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サテライトルート9

 



「ロウン中尉殿には助けられましたよ。道中は私たちにお任せください」

「……」


 ロウンは帰還にあたり一分隊と行動を共にしていた。正確には、恩を売ろうとした分隊長の提案により編隊に混ざっていた。

 サーマンとの交戦で何も見えなくなっていたメインカメラも、時間が経つと違和感なく外を映す。ロウンの目には数十キロ離れた小隊同士の戦いまで見えるほどに。


「私どもでしたら見えるかも分からない長距離からの支援狙撃、普段から上官を尊敬する気持ちあればこそーー」

「それは私の実力だ」


 手を出した切っ掛けは負けたことの憂さ晴らしでも、戦果を稼ぎたかった訳でもない。ただの腕試しである。実のところ、調子は悪くなかったので少し安心していた。


「片腕で三度の狙撃、二機撃墜の一機中破は流石としか言いようがありませんな。女性の中で最もエースに近いパイロットと言われているのは伊達じゃありませんな」

「それは揶揄だ」


 めげずに太鼓持ちを続ける分隊長。特に気にしていないロウンだが、隊員達は気まずい沈黙に包まれている。


「そうだ」

「何ですか、中尉殿」

「あの隊員に撃墜数を二機加算しよう」


 この提案はロウンによる純粋な善意からだった。彼女を選んだのは、傍目に見て二機を倒すか倒されるかという所だったからだ。


「な、私ではなく、彼女なのですか?」

「中尉殿、私で良いのですか?」

「あなたの戦いが終わる前に手を出したのはこちらなので。隊長、敵全滅では不服か?」


 本来撃墜数の譲渡行為は推奨されない。しかし、ロウンは特に気にしている様子はない。


「そろそろお別れですね。ありがとうございました」


 分隊長の返事を待たずに一機ルートを逸れるロウン。ある程度の実力を誇る操者の宿舎と、その機体を整備する区画がある方へ向かったのだ。全体的に黒い建物が多いのは、灰色一辺倒なモノとの違いだろう。ロウンは機体を地表に着地させ、本人も早々に降り立った。


「これまた手酷い損傷だな。前面に付着してるものは液化塗料か。待てよ、思ったより人員がいりそうだ。忙しくなるな、これは」


 基地に着くなり整備士が所感を述べる。ここから先は彼らの仕事となるので、ロウンはこれまでのことを宿舎にいるであろう上官……マナケルへ報告に向かう。ただ、ひとりごちる整備士に一ヶ所引っ掛かる節があったので、口を開く。


「そこまでの動員は必要ないです。他に機体はありませんので」


 それだけ言うと、宿舎の方を向いて歩き出す。彼の表情までは見ていなかったが、それ以降特に声も掛けられなかった。


「バイル……いつからそこで待っていた?」


 宿舎のエントランスには、生身で煙草を吸っているバイルの姿があった。呼び掛けられると彼は灰を落とし、深く息を吐く。


「今しがた別の任務から帰って来て、隊員の見送りを済ませ、マナケル少将に報告をし、一服を味わっていた所ですよ。自分の意思で休憩していたつもりだったんですが、実は待たされていたのでしょうかね?」


 べらべら喋っているが、帰還してようやく一息ついた所らしい。それもそうだ。軍の中に何個の小隊があると思っているのだ。今しがたロウンとサーマンが交戦してきたなどと、バイルにしてみれば予想できるはずがない。


「……ああ、そう言うことか」

「そう言うこと?」


 不思議に感じたバイルは煙草を揉み消し、与圧服を着ようと奥へ行く。いつもはこんな現場に立ち会われたら生身でうろつくな、煙草を消せ、などと注意をされるのだが。


「その喋り方が糞のサーマンと似通っているのだ」

「サーマン? ああ、PCPのパイロットですね。もしかして、一目みたくて密会でもしてきーー痛っ!」


 後ろを振り向くと宇宙服の頭部が漂っている。ロウンが鋭い目付きで睨み付けて来たが、威圧をかけるには少し身長が足りていない。むしろ背伸びしている少女にも見えて可愛らしい。


「私はこれから報告に向かう。貴様も来い」

「ええ、スピリッツを嗜んで一眠り入れる予定だったんですが」

「酒を入れる前で助かった。行くぞ」

「肴になるような話は……無いよなあ」


 ロウンはバイルを連れてここの本部長を務めるマナケルの部屋へと向かう。


「ロウン中尉です、報告に参りました」


 ノックをして上官の返事を待つ。そう時間が経たない内に入れと一言。間髪いれず扉を開くロウンと一応真剣な面持ちを保つバイルがマナケルの目に映る。


「バイル中尉? 先程報告は聞いたが、不備でもあったか?」


 マナケルは歳を重ね頭は白く染まっているが、最前線に立っていた頃から気迫が衰える様子はない。それどころか最近額の皺と共に風格も増してきた気がする。

 バイルは上官の質問に答える前に、隣のロウンを一瞥した。少将は煙草の匂いが好きではないため、あまり喋りたくないのだ。視線に気付いているのかいないのか。ロウンが微動だにしないため嫌々話し始めた。


「え? いやそうですよねえ……アハハ……」

「バイル中尉は私の付き添いです。彼が前に接敵した敵軍エース級に出会いましたので、情報の共有をしたく存じました」


 お前喋るんかい! せめて俺にも理由を先に言えっつの! と思いつつも今度はマナケルの顔を伺うバイル。見る限りいつもの仏頂面にしか思えないが、今の言葉で腑に落ちたのだろうか。


「まあいい。同席を許そう」


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