アフターギグ5
「前方側方共に敵影なし。もはや相手の方が撤退するかと」
ミルミドは付近の様子を観察している中、ファルーは長剣の収納具合を確かめるよう鞘に押し込んでいる。見ている分には特に問題もなさそうだが、パーツ丸ごと新調したのだろうか。
「中々撤退の動きは見えませんね。味方は十機前後残存してますが、敵機は半数以下で立ち回ってーー友軍左翼にオレンジ色の発光を確認、敵分隊による奇襲!」
遠くで五個ほどの明かりが一斉に灯った。これで数的には友軍と互角かとサーマンが判断した瞬間、友軍の機体が一つ増えたーーいや、先頭の光が二つに分かれた。腰の辺りで両断されたのだ。モニタに表示された友軍の信号は残り九つだ。
「撤退か?」
「友軍からの撤退指示は出ていません、交戦を継続する気でしょう。いや、それにしては動きが少々おかしい。まさか、部隊長が墜ちたか……?」
サーマンの考察通り、友軍の部隊長は先程撃墜されたその人だった。彼の言葉を聞いてイセンは手に力を込めた。
「行くぞ、サーマン。数的有利に立てる今なら文句ないだろう。相手が撤退しても良い。いや、相手を撤退させるんだ」
「味方は司令塔を失って混乱しています。私が代理で指揮を執って立て直せる保証はない。他に奇襲が来ない可能性も無い訳ではありません」
サーマンはそれに加えて相手を撤退させる為に戦うのは、気持ちで負けていると言ってるも同然です。とは思うが、敢えて口には出さなかった。
「援護を待っているのは確かだろ」
「他者を危険に晒してまで自分が助かろうとする奴を自分が危険に晒されてまで助ける必要はありません。出来ることはやりますよ。撤退指示を味方にーーちょっ、イセンさん! 話聞きなさいって!」
撤退と聞いて先に体が動くイセンのインスヴァイト。気が早いったらありゃしない。
「発光を抑えてギリギリまで接近する。相手の攻撃が届かない位置から射撃を行えば文句は無いだろう」
「それが出来れば苦労はしないですよ……戻ってきなさい」
サーマンが制止するのも聞かず加速を止めないイセン。いつもの笑みは消えていた。本来は帰還するか、力ずくで彼を止めるか。いづれにせよ即決すべきであったが、サーマンは決めかねていた。
「前方側方共に敵影なし。撤退しますか?」
「ミルミド曹長、余計なことを……」
敵の増援の有無が撤退を取り止める決定打にはならない。しかし、他に敵がいないのならば私達で切り抜けないのか。そんな気持ちを煽られる。
「……各自、自分の使命を最要に。生きて帰りますよ。全員でね」
「了解。今度は肩を並べて戦えますね」
肩を並べてとは言うが、ファルーは既に飛び出していた。どのみちぐちゃぐちゃの混戦へ身を投じるならきちんと整えて行く必要もないか。
「良かった。援護行きましょう! 自分もサーマンさんの許可を取る前に行った方が良かったんでしょうか」
「いや、やめてください、頼むから。とても胃がいたいです」
どこかズレた反省をするミライ。サーマンの見立てでは、単純な直線でのみなら彼もウェンの最大加速に耐えうる。
「ミライ、Cモードを使わず本気で飛ばしてみなさい。もし機体の限界まで到達して余裕があれば、報告してくれると非常に嬉しい。あ、十分減速する距離を残しておくことですよ」
「分かりました」
ミライが返事してすぐ、並走していたウェンが距離を離す。出力を上げたのだ。サーマンもトリルを加速させる。
「友軍各員、援軍部隊長サーマン・クラスプです。数秒後に仕掛けますので、動ける隊員は敵援軍の方向から引き気味に戦闘を行ってください」
「今が……最高速度です……!」
「報告感謝します」
徐々にではあるがミライのウェンに追いつき、追い越していくトリル。スペックだけなら申し分のない機体を頂いたものである。
「イセン伍長、疲弊している本来の討伐目標を狙え。三秒後に合わせて撃つ」
射程距離に入ったイセンとミルミド。照準を絞る間に後ろから追い抜くファルー、サーマン、ミライの三機。すると、味方機と交戦していたトロップが僅かに機体を傾ける。奇襲に気付いたようだが、遅すぎる。サーマンのトリルは先程見せた青い光を放つ。
「射撃なら外さんぞ!」
近接組よりいち早く交戦する射撃機の二人。回避行動を取る間もなく頭部にイセンの一撃を食らい、緩く後退する敵機の胴を射抜くミルミド。元来の生き残りは後四機となった。
「ミライさんは減速し、一拍遅く攻撃してください。我々はーー今!」
Cモードに入り質量が増す機体。速度は変わらない為、乗り手に掛かるGも増える。最高速度のままにトリルの握る両剣で敵機を腰部分から貫き、機体を滑り込ませるように切り開くサーマン。申し分ない精度で一機撃墜するが、一瞬意識を手放しかける。
「身体で受け止めな!」
隣のトロップへと突撃したファルーは愛用の長剣を頭から振り下ろし、敵機にめり込ませたまま引き摺っている。
「味方機から、離れなよ!」
遅れて切り込むミライの介入により、撃墜には至らないものの狙われていた味方機はすんでのところで損害を免れた。駆けつけるまでに三機の信号が消え、味方は六機となっていたが、なんとか立て直しは成功したーー筈だった。




