アフターギグ1
バイル、ロウンが少将に報告をしていた頃、ジャンダルムの宿舎では宴会が開かれていた。この宿舎では、基本的に任務をこなすとビールの空き缶が製造されていく。
「何の話でしたっけ?」
「ジャンダルムに配属されたきっかけですよ」
この隊では皆ほどほどに酒は嗜むが、ライは早々に赤くなって机に突っ伏している。あまり地球人二人に良い感情を持っていなかった為、起きていたらサーマンと馴れ馴れしく話すミライに対して文句を言っていたかもしれない。
「あんまり面白い話では無いんですけどね。昔の私はやんちゃでしたからねえ」
「そんな訳ねえだろ。俺は少尉がひよっこの頃から面倒みてたが生真面目な奴だったからな」
「そこ、話の腰を折らないでください。それに私がひよっこの頃はあなたもひよっこでしょう」
横槍を入れてきたティラーに対して一通り喋り切ると、ビールに手を伸ばすサーマン。視線はティラーに向いており、目を合わせられると、何ですか? という風に片眉をつり上げる。
「やっちゃえティラー! 下士官同盟の団結を見せてやりましょう!」
「ファルー軍曹、目を離した隙に変な同盟にいれないで頂戴」
どうやらミルミドの調子は回復したらしい。ティラーの会話に突っ込んでいるファルーの台詞に突っ込む彼女。若干めんどくさくなってきて、これまでの流れを無いものとしてミライはサーマンとの会話を続ける。
「割と配属されて長いんですかね」
「そうそう、隊として実戦になったのは地球に行く際が初めてでしたが、一年ほど前にはジャンダルムが発足しましたよ。人員が足りなくて大体合同訓練に駆り出されてましたね」
過去を思い出しつつ手に持つ缶を口へ運ぶ。ついでに机の上に開かれているナッツの袋を手で探る。ミライも特に遠慮などせずちょくちょくつまんでいる。
「隊が発足する前もティラーさんと交流があったんですか?」
「私がPCPに入る頃には彼もいまして。まあほぼ同期のようなものですけど。その時からよく機体の整備をしてくれるんですが、こっそりロケットパンチを付けてくれとお願いしても一向に聞き入れてくれない」
たまに見られるロケットパンチへのサーマンの執着。ファルーやティラーを含めて、軍人の割に兵器へ実利よりロマンを求める性質がある。
「手甲でも飛ばしたらどうですか?」
「それは中々良い案ですが、そろそろ機体の乗り換えが必要ですので……あいつにも大分お世話になりました」
ダルクをいたわるように語るサーマン。彼にとっては駆け出しの頃から連れ添って支えてくれた愛機だった。
「ラックワイトさんの機体と似てる奴ですよね。あっちの名前……ベッズでしたっけ」
「そうそう、トンファーみたいの装備してる奴ですね。私がジャンダルムに配属されたのはラックワイト中尉のお守りですね」
ついでみたいな感覚で打ち明けられる。あまりにも情報が足りてないが、いつもの冗談だろうか。
「あっちでミライとサーマンが話していたが、皆配属のきっかけとか理由は知ってるのか?」
イセンはファルー、ティラーとつるんで飲んでいる。机には三本ほど缶が転がっているが、まだまだ長そうだ。
「なんとなく少尉の噂は聞いてましたが、そこら辺はさっぱりです」
「昔から高速戦闘を生業にしてたから、ステイル小隊の両刃騎兵と言えば、通じる奴には通じてたな」
「有名人じゃないか」
イセンには軍の全貌は分からないが、通り名を持って呼ばれる操者はそういないのではないだろうか。戦いに関する話が出る度に感心している気がする。
「コードネームはまだしも本名はそれほどでしたけどね」
「コードネーム?」
「パイロットとしてはドラグーンって名前で活動して……ぐっ」
いつからいたのかサーマンに手刀を食らうファルー。
「やんちゃってそう言うことか? 確かにしてたな。意味わからん機体の塗装とか頼んだりな」
「言う方が恥ずかしくなるようなコードネームだが、前の同僚も苦労してそうだな」
「酔いが醒めますよ……本当に」
「飲み直すか?」
イセンは酒が美味しく飲めているので、中々に上機嫌だった。ティラーはティラーで当時を思い出しつつ食べ物に手を伸ばす。
「それも良いですね。私も弱みを握るまで話を聞きますよ」
「な、なんだ。あんなの気にしてるのか」
「あんなのが気にならないくらいの話を期待してますからね」
そういうとイセンの背中をバシバシと叩くサーマン。顔は穏やかだが目までは笑っていない。
「男連中は何やってんのかしらね」
「さあ。楽しそうですけど」
ミルミドはラックワイトの肩に手を回して酒を飲んでいる。いつものことなのか、特に気にせずちまちまつまみをつつくラックワイト。
「あー私も楽しく飲みたいなー!」
「いつも楽しそうに飲んでるじゃーーんぐっ」
素知らぬ顔で持っていた缶をラックワイトの口にあてがう。一瞬驚いたが、ミルミドの酒癖もいつものことなので、構わず中身を一気に飲む。三分の一ほどあったビールは空になった。
「え!? 残ってないじゃない、ちょっと」
「い、いきなり飲ませるからです、あ……」
ラックワイトはしゃっくりが出てきたので、はにかみつつチョコレートを食べる。もっとも、ミルミドは新たなビールを求めに冷蔵庫へと行ってしまった後だ。
「お、チョコレートじゃん」
声のする方にはライを背負ったティラーの姿が。
「そちらはお開きですか?」
「明日……十時間後に上官が来るってサーマン少尉が言ってたんで念のため。一服して寝ようと思いましたが、少し頂いてアブサンでも飲みます。手に入れたはいいけど一生無くならないので」
でもこの荷物邪魔だな……とぼやいて上階にライを持っていくティラー。
「ラックワイトさん」
「今度はミライ一等兵。どうしましたか」
「自分とイセンさんはどこで就寝すればよろしいのですか?」
若干怪しい敬語を使いつつ自分の部屋の所在を尋ねる。ミライが来た方を見ると、イセンにサーマンはまだまだ盛り上がっているようだ。
「二階に上がって左側突き当たりですね。イセン一等兵と相部屋ですので仲良く使ってください。角部屋で南向きの好物件です」
「……了解です! こんな場所でも向きによって変わるんですね、ありがとうございます!」
「いや、冗談です……」
「あっじゃあ今日のところはこれで!」
ティラーに続いてミライも階段を上がっていく。ラックワイトが頭を抱えていると、またまた声を掛けられた。
「ラック中尉、もう飲めませんか?」
「別件です。お気になさらず」
それを聞くとミルミドは笑いながら持ってきた缶を机に並べる。
「良かった良かった。私、ちゃんと二人分持って来ちゃいましたから」
ちゃんととはなんだ? という気持ちに駆られるラックワイト。今しがた空き缶を縦に積み机に確保した空間。置かれているのは二人分と言うがそこそこの数の新顔ビールたち。
「あの、ミル曹長。明日は准将がお見えになります」
「了解。教えてくれてありがとう」
「えー」
そうなのね。今日は少し抑えようかしら。という反応を待っていたが、思い描いた返答にかすりもしない。
「サーマン少尉とイセン一等兵もまだ飲んでるみたいね。私たちも負けられないわね」
「勝敗は知りませんけどね」
深酒組の夜は続いていく。




