのだ!」


 あんたの場合は毎回でしょうが……とは心の中で思うサーマンだったが、案外悪くない。虚を突かなければ有効射撃が入らないのはこちらも同じであるし、前衛は一応の頭数が揃った訳だ。


「じゃあ、今回はお隣お願いしますね」


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