アースアンバサダー4
「これからどうしようか……」
「今のイセンさんとミライさんは家無しですからね」
ふとこぼした一言に、Tシャツ姿で何気なく呟くファルー。
「しょうがないよな、異星に別荘なんてないからな!」
イセン、地味に気にしていることを指摘される。そうだ、きっとあちらでは行方不明か何かで済まされるのだ。こっちの世界で何が起ころうと誰も気にしないだろう。
「まあ、ブルーピットの亡骸にも部屋は多いですし、そこに住んでみます?」
「ブルーピットの亡骸? この前までピンピンしてたではないか」
その時、またイセンの部屋がノックされる。二人目の客が来たのでドアを開けて迎える。
「お邪魔しますよー」
「よく来たな、そっちで話してたところだ」
ぞろぞろと人が揃う。見てくれだけなら旅館で一息つく観光客のようだ。
「ブルーピットの話でしたっけ。あれは一度のみの大気圏突破を目的とした大型試作艦ですので、もう動かせませんよ。上手くいくかは五分五分だったので、あの時は気が気じゃなかったですね」
「そうだったのか。つくづく生きてて良かったという訳だ」
ふとテーブルを見やるイセン。準備よく用意されているクッキーやチョコレートが旅館らしさに拍車をかける。
「ちなみに、トロンさんのとこに世話になると言うのは、いつ頃決まったんだ?」
「一週間くらい前ですかね。お二方の受け入れ先をどうしようかと言っていたら、トロンさんの方からジャンダルム隊の新顔を見てみたいと言われまして」
「相当懇意にされているのは確かなようだな」
置かれている菓子の袋を一つ手に取ると、少しもてあそんだ後、ミライに渡すイセン。ミライはミライで、さも当然のように封を切りムシャムシャと頬張る。
「そういえば、ファルーさんはどこに住んでるんですか?」
ミライの話を聞きつつ今度はカップを三人分並べ、マグカップにティーバッグを入れる。
「自分と言うかPCPの話なんですが、基本的に軌道エレベーター高層に駐留してますね。自分はヨルク高層のアテナイという施設に住んでます」
「我らが相手のエース級? と交戦したところだな」
あの時撃墜していたかもしれないと思うと、今更ながら背筋が凍る。
「たぶん地上でのサーマンさんの用事がすんだら当分宇宙暮らしだと思います。戦える内はですけど」
「縁起でもないな」
お菓子を食べ終えて一息ついたミライが口を挟む。
「そう言えば、いや自分ご飯キャラじゃないですけど、夕飯どうします?」
「どこか食べに行くか! 平時に三日もあれば普通に旅行が出来るしな」
「ここら辺って何があるんですかね。やっぱ肉ですかね」
昼間の出店で食べた物を思い出しつつ考えるファルー。
「それは我々のチョイスのせいだと思うが、歩いて探すかトロンさんに聞くかといったところだな」
「食べに行くなら全然ついていきますよ!」
ファルーはとりあえず服着替えて来ますね、と部屋に帰る。ミライはジャンダルムに支給されていたシャツを着回してるため、そのまま残っている。
数分と待たず、ドアがコンコンと二回叩かれた。
「ファルーが来たな。行くぞ」
オプシムに一言伝えて館を後にした一行。食事に行く旨を伝えると、 いくつか候補を教えてくれた。その中でもという場所が一番近かったので、ヨルク初日の夕食はここに決定された。
「さて、異星で出される料理……楽しみだな!」
「イセンさん、異星アピールやめてくださいよ……」
店を前にして舞い上がるイセン。謎の羞恥を感じるミライがたしなめる。
「そういえば、お二方は表向きではノアの出身ということになってますよ。ま、そこまで出身地を話す機会はないと思いますけど」
外からは木製の囲いにビニールカーテンで覆われたテラス席が見える。ある程度人で埋まっており、今さらになって予約をしてない事が心配になる。
「いらっしゃいませ。本日は何名様でしょうか」
「三人ですが、空いてますかね?」
「ご案内できますよ。奥へどうぞ」
店の人は真っ白いシャツにベストのようなエプロンを装着しており、柄は深緑と黒ストライプで統一されている。内装は照明が爛々と輝いており、ファルーが手前のソファーに掛けると地球人二人が奥に並んで座る。
「仲良いですね」
「知り合った時期はジャンダルム隊とそう変わらんぞ」
「初任務の時に顔合わせして、その途中で襲撃されましたからね、自分たち」
「悪者みたいですが、こっちもこっちで必死だったんですからねー?」
やや不満げな口調で応じるファルー。
「にしても空いててよかったな。近いとはいえ割と歩いたから……ゆっくりメニューでも見ようか」
いかにも酒と合わせろと言わんばかりのメニューが印刷されている。ミライが何を食べようか悩む一方、イセンは飲み物に目を光らせている。料理が楽しみとはなんだったのか。
「お二人は食べ物何頼みます? てかイセンさん料理決まってるんですか?」
「飲み物も食べ物も今日のおすすめにするつもりだ。ちょうどコピー紙の一番上にパスタが書かれていたことだしな!」
えー、と言いたげな表情でミライはイセンを見る。
「えらくメニューにかじりついていましたが」
「それは情報収集と言うやつだ。この酒は薬草の臭いがするらしいぞ?」
「イセンさん地球でもそんなの飲んでたんですかぁ?」
「地球人アピールやめてください!」
ミライの質問に対してさっきのセリフを茶化して返す。珍しくイセンからからかわれて少し驚いた。
「アピールしてませんよ! もう!」
「いやあ、すまん。割と何でも飲むぞ。一応組み合わせは考えるが」
プリプリしているミライに答えるイセン。常設のメニュー表以外も無言で物色していたファルーも口を開く。
「あ、自分は数量限定? のポワレでも食べますよ。まだあったらですけど」
「洒落た言い方があるものですね。自分の出身地じゃ魚焼いた奴ですよ、それ」
全員頼むものを決めたことを確認して、ミライがベルを押す。程なくして現れた店の方にメニューを伝え、待っている間にイセンが口を開く。
「ミライ。肉以外を食べる気は無いのか?」
「あ、いえ。肉があるなら、肉が良いかなって思いまして」
初任務の時の影響なのか、ミライはイセンから質問を受けると少したじろぐ節がある。特にやましいことはないのだが、気持ち身振り手振りを多用して弁明する。
「数年後には覚悟しておくことだな。いや、逆に今楽しんでおけと言うべきか……」
「イセンさんは割とバランスに気を付けるんですね」
「ファルーも無頓着なのか? まあ、そこまで嫌いな食べ物もないしな」
もちろん外食では好きなもの優先だがな! と付け加えるイセン。なんやかんや三人の中で一番楽しんでいるのかもしれない。




