スペースライフ8
「本艦ブルーピットからミライ、イセンの両名出撃します」
ラックワイトの声と共に、艦から飛び出す二つの影があった。哨戒という名目であるが、二人を実地に慣らすための訓練のようなもの、ということは言うまでもない。
「どうだ、ミライ。宇宙に出たぞ。実感はあるか?」
「その言い方だと無さそうですね、自分もです。ただ、星が綺麗ですねと言いたかったのに、綺麗な星が全くない」
「ここら辺はまったく何もないみたいなことをサーマンが言ってたな」
この宙域には地球や火星など、そこそこの大きさの惑星などはなく、無骨な隕石がたまに目を引くくらいであった。
「ここら辺はデブリも隕石もないから、狙われたらめんどうだな」
「考え方がインスヴァイト乗りみたいになってますね、イセンさん。まあ、私はインスヴァイト乗りのことなんて全然知りませんけど」
インスヴァイトを使ってブルーピットの近くをうろちょろしていると、モニターに通知が届いた。サーマンからの通信だ。
「初めての宇宙遊覧はどんな気分ですか?」
「特にシミュレートと違いはないな……なあミライ」
「ですね。強いて言えば、シミュレートの中ではエンジン吹かし放題ライフル撃ち放題だったので、その点が違いますね」
ウェンは電力と人の心の動きを動力に組み込むインスヴァイト特有の心動力の二つから稼動している。更にブルーピットなどの戦艦ともなると、人が搭乗したインスヴァイトから心の残滓を集め、燃料に回すと説明されたが、ミライにはよく分からなかった。
「そうだイセンさん、ブースターを切って押し相撲しましょう」
「面白いのかそれ……」
広大な宇宙で二つの機体が手を合わせる様は、見てくれだけなら割と面白い部類に入っているだろう。
「せーの、それ!」
「ふんぬ」
ミライの機体はあまり下がらなかったが、イセンの機体は当然押されて後ろに滑った。
「む、移動距離が全然違うな……」
「ミライさんは心動力となる心の質が良いんでしょう。うちのファルー軍曹と一緒ですね!」
「俺の心の質が悪いというのかサーマン」
「そう言うことでは……イセンさんてばたちの悪い」
「前に人によってインスヴァイトに仮想質量が足されるみたいな話を聞いたのと、ファルーさんとヌーフの棍棒を持った機体が正面から叩きあってるのを見て、やってみたくなったんですよね」
ウェンとヌーフの機体では質量や動力が違うので一概には言えないが、ファルーはかち合いに強いため、白兵戦では優秀なのだという。
「にしても、自分にジェットパックが付いてる気持ちで、中々面白いですね」
「やはり手足が付いてると一体感みたいな気持ちが生まれてくるな」
その後、思い思いに機体を飛ばしていると、サーマンから戻ってこいとの連絡を受け、二人はブルーピットへ帰った。
「イセンさん、ミライさんお疲れさまです。突然ですが、悲しい? お知らせがあります」
「悲しいお知らせですか?」
「はい、五日目の明日は訓練するの禁止です」
「え、何か今日の操作で不備でもありましたか?」
「また自分を落とせとか言うんじゃなかろうな?」
サーマンはインスヴァイトの操作をしたがっている二人を見てひそかに喜んでいた。
「いえ、連日インスヴァイトを操作しているので、健康面から見ての中断です。少し体重の変化とかも気にしてください」
「無重力だからよく分からんのだけどな」
「インスヴァイトに乗りすぎると体が軽くなるので、対人だと不利かもしれませんね。まあ、この艦の中じゃ関係ありませんが」
コックピットの開いたウェンの中から声がする。ファルーがこちらを覗いて話し掛けてきた。
「この艦も何も、人と人が殴りあったりするのか」
「惑星ノアでは分かりませんよ。俗にいう懲罰部隊の新入り異星人ですからね、貴方たち」
そう言われると確かに不安だったが、まあ今さらなるようになれといった感じで、イセンは特に気にしなかった。
「ファルー軍曹、最近やけによく喋りますね。まあ、その方が気が楽でいいですけど」
「……」
「あれ? そういう感じですか? おーいファルー軍曹ー」
「俺らはどうするか……」
格納庫を出て話し込んでいると、前からティラーが歩いてきた。
「よ、お前ら。実地訓練おめでとうよ。俺はパイロットじゃないからよく分からんが、サーマンに勝ったんだって? 中々やるな」
「でも、サーマンさんは片腕だし避けるだけでしたよ」
「それでもさ。サーマン少尉はノアじゃエース級の腕だったんだぜ?」
「それなのに懲罰部隊なんて言われる場所にいるんですね」
若干ティラーにも失礼な物言いだが、特に気にせず続ける。
「なんやかんや言ってパイロット陣は優秀だと思うぜ。ライとか変なのは俺らと同じ艦隊担当だし」
「ん? 先の戦いでファルー達が実戦二回目と言うことは、サーマンの実戦経験は一回じゃないのか?」
「少尉の強いところはその点で、最初の出撃で相手のエース級を一人落としてんだよ。まあ、落とすというより片腕を切られた相手がこちらを警戒して退いてくれたって所なんだがな」
「ふむ、やはりうさんくさいだけではないのだな」
四日目の夜は、普段とは違う話し相手と過ごすこととなった。




