アフターギグ7
宿舎に帰還した際、着陸地点に人影が見える。マントがちらついているのでブリディガル准将だろう。
「うむ、全員いるな。サーマン少尉、よくやった」
「いえいえ。統率は取れないし敵機は強いしで散々ですよ」
「ま、後は部屋で聞くよ」
機体から降りる面々。特にサーマンとイセンは先程の戦いを思い出していた。
「私は報告に行きますが、一応イセンさんもついてきてくれますかね? ミライさんは念のため休んでいてください」
「分かりました」
「承知した」
ドックの方へティラーを探しにかけていくファルー。彼を除いた四人の操者と准将はエントランスに行く。人影はない。いつ帰って来るのか分からないのだから当たり前か。
「ブリディガル准将、いつから待っていたのだ?」
「資料を確認していたら窓から見えたのでな」
「そこで見てから間に合うのか……」
階段を上がりつつ少なからず驚くイセン。ミルミドとミライは自室へ帰っていった。
「シャッター閉めないと危ないですよ」
「気にするな。それ」
今日は扉を膝で押し開ける准将。なにも持っていないのに関わらず非常に足癖が悪い。
「今日は全員生還してきたとは思えない雰囲気だな」
「とてもではないが、勝てたとはいえない戦いだったからな」
「撤退したらそりゃそうだろう」
「ところが撤退したのは相手なんですよ」
部屋の窓はシャッターが閉まっていない。机の手前にいる二人からしたら背中しか見えないが、准将は困惑したような声を漏らす。そのまま机を挟んで向こうに座り、話し始める。
「PCPでは鹵獲した改良型トロップ、『アンセル』の内部構造を調査し、狙撃のオプションがついた機体の実践配備に励むらしいぞ。最初はSOSの連中に流れると思うが。んで、よく分からなかったさっきの話の続きを聞こうか」
ブリディガルに促されて口を開くサーマン。
「はい。先程の遊撃任務では指定地点に着いた後、交戦域を挟んで逆側から敵援軍が出現しました」
「結果的に撤退したんだったな。味方がなんとかしたのか?」
准将がそこそこ機嫌良さそうな表情で問いかけてくる。
「友軍は奇襲により指揮を失い混乱していたため、イセン伍長が単独で加勢に向かいました」
二度ほど咳払いをして脇を見るイセン。目を合わせていなくてもブリディガル准将に直視されている雰囲気は感じ取れる。上官から顔を背けるのはいかがなものかとも思ったが、怖いものは怖かったので目をつぶって写るラックワイト中尉の写真と目を合わせる。相変わらず撮られるのが下手だ。
「……えー、指揮は私が執り交戦。不意討ちにより数的有利を取った末、敵の応援は元残存勢力の全滅を確認したため撤退しました」
「ほう。冷静だな、お相手は」
ただでさえ強く響く声で、最後の部分を強調するように話す准将。乾いた笑いを顔に浮かべていた。イセンの方は背中に冷や汗が伝うのを感じた。
「結果こちらは味方三機生還、敵追加部隊は六機中一機撃墜です」
「おめでとう。英断だったなイセン伍長」
この言葉が本心か否かは、何の感情も込められていない拍手から容易に判断できる。イセンがちらりと准将の顔を見ようとしてみても、椅子に座り俯いてる彼女の表情は察することが出来なかった。人に見せられないような顔をしているのかもしれない。のっぺらぼうの准将を想像していたら、イセンは聞きたくなかった言葉がサーマンの口から飛び出してきた。
「驚くべきことにイセン伍長は敵援軍隊長と面識があったようなので、彼につきましては代わりに説明して頂きましょう」
「へっ……」
思わずイセンの口からは空気が漏れた音が出た。准将に見上げられるが、今度はイセンも視線を上に送って誤魔化す。
「よし、話せ」
「えー、敵部隊長の名前はウォード・シーン……地球人です。おそらく乗っていた機体は地球に保管されていたインスヴァイトを改修した物だと思います。本人曰く、十五日の運行の末に地球の重力圏を脱出しヌーフの軍勢……COCに加入したとのこと」
「そいつはインスヴァイトについてなんらかの知識を有していたのか?」
「地球ではそもそも運用していなかった機体なので、独学かと思います。一応現地のインスヴァイト運用組織では私と同じく最古参です」
「私とイセン伍長、ミライ伍長の三人で交戦しましたが、単機で互角かそれ以上の戦力でしたね。部下は新兵同然でCOCの彼に対する態度はあまり良いものでもなさそうです。性格は残忍とも非情ともつきませんが、あまり他者に執着はしてなさそうでしたよ。誰かさんと違って」
サーマンはイセンの方を向きウインクする。口添えした……つもりなのだろうか。正直自分が話題に出るのも嫌だったので、報告が早く終われと祈っていた。
「敵軍の彼に対する評価次第だな……どちらにせよ、危険な人物であることは間違いないが。サーマン、帰るときその問題児に色々と教えておけ。お前の責任でもあるからな。解散」
くるりと椅子を反転させ、靴を脱いで窓際に足をかける准将。二人が部屋を後にすると、ポツリと呟いた。
「どいつもこいつも似た奴ばかりだ」




