アフターギグ6
「まずは後二機を掃討してーー」
「部隊長、こいつは強すぎる……」
算段を考えていたところ、味方の断末魔を聞き改めてモニタを確認するサーマン。ジャンダルム隊が三機撃墜の間に味方の信号も二機……たった今のも含めて同数の三機が消失していた。
『敵も味方も弱すぎやしないか。COCがどれだけ俺を信用してないかはっきりした訳だ』
敵隊長と思われる黒の機体は、赤く発光する拳をウェンから引き抜いて呟いた。漂う味方の機体はコックピットに当たる部分に風穴が空いている。敵の視線を感じ気を引き締め直すサーマンだが、後方のイセンは驚愕していた。彼の声には聞き覚えがあったからだ。
『ウォードか? それにその機体……支部にあったものと酷似している』
地球のインスヴァイト運用において、乗り手としてはイセンと並ぶ最古参のウォード。それがここにいる訳ないのだが、乗っているインスヴァイトはイセンが地球でみた唯一の人型……そしてついぞ一度も動く姿は見たことない機体そのものだった。
『支部っつーのがド田舎にある星単位でなんもねー場所のことなら、機体が酷似もなにもそのものだよ。まあおたくら異星人にゃ分かんねーか』
『その星をどうやって脱出した?』
『十五日間上に飛んでただけだ』
ビックリするほどの力押しで重力を振り切っていたウォード。実際のところミライが配属された頃には彼は行方不明として処理されていた。
『十五日! それだけ持続していたらとっくに廃人になっててもおかしくないですよ』
サーマンが口を挟む。人が自身を動力として動かすインスヴァイトにとっては燃料の概念が薄い。乗り手により限界推進量も異なる。ただ軍の資料においては平均の危険域ーーデッドラインは五日とされている。
『廃人で悪かったな』
彼のインスヴァイトが僅かに前傾姿勢を取る。どうやら攻めてくるようだ。
『土産話は持たせた。後はお前が死ぬだけだな』
一瞬で詰めてくる。速い。しかも短距離走の中間部分だけを切り出したように、最初からトップスピードなのだ。冗談抜きに加速の時間は存在しないか極僅かだった。
『くっ……』
『サーマン、無事か!』
ウォードの掌底突きを紙一重でかわすサーマン。
『頭部をもいでやるつもりだったんだがな。ん?』
側面からダガーで斬りかかるミライ。相手は武装を一切積んでいないため、僅かながらリーチでは分がある。
『おらよ!』
『んなっ!』
ミライの得物を蹴り上げて弾き飛ばす黒いインスヴァイト。フッと腰を低く据えて、拳を引く。
『しゃあ、オラオラァ!』
『ウォードォ!』
ラッシュをミライのウェンに叩き込むウォード。一切の助走をつけず繰り広げられたものにも関わらず、間接部は不調をきたし、コックピットのモニタにはノイズが走る。いち早く反応したイセンがビームを撃ち込むが、身を反らしこれをかわす。
『これ使えばいんだろ?』
戦域に浮遊するトロップの一つに近寄り、銃を掴んで彼にとっての付属品……トロップ本体を蹴り飛ばす。ストックに手をかけてトリガーを引くと、何発か放つ。
『当たらねえかーーあぁ!?』
ぼやくウォードに高速接近し、蹴り上げを食らわすサーマン。先程のウォードと比べても速度こそ見劣りしないものの、僅かに軽い一撃は衝撃を食らわせるにとどまった。
『敵が弱いのかと思ってたが、やられてみると案外悪くねえな』
『ウォード伍長! ご、護衛対象の先陣隊が、全滅しております……』
ジャンダルム隊の奇襲を生き延びていたミライの討ち損じともう一機は、ミルミドとファルーにより撃墜されていた。その際ウォード隊の部下達が何をしていたかと言うと、交戦中のファルーに四機全員でもじもじと忍び寄るも、一機が無慈悲に胴を貫かれて以降当たらない射撃戦を繰り広げていた。
『はあ? ーーまあそういう任務だったな。えー、ご苦労。……チッ、上も守らせる気ねーだろ』
『我々、今回が初戦闘でしてーー』
『あん? 俺もだよ』
冷めた声で部下に返すと、それ以外は何も言わず即反転して撤退するウォード。奇しくもイセン、ミライと同じ伍長であった。
彼が取り残した部下達は撃墜しようと思えばできたが、戦いを続行するものは誰一人いなかった。
『ところで、聞き覚えある声が聞こえた気がしたが』
ウォードの部下達は動揺しつつも、一人、また一人と隊長機についていく。向けられた言葉が誰に対してのものかが分かりかねているらしい。
『変に取り繕ってないで、お前も楽しめよな、イセン。当事者じゃないんだ、好きにやろうぜ』
自分の善しとしない存在から引き込まれる感覚に陥るイセン。何ともいえない気持ちの悪い感触として、彼の心の奥底に響いていた。
「ミライ伍長、大丈夫ですか!」
「ええ、なんとか……コックピットは狙われてなかったし、問題ないです……」
肩で息をするも、意識はしっかりと保つミライ。イセンの射撃による妨害で数打にとどまったのが功を奏した。
「ーーよし、総員帰還します。貴方達もよく頑張りましたね」
生き残りの味方三機に対しても労いの言葉をかけるサーマン。記録として見れば友軍三機残存、敵軍は全滅に別働隊一機撃墜と大勝利であるが、帰路でこの戦いについて話すものはいなかった。




