アフターギグ2
その日の朝……宿舎に准将が来る時間にはサーマン、ミライにイセンの三名がエントランスに集まっていた。
「こういうのって強制自由参加みたいなのじゃないんですか?」
「ホントに自由参加ですよ。まあ顔見せも兼ねてお二人がいるのは都合が良いかもしれません。呼びに行くのも面倒なので」
「呼ばれることはあるのだな。上官が上官の呼び出しを伝えに来るのか。嫌だな」
あくびをしつつ受け答えるイセン。寝起きの金髪が跳ねるのに重力の有無は問わないようだ。
「おーい、帰ったぞ!」
聞き慣れない女性の地鳴りのような声がエントランスに響く。それを聞いて敬礼で待機するサーマンに、形式はよく知らないのでとりあえず真似をするイセンとミライ。
「ぐおお、頭に響く声だ」
「ん? 苦しんでる奴がいるな。よお! 二日酔いかあ?」
敬礼ではなく人差し指と中指をピシッと伸ばし、顔の横に持って来て挨拶とする准将。面白そうにガンガン響かせながら近付いてくるのに歯を軋ませて耐えるイセン。サーマンは右手を下ろして二人の行く末を見守っている。ここだけの話、イセンの感想には心から同意する。しかし、口に出そうものなら新しい玩具を見つけたようにはしゃがれるので、イセンを犠牲に大人しくしていた。
「まあ、君はこれを冷蔵庫に運んでいきたまえ。二日酔いに効く薬もあるぞ」
「む、なんだこれは」
二つある荷物のうち、大きいスーツケースを押し付けるように渡す准将。多少よろけるも、荷物を受け取ったイセンはよろよろと冷蔵庫の方へ消えていく。後ろ姿を笑いながら見送り二人に振り向いて口を開く。
「サーマン・クラスプ少尉、お疲れさん! そっちは継葉伍長かな?」
「ブリディガル・ファクシナス准将。お待ちしてました」
「とうとうラックミル達も出迎えてくれなくなってお前一人か。あー寂しい」
「あの二人は昨日少し飲み過ぎまして」
昨日サーマンが部屋に戻った時のことを思い出す。ラックワイトがミルミドを部屋におぶっていこうとするも、支えきれず潰れていたが、朝方にはいなかったので何とかなったのだろう。
「人より酒とは。やれやれ、私と一緒だな」
「継葉ミライです。自分もお待ちしてました。それより、この前は一等兵と呼ばれていたのですが」
ナチュラルに出迎えの数に含まれておらず、少しムッとするミライ。
「ん、失礼した。これからも出迎えてくれるのなら嬉しい限りだよ。継葉、イセンの両名は先日伍長に昇格だ。まあうちには兵長がいなければ兵もいなくなったがな!」
「これからもよろしくお願いします」
ミライが准将と話していると奥からイセンが帰って来た。薬が即時効くわけではないが、水も飲んで来たので多少は生気が戻った様子だ。
「何だったんだあの量の酒は……昨日大分開けたはずなのに冷蔵庫がミチミチになってしまったぞ」
「あれは私の土産だ。しばらく留守にしてたからな。どたばた続きのパイロット隊……特に伍長二人にとってあまり実感は無いだろうがね」
ブリディガルと呼ばれた准将はマントを翻し階段を上がる。二階を過ぎて、三階まで来たところで三人が付いてきているのを確認し、立ち止まる。
「久しぶりに宿舎の仕事部屋に来たぞ。サーマン、掃除はしていたか?」
「やだなあ」
「おい、笑ってごまかすな」
必要最低限で済ませようとするサーマンの肩を掴んで揺する准将。少なからず二日酔いの朝に軽く……普通の拷問を食らうサーマン。
「それ、ヤバいです。准将、部屋にエチケット袋はありますか」
「あるわけないだろうが。私の部屋は白鳥のボートじゃないんだぞ」
「私も……ボートは酔います……失礼します……」
一見いつもと変わらないが、血の気が引いていたサーマン。一切笑顔を崩さず退散する姿勢には尊敬すら覚えるイセンとミライ。准将はトイレへ消える部下には目もくれず、両手で自分の部屋の扉を押し開く。
「入っても良い……よろしいのでしょうかブリディガル准将」
「好きに踏み込め。勝手に掃除なんかしてくれるともう最高だな」
准将は部屋に入ると持っていた荷物を机に置き、正面に置いてある高級そうな椅子にドサッと腰掛ける。イセンは先程投げ渡すように押し付けられたスーツケースを思い出した。冷蔵庫の上に置いたままだが、大丈夫だろうか。なんだか排熱が心配になってきた。
「なんか、隊員達の写真が多い部屋ですね。特に……ラックワイト中尉の」
最初に目に入った写真立てにはサーマン、ティラー、ラックワイトと共に彼女が写る一枚が飾られている。この宿舎の前で撮ったもののようだ。
「彼女は撮るといってカメラを向けても笑顔が下手くそなのでな。最近は勝手に撮るようにしている」
「盗撮じゃないか」
「自分で言うのも何だが私はがさつなのでな。そこには部屋に自分の写真が貼りまくられてる中喜んで掃除を手伝ってくれる中尉の姿が」
「仕事部屋で特殊なプレイを楽しむなよ」
「うん? 楽しむなよ? ずいぶん良い口の聞き方だなぁイセン伍長殿ぉ?」
机を挟んでいるものの、ずいずいと顔を近付けてくるブリディガル准将にたじろぐイセン。ミライは仲良くなるのが早くて羨ましいなーなどと呑気に考えていた。
「う、申し訳ございません」
「ま、私はさほど気にはしないが、気にするやつは気にするからな。気を付けておけよ。ついでに継葉もな」
「承知しました」




