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サテライトルート7


心臓は激しく鼓動し、息を落ち着けるのに必死だった。結果が実感として襲い掛かってくるのは、全てが終わった後だった。


「この宙域でやることは終わりました、迅速に撤退しましょう」


ミルミドが指揮をとる。ジャンダルム隊の中では、サーマンを除くと最古参といっても良いだろう。


「……あー、敵軍の装置は破壊したんだよな? やることは残ってないってことですよね?」


ファルーが言いづらそうに口を開く。


「ライが聞いたらブチ切れるから、そこまでにして頂戴」


ミルミドも心中穏やかではない調子だ。どれだけ機体の速度を上げてもこの空気からは逃れられない。


「五人じゃなかったのかサーマン……自分の任務を最要に……」


イセンはサーマンの言葉を思い返すように反復していた。自分の任務を最要に。ノア擁するPCPの中ではよく使われている合言葉だった。




「うるさいですね! 撃ち漏らしたって何度言ったら分かるんですか! 私に偉そうにするなら一人であのガキンチョ倒しにいってきてくださいー」


先程からイセンとの口喧嘩が止まないサーマン。案の定、右の手甲にも仕込みがあったのだが、実戦で使うのは初めてだった。爆風で誤魔化す左のものとは違い、接近戦で真価を発揮する。今回はなんとかなったが、これからはこのような任務も増えていくのだろうか。


「こんのバカ二人! いい加減にしないと背後から中撃電弾食らわすわよ!」

「くっ……ミル曹長にそこまで言われたら……引き下がりますか」


ミルミドがいつまでたっても終わらない言い合いにしびれを切らした。イセンの聞き慣れない単語にサーマンが食い下がったので、不思議に思う。


「中撃電弾?」

「装甲を伝って内部に軽い電撃が走る弾です。要するに……滅茶苦茶痛い」


ファルーが説明を挟む。ミルミドの意図を察したイセンも大人しくなった。二人の反応から察するに、PCPーー少なくともジャンダルムの中では割とメジャーな武装なのだろうか。


「いやーやっぱりサーマンは強いなー敵の隊長を引き受けてくれるなんて大したものだー」

「そうそう。もっと褒めても良いのです」


満足げに頷くサーマン。もうすぐ遠くに衛星モノが見えてきそうだ。帰りの方が幾分か早く到着できそうだ。


「イセン一等兵、今から使うのでサーマン少尉の反応を見逃さないでね」


ネタのようだが見慣れない銃に持ち替えるミルミド。イセンとしては自分がターゲットから外れて一安心なのだが、サーマンは血の気が引いている。


「今のは私悪くないのでは!?」

「敵の隊長さん……そんな若かったんですか?」


不意にミライが口を挟む。先の戦いでは撃墜数一機。敵機の頭をはね飛ばした後、胴体を破壊した。


「どういうことですか?」

「えと……さっきガキンチョて……」


サーマンとイセンが喧嘩していたときの言葉を思い返す二人。サーマンがあそこまで躍起になってるのも中々珍しい。


「あ、アレか……いや失礼、多分ですけど相当若いですね。十代後半か、それ以下か……右手甲の氷煙弾を起動させたときは酷かったですね」


サーマンは先の戦いを振り返る。最初に聞こえたのは不機嫌そうな女の子の声だったが、思えば終始相手が怒鳴っていた記憶がある。


「イセンさんも弾撃てるんですか?」

「仕込みですので最後の最後にしか使わないですし使えませんけどね。左手は煙幕の役割をする弾があるので、不意を討つのに使いますね」


早々に手札を切らされましたが、と心の中で付け加える。サーマンが戦ってきた中でも屈指の相手だった。


「右手は? 何が入ってるんですか」


ミライはそれよりももう片方の仕込みに興味が向かっているようだった。氷煙弾。確かに聞き慣れない人にとってはどういう弾か想像もつかないかもしれない。


「氷煙弾は読んで字のごとく、氷を煙のように広範囲に撒いてくれますね。機体に付着したとなると取りづらいわ前見えないわで苦労しますねー、ロウン中尉。片腕もないしあー大変そう」


人の不幸は蜜の味と言うが、それが敵軍ならば文句を言う人もいない。今もギャーギャー喚きながら帰還しているのかと思うと、サーマンは少し微笑んだ。出来れば再戦するまで死んで欲しくは無いものだ。


「聞く感じ武器さえあれば撃墜できそうですね」

「ま、相手に先折られてるんでイーブンって所でしょうね。そうだ、今度予備の刃でも作ってもらおうかな」


とは言いつつも、サーマンの機体は大分型が古い上に手先も器用ではないので、そう簡単にいかないことを知っている。仕込みを外す時のことだけを考慮しているため、戦場でパイロットが装着しようと思って装着するのは構造的にも難易度が高い。……乗り換える頃合いだろうか。時代に追い付けなかったのだ。こればかりは、仕方がない。


「でも、氷いれてるんじゃめっちゃ冷えそうですね」

「そうでもないですよ? 元々液体ですし。これを使った機体はヌーフも作っているそうですが、私の機体と違って色々と武装が豊富そうで。羨ましいですよね。個人的にはロケットパンチさえついていれば文句はないのですが。良いですか、百の兵器よりロケットパンチ、でーーぎゃあ!」


サーマンが時々始める機体についてのあれこれは、いつもミルミドのそれはそれは冷えきった目と、ラックワイトの困惑しつつもとりあえず口を出さない姿勢により成り立っているのだが、今回は許されなかった。男組はというと、ファルーはもちろんティラーも乗り気で話を聞いてくれるのだが。


「これ一番威力低いやつ。隊長が身体を張って実演してくれたので、皆は気を付けるのよ」

「は、はい……」

「了解した……」


平然と味方の機体に弾を撃ち込むミルミドに少し心の距離を取るミライとイセン。


「な、なんで……話が脱線したからですか……?」


新人二人の実弾を使った教習に巻き込まれる形で犠牲となったサーマンには疑問が禁じ得ない。実のところ五人中二人が初任務の中接敵、被害は最小限に敵部隊を五機中四機撃墜というのは賞賛が贈られるべき結果と言って差し支えない。


「そう言えば相手の隊長さんの話でしたね」

「ロウン? って方が氷煙弾を食らったところですね。カメラが見えない見えない言ってるうちは良かったんですが、地上波でお届け出来ないようなことをあれやこれや……」


思わず身振り手振りを取り入れて話し込むサーマン。微妙に機体が蛇行してるので、見てる側からすると少しヒヤヒヤする。


「口めっちゃ悪かったんですね」

「ええ相当。しかもイセンさんにも文句言ってましたね」

「私もなのか」


ミルミドに恐れをなしたわけでは無いが、少しの間ミライとサーマンの話の聞き役に徹していたため急に話題を振られて若干動揺するイセン。


「狙撃に相当の自信があったようで、偶然とはいえ外れたのが許せなかったようですね」

「危ない危ない。その偶然が無かったらと思うとゾッとする」


つくづくとんでもない相手だったと頭をかくサーマン。衛星モノに近づくにつれ、ちらほらと味方機が目に映る機会が増えていく。出撃時に目に入った衛星軌道隊……SOSは、今は近くには居ないようだった。


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