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サテライトルート5


「我ながら接近戦は苦手なのよ。私の盾になってくれる?」

「もとからそういう手筈ですからね」


四機と四機、計八機での戦闘だが乱戦に持ち込まないよう立ち回る。以前見たトロップという機体のようだが、両手に鉈のような武器を構えている。みな近接向けのカスタムなのだろうか。


「そもそも私にヘイトが向いているようだな?」

「自分に追突するからですよ!」


ファルーが正面に躍り出て、いち早く先頭の敵機と交戦する。


『こっち来なさいよ! あ、一人でいいでーす』

『連れないこと言うなよなあ』


ファルーの言葉にもう一人が釣られる。良い、事前の作戦通りだ。同数での戦いではミルミドが引いて、余った敵機はファルーが受け持つのが理想形と言われている。


「自分らも行きますか」

「了解」


イセンは右側、ミライは左側に展開し、それぞれ一機を引き受ける。もしイセンが銃器を抜いても、遠距離武器として取り回せるほどの猶予は残されていない。左手で背中の長剣を引き抜いた。


「むう、やはり耐えるのが精一杯か……」


相手の右腕から振り下ろされる得物を弾く。イセンが体勢を制御するより早く、もう一振りが横凪ぎに襲いかかる。


『立て直しが遅いな! 味方に追突するだけあるぜ!』


今度もかろうじて長剣を合わせるが、衝撃を殺せずウェンの体勢を把握するのが遅れる。


「今までの慣性は相殺しないで、上方向に動いて」


ミルミドの助言を聞くが早いかイセンは体勢を立て直す。もっとも、本人も機体の体勢を理解してなかったため、一拍遅れて動き始める。


『なんだよ! 無駄に生き延びやがって!』


敵機は当たると確信していた両手の鉈振り下ろしが外れたのを悔やんでいるようだ。


『無駄な命はないと思うけど、あなたは殺してあげる』


戦場を俯瞰していたミルミドはイセンの相手に狙いを定めた。冷却を済ませた長銃から放ったビームは右肩を損壊させ、右腕が宙を漂う。トロップの青い装甲下からオレンジの破片がきらきらと溢れた。


「イセン一等兵、後は任せられる?」

「勿論だ」


言うが早いか露出した右腕の付け根から長剣を突き立てる。壊れかけのトロップは素直に刀身を飲み込んだ。


『ああ、これが公開無線か』

『てめえ、味方が強いだけで調子乗りやがって……』

『私も射撃は案外得意なのだがな』


相手を蹴り飛ばし、 腰のピストル二挺を引き抜くイセン。もはや勝敗は決まった。後方のミルミドは次に支援を送る相手を見定める。

左翼のミライと相対しているトロップは頭部を失い、ファルーは未だ二機のトロップを食い止めている。


「ファルー軍曹、私の位置から右の敵を撃ち抜く」

「分かった。俺の二打目でフライを上げようか」


ファルーは迫る敵を交互に弾き返し、一対一を強要している。相手も息を合わせて構えるが、それをみるや一機の懐に飛び込んでタイミングを乱す。なかなか崩れないファルーに相手側は耐久戦で体力を削ろうとしていた。


「まずは一撃!」


ミルミドからの通信に答え、予告通り左の敵に強打を叩き込む。弾かれた相手はファルーが無理に攻めてこないと踏んで、落ち着いて機体を制御する。


「打ち上がれえぇ!」


ファルーが張り上げた声と共に、ミルミドが狙いを定めたトロップが跳ね上がる。獲物はファルーの頭上高くに機体まるごと吹っ飛び、手放された武器にはひびが走り、間違いなく今日一番の重さを伴った一振り。打ち上げた本人は人知れず満足した。高揚感から心拍は激しくなり、血液が駆け巡る。


『自ら視野の外に敵を置くなど、功を焦ったか!』


敵の声などもうどうでも良かった。始めに弾いた相手が油断していたことだって。

奇襲を掛けようとしたトロップだが、ファルーのウェンはぐるりと振り向き、剣の背で凪ぎ払う。


『な、なんだよコイツ! 今ならやれるだろ、誰か援護してくれ!』


弾き飛ばされた後に代わってくれる相方はもういない。再び長剣が叩き込まれる。


『おい、みんな! ロウン中尉! 早く駆けつけろ!』


恐怖におののく敵兵は、もうまともに機体を動かすこともなく、絶叫に近い声だけが生きていることを示していた。


『…………』


無線を通して聞こえていた声は消え、小さなノイズに変化する。それでも敵機を滅多に打ち続けていると、一際大きいノイズが漏れた後、静寂が戦場を包む。辺りにブワっと吹き出たオレンジ色の粒子は、不気味でもあり綺麗でもあった。


「サーマン少尉が帰ってくれば完勝ってところね」

「いやあ……」


ミライがなんともつかない言葉を絞り出す。少しだけ機体を動かし、ファルーと交戦していた敵兵の棺桶ーー凹凸だらけにひしゃげたほうーーを観察する。

Cモードのインスヴァイトは、心の強度に応じて質量が増すのだとやんわり説明を受けたことはあった。

今ひとつ感覚的であまり想像が湧かなかったが、何者かに踏み潰されたかのような打痕は、想定外の質量に機体が屈したことを表している。前の戦いでは機体差に開きは感じられなかったウェンとトロップの一騎打ちにも関わらず、である。


「あー、あー」

「呑気にマイクチェックですか? サーマン少尉」

「まだ交戦してますよ。生存者は、私が生きているうちに各自不備はないか動作確認を」


それだけ伝えると、また謎の音声テストに入るサーマン。


「今はちょっと、笑うに笑えんジョークだな……」

「本人は大マジなのよね。二人には……ちょっと、タイミングが悪かったかもしれないけど」


今までひっそりと聞いていたサーマンの、一定の調子だった発声が一瞬上ずったが、他隊員に気付かれることはなかった。



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