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サテライトルート6





サーマンが交戦している宙域では、衛星になり損なった宇宙岩が多く見られる。そのうちの何個はダルクの両腕に装着された刃付き手甲によって寸断されていた。


「あー、あー……ん?」


無線のチャンネルを変えつつ発声を続けるサーマン。何かが引っ掛かったのか、集中的に声を投げ掛ける。


「……うるさい」

「ああ、繋がった。こちらサーマン・クラスプと申します」


サーマンの声が煩わしかったのか、若い女性の声が応じる。


「あちらは終わってしまったみたいですね。全滅したのか何人か逃走したのかは知りませんけど」

「私を除いたら全滅だよ………帰ったら怒られるじゃないか」


他四人への思い入れがそこまで重くないのか、帰還後の評価を気にしている様子。


「その事ですが、今降参してくれたら楽で良いんですが……」

「そういえばバイルが言っていたな。やたら非戦闘に拘る奴が敵の旧式に乗っていたと」

「二回も取り逃す気は無かったんですけどね、あの人」


少し前を思い出す。名前はパッと浮かばなかったが、そんなこと言うとしたら腕を負傷してた時に戦ったやつだろう。実のところ、ダルクに乗って戦闘を途中で切り上げたのはあの一回のみだが、目標を討つことには二回中二回失敗している。あちゃー、とため息をつくサーマン。


「貴様を討ってさっさと帰れば多少は減刑されるだろ」

「私を討てるならこちらを全滅させるまで頑張れるんじゃないですかね?」

「そちらの操者の中でも下らんジョークが流行ってるのか? うんざりするな」

「ジョークを言うだけでそんな冷えられるのは心外ですが、今回は別にふざけてないです」


サーマンと対面しているパイロットーー今しがた聞いた敵兵の断末魔によると、ロウン。階級は中尉ーーは全く引く様子もなければ、この程度の会話で心変わりする様子もない。サーマンの手に力が込められる。


「少なくとも四機と渡り合おうとする時点でふざけているか、ふざけた強さは持っていてくれよ……」

「彼ら、発展途上なんで。甘く見ても三機半かそこらの実力しかないですよ。私が死ぬとしたら土産に腕一つ二つもぎ取っておかなければ、マジに全滅しかねない」

「ふざけたジョークは嫌いだ! こっちはエース級候補生の教育隊だぞ!」


ロウンがそう言い放つと同時に瞳孔を開き、標的を見据える。構えているのは銃剣か。

彼女の機体にはあの大きさの銃器を照準器越しに構えることは不可能だろう。少なくとも構造的に無理そうだが、狙撃のようにスコープを覗かずとも当てる自信も実力もあるのかとサーマンは考察する。


「本気なんですけどね」


サーマンが回り込みつつ改めて相手の機体を伺う。一般的なトロップとは違い、明るい水色にお馴染みオレンジの輝きを放つ。宇宙でよく映える配色。モードCで輝かずとも目立つカラーはデメリットも多いがサーマン個人は嫌いじゃない。


「ちょこまか動きやがって……」

「そんなもので撃つからですよ」


仮面のようにのっぺりした頭部の、ちょうど口に当たる部分が装甲の継ぎ目になっているため、まるで両端の口角を上げて笑っているようだ。


「……ジョークは嫌いなんですよね」

「しつこいなあ! 冷静さを欠かせても、勝てるわけではないからな!」

「むむ」


トロップもどき? の頭に刺さる杭は敵軍であることを示す奇数の三本。脚部はトロップよりマッシヴ……がっつりと力強い。腕部もそれなりに太く、機体、パイロット共に一筋縄では行かないであろうことが推測される。


「こちらからも動きますか」

「ようやく攻めてくるのか。見たところ遠くから手が出せる機体ではなさそうだな」


殺し合いを演じる当事者二人にしか分からない気配の機微を読み取り、一転引き撃ちに移行するロウン。対するサーマンも、ターンやロール……縦軸回転を挟みつつ、ダルクの有効射程に持っていこうと距離を詰める。


「読みが甘い!」

「くっ!」


ダルクの刃が届く前に、ロウンはビームを命中させる。あわや頭部に当たるかという所で、左の手甲を使い機体を庇う。


「バイルには口だけ達者なやつだったと言っておこう」


先の攻撃が当たることを見越した上で、次々と射撃を送るロウン。手甲は限界を迎えたのか、彼女の視線の先では派手な爆発が起こる。


「お褒めにあずかりーー」

「クソが!」


サーマンに対するレスポンスが非常に速い。ロウンは器用に銃を一回転させると、オーバーヒートした銃に装着された銃剣を使うために持ち直した。


「ふんぬ!」

「危ない危ない」


ロウンの頭上を陣取っていたサーマンに、銃剣を突き出す。一歩も引かないロウンの気迫に、一旦離脱するサーマン。かといって銃を使おうものなら即座に斬り込める距離感を保つ。


「大袈裟な爆発しやがって」


ロウンはちらりと先程撃ち抜いた手甲の残骸を見る。射撃を何発か受け止めた鉄塊は、表面に穴が空く前に内部から爆破された痕跡が見える。


「姑息なやつだな」

「格闘用の武器二つでやりくりしてるんで多目に見てくださいよ。今や一つだし」


サーマンが武器を構えると、ロウンも掛かってこいとばかりに得物を一回転させる。もう射撃戦に持ち込むつもりは毛頭無さそうだ。


「なんだ、イケる口ですか、格闘戦」

「最初から相手の間合いで戦うやつが何処にいるのだ」

「その割に銃剣なんて半端なの使うんですね」

「ハイブリッドと呼べ!」


最初に引き撃っていたのと対照的に懐へと攻め込むロウン。


「いやあ……まともに受けたらヤバいですね」


銃剣がサーマンの間合いに入った瞬間、素早く右腕で横凪ぎを繰り出すも銃剣を両断することは叶わない。切れないなりに弾かれるまま距離を離し、ロウンの突きは空振りに終わる。


「お前、一撃が軽いな……」


冷酷に言い放つロウン。銃剣銃を左に持ち替え片腕で支える。両手を使うまでのないと踏んだのか。空いた手はを背部へと回し、新たな武器を取り出すようだ。言動ともに、サーマンは特に気にしてないらしい。


「隠してる訳でもないですが、バイルさん? から教わらなかったんですかね」

「そう言えばそうだな。奴め、一太刀も入れられず斬り伏せられたのか」

「んー、そう言えばそうだったような。一太刀も食らわず間接部を切断しましたね」


不意に、サーマンが目にも留まらぬ早さで敵機の胸元へ肉薄する。そのまま残された右の刃で左の肘間接部を貫いた。


「片方貰いましたよ」

「貴様こそ既に片方失っているのを忘れているのか?」


彼女の言っている意味がよく理解出来なかったが、とてつもなく嫌な気配を感じるサーマン。すると、自機の右腕に違和感。


「ぬおおお……!」


ロウンは切断部が完全に切り離される前に、右腕で左手首を先から押さえつけ、力を込めた。刃の摩擦でダルクの手甲と改良型トロップの装甲が熱を帯びる。


「今さらそんな事をしてもくっつきませんよ?」

「ふうん!」


ロウンは機体を捻るように回転させる。一見サーマンの機体を抱いて振り回したような動きだが、連れてかれたのは彼の手甲のみだった。ダルクは置いてけぼりである。ーー音こそしなかったが、ぽきりと何か壊れた感覚がした。


「んえ?」

「後は倒すだけだな」


ロウンは笑みを溢す。サーマンの方は咄嗟に機体を縦回転させ、弱った肘間接を踵で蹴りつける。


「今さらそんな事をしても貴様を倒すのに左腕など使わん!」


今度は右腕で銃剣銃を手に取り、銃を握ったままの左腕の肘から先は蹴り飛ばし、逃走するサーマンの機体に銃を構えた。コックピットのモニタには、銃口の照準先をズームした狙撃専用の映像が表示される。最初にイセン機を狙ったのと同様のものだ。

ロウンがこのモードで獲物を仕留め損なったのは先程が初めてであり、今度はイセンに対して静かな怒りが湧いていた。


「これで終わりだ!」


ロウンの視線の先で、白い光が炸裂した。先程のウェンの手甲とは違い、きれいな光だった。



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