サテライトルート3
レッドクロックが衛星リングに着陸する。サーマンいわく、軌道エレベータ高層の人工衛星を繋ぐリングなのだとか。リングと言って思い浮かぶ細さではなく、端から端まで目視することも難しい。遠目からはほぼ確認できなかった軍事施設も、いざ来てみると中々大きい。人工物という括りではここまで立派なものも、宇宙の中に混ざるとほぼ無に等しくなってしまうのは感慨深い。
「さ、レッドクロックが収容されるので、手すりなどに掴まっていてくださいね」
サーマンと地球人二人は廊下の窓から外を眺める。もう地面に着くまで幾ばくかと言ったところ。
「いよいよ到着か。母星の衛星より先に、他の衛星の土……構造物を踏むことになるとは」
リングの表面は一見すると岩で出来ている。軍事施設が視認できなかったのは、灰色の地平にほぼ溶け込むように建てられていたからかもしれない。
「私たちは衛星リングを踏むことはないですよ? 我々戦闘屋はウェンで出撃しますので」
「たらい回しだな……」
「一回の戦闘が始まるまで中々長いので、出撃回数は少ないですよ。機体が壊れると自力での帰還は絶望的ですけど」
かつてのイセンの母国では、 航空戦において武功抜群の英雄がいたが、交戦までの距離が短く一日に複数回出撃することもあったという。
「そうか、墜落しても復帰できない点はシビアだな」
「あ、レッドクロックが収容される前にウェンを出すので、ちゃっちゃか乗り込んでくださいね」
「ずいぶん急ですね! 前に乗ったウェンどれだっけ」
サーマンに後押しされ、ハンガへと進む。と、そこに後方から声がかかる。
「サーマンさん!」
「ライですか。はい、なんでしょう」
「今回の作戦、生きてお帰りされることを願って……信じております」
「その期待に応えられるよう頑張りましょう」
サーマンの背中に敬礼を送るライ。ファルーはいつもの如く既にウェンの元にいるので、それ以外のメンバーが後ろを追いかけていく。
「これからはコックピットの端末を操作して連絡を取りますので、各自気を配るように」
こちらを振り向き飄々と喋りつつ、サーマンの機体、青色に黒のダルクに搭乗する。ミライとイセンにとっては一週間乗っていないだけでも操作感覚を思い出すのに一苦労だ。
「みんなよく機体が分かりますね、自分はどれがどれだか……」
「それは感心しないわね。これだけは本部に掛け合って特上のを用意してもらったのに」
「特上とは? 機体性能でならこれより上のもあるのではないか?」
「生まれたてってことですよ。お二人と一緒ですね」
自分等は今まで死んでいたとでも思われていたのだろうか。いや、生まれる前は死んではいない。存在していないだけで。とりあえず新品の機体というのがどれくらい重要なのかは分からないが、割と大事な要素なのかもしれない。話の流れとして。
「さて、操作の仕方は覚えてますかね。私が最初に出ますので、最後尾にミル曹長に付いてもらいます」
「任せてください」
では、行きます。と一声残し、サーマンの乗ったインスヴァイトが艦外へ射出される。ファルー、ミライ、イセンと続き、最後にミルミドが飛ぶ。
「着いてきてください、航行しながらブリーフィングしますよ。と言いたいところですが、お二方はどちらにも集中出来ないかと思いますので手短に衛星上で済ませますよ」
「機体に乗ってからブリーフィングするのか。無線なんか使ったら筒抜けになりそうなものだが」
「一応盗聴されたことはないですよ。ないと思ってるだけかもしれませんが」
一抹の不安を抱くイセンだが、どうしようもないので流れに任せる。反対にミライはそこまで気にしていないようだった。しかし、単純に緊張で体が強張る。
「ーー以上です。何か質問はありますか」
あっという間にブリーフィングが終わる。ミルミドやファルーはいつも通り、特に言うことはないといったところ。数ある作戦のうちの一つに過ぎないので、当たり前なのだが。
「……」
「今度は衛星を出ます、着いてきてください」
ミライはイセンと軽く口を聞きたかったのだが、私語を挟めるような空気でもない。質問はないと踏んだサーマンが切り上げて機体を動かす。
「行きますよ。話した通り宙域Ac2へ移動します」
サーマンの後ろに地球人二人が着く。最初はやや遅く……それでも地球の常識を超えた速度であるが、数分後には更に加速した。ミライにとっては初心者が限界すれすれの速度でスキーをしているような気分だった。多分、生きて帰ったら一生今の光景を忘れないのだろう。一方のイセンはバンジージャンプよりは気楽だと思いつつ操縦している。
「イセンさん」
「どうした」
「事前に分かっている作戦も緊張しますね」
「もっとも今回は偵察任務のようだがな」
ミライの初任務は輸送任務だったがな。と心の中で付け加える。つくづく思う通りに事は運ばないが、敵機が五機以内なら交戦。そうでなければ撤退と事前に説明されている。ここまでして想定外などそうそうなさそうだが。
あまり動きのない風景が続くが、たまに凄まじい速度で塵が流れていく。というより流れていくように見える程機体が速い。
「五機編成……我が隊ながら美しいですね」
サーマンがほんの一瞬機体を前に倒し、そのまま縦軸に横回転……ロールする。まさか、あの動きで後ろの状況を確認したのだろうか。




