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サテライトルート8

「もうすぐ初任務も終わりか。終わってみても長かったな」


イセンには行きでは気付かなかった発見をした。それは、付近を通る味方機の状態である。衛星から出ていく機体は特に目に留まることはない。しかし、向かう機体はというと大体が大なり小なり傷を負っている。四肢のいずれかが故障していたり、中には他の機体の手を借りて帰還しているものだったりも見受けられる。


「楽しくなかったですしね」

「さて、ドックに機体を預けます。あまり損傷が酷いと小言を貰ったり勝手に盛り上がられたりしますが、今回は特に何も言われなさそうですね」


本人は両腕が壊れかけているが、全く気にしている様子はない。


「武器を失うのはいつものことなんですかね……」

「消耗品と割り切ってるんでしょうか。言うなればインスヴァイトも消耗品っちゃ消耗品ですけど」

「消耗させないようにせいぜい頑張るとするか」


この任務の前、上層施設アテナイが襲撃された戦いでは両腕を破壊され、相手の固めから抜け出したイセン。恐らくあれは激しい損傷に入っただろう。


「そう言えばファルーが長剣をバコバコにしたせいで鞘にうまく納まらなくなってましたね」

「整備班の人から芸術点貰っちゃうなあ」


そう言うと先端しか収まっていない長剣を在るべき場所に押し込もうとするが、入る気配は微塵もない。


「武器を叩き潰すのは芸術なのか?」

「身でも心でも戦う前と何かが変わっていたのなら、それは密かに創作と喪失が行われた痕跡なのです」

「誰の台詞だよ」


サーマンが謎のロマン味溢れる発言をするも、イセンの心には微塵も響かなかった。芸術に興味が無いわけではないが、人の好みにまで突っ込んでみるほど好奇心が旺盛ではないのだ。


「好きに引用してくれて構いませんよ。私達の心の変化は、結果から過程を類推することしか出来ない……」

「もう黙っててくれないかなー」


当て付けのように思ったことをペラペラ口に出すサーマン。まるで独り言のように呟いてはいるが、間違いなくイセンに向けて放たれたものだった。

先頭を進んでいたサーマンが減速、緩やかな着地に備える。気が付けば灰色の衛星が間近に迫っていた。


「久し振りの地面ですね。あんまり地上感は味わえませんが」

「モノだっけか? 衛星だしな」

「それだけではないわ。今日は週一のスパゲッティよ……!」


久し振りにミルミドが口を開く。表情を察することは出来ないが、きっと目を輝かせていたことだろう。


「ミル曹長は味方を撃ったのでお預けして宇宙食ですけどね」

「え」

「各自インスヴァイトから降機してください」


軽い口調ながらも圧を感じる。今度は目の前が真っ暗になったミルミド。インスヴァイトがブラックホールにでも飲み込まれたようなテンションだ。


「宇宙食ってそんなマズいですかね?」

「比較対象が悪いと言うか何と言うか……」

「私のスパゲッティ……」


機体から降りてきた隊員達。遠くで新たに飛び立つ機影が見える。出発の際に使ったマスドライバ装置の所だ。サーマンは装置の方とは反対の建物に向かって歩いて行く。任務の時のようにとことこと追従していく。


「ちなみにミル曹長がジャンダルム隊に転属した理由も」

「理由も?」

「よく知りませんね。そもそもしっかり情報を記録した媒体が本部にあるのかすら微妙なところです」


しれっと話しているがミルミド本人は放心してそれどころではない。


「自分ら二人がジャンダルムに配属された理由はなんなんですか?」

「志願です」

「ド変人ではないか」


目指している建物の目の前まで近付いた。よくよく見ると無骨な外観をしている。鉄筋コンクリートで作られた小学校の校舎のようだ。


「ちなみにサーマンさんはどうしてジャンダルム隊に?」

「聞いちゃうんですね。うーん、今日の晩酌でお話しします。だいぶ端折り端折りですけどね。ご飯も美味しいですし」


晩と言うのが一体いつだか分からないが、中々広大な建物内に入るとファルーが歩いていった先は、冷蔵庫。小ぶりながらも中にはみっちりと具が詰まってるようで、しゃがんでビールの類をあれこれ吟味している。横顔だけでも楽しんで手に取っているのが分かる。


「やれやれ。宇宙服くらい着替えてから選びなさい」

「私のスパゲッティ……」

「サーマン少尉殿? ミルミド曹長が壊れてしまったんだが、放置でいいのか?」


イセンが指差した先を見ることなく、サーマンはくすりと微笑む。


「長くても来週には治りますよ」

「本当に最長のパターンを話すのだな」


イセンも身長は高いが、サーマンとは背伸びすれば埋まるくらいの僅かな差がある。同僚のような兄弟のような感覚で会話をするイセンは、戦場から戻り日常に帰るという心地良さに浸っていた。サーマンにとっては当然のように長続きしない束の間の休息でも、イセンにとっては戦いのない日々が日常なのだ。そんな彼を見て、どこか懐かしい気分になって、インスヴァイトに乗って間もないーー初任務のことを思い出していた。


「よ、隊長。センチです?」

「私も新兵の頃なんてあったな、と思いましてね」


両手に酒を抱いたファルーがやってくる。中々気分が上の空だった。


「ちぇ、これでも気付かなかったら顔に缶を当ててみたかったのに」

「今のファルーなら手のひらもよく冷えてそうですね」


いつものように笑いかけるサーマン。ファルーは鼻を鳴らし、一言。


「戦場で浸ってたら死にますよ」

「有事の際はもっぱら斬る側なんで安心してください。休んでる時まで兵士だったらお酒飲めませんよ」


それを聞くとファルーは笑いながら、持っている缶を一つ投げ渡す。


「余計なこと言っちゃいました。早く飲んだ方が良いかもしれません!」

「私は上階の皆さんを呼んできます。飲むかー」


ふらりと階段に消えていくミルミド。もう夜は更けたらしい。


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