スペースライフ4
「兄貴、こんな空域に来て本当に何も無かったら燃料が大損になっちまいやすぜ?」
「何かあったら損にゃならんだろ。俺の見立てによると確かにノアの懲罰部隊がこっちに抜けてったんだよ」
物言いから察するに、二人はヌーフの人間のようだ。艦はなく、モーニングスターのような棍棒を持った茶色い機体と、長い銃を背負ったやや緑がかった茶色の機体に乗っている。
「更にノアの軍は昔、超初期型のインスヴァイトをどっかの星に不時着させたことがあるんだよ」
「昔のインスヴァイトの事故は数え切れないでっせ、兄貴」
「馬鹿、だから不時着事故に絞ってるんだよ。しかも奴らの資料施設はこの間のリアル中尉の爆撃でぐちゃぐちゃだ。どうせ懲罰部隊だからと好きに使われてんじゃないのかね!」
先行している茶色い機体が勢いづく。後続はあわてて速度をあげて、一定の距離を保とうとする。
「そんな好きに使われるような部隊を落としたところで良いことありますかねぇ……」
「ぐっ、確かに地位は低いが相手は正規の軍属だからな。俺らみたいな雇われが討ったとなれば、上の奴らから一目おかれること間違いないぜ!」
「敵は二機。パイロットは不明だが、機体から見てヌーフの傭兵隊だろう。ファルーとミルミドの二人に当たってもらう……イセンとミライはちょうど良くウェンに乗ってるようだが、出撃はするな」
ラックワイトの冷たい口調が響く。次いで、ライの声が聞こえる。
「さすがに動かしたことのない場所でいきなり戦えとは言わない。今後の為によく見ておけ」
ミライが何か言おうと口を開きかけたが、何かが飛び立つような音に意識を持っていかれた。ファルーが飛び立ったのだ。ラックワイトが観測した熱源の主は、今は甲板から肉眼で見えるほどの距離にいる。
「イセン、ミライ、ちょっと待っててね。今片付けるから」
ミルミドがモニター上に繋いで声を掛ける。ウェンに電源を入れたのだ。少しして、先程と同じくウェンが飛び立つ音が聞こえた。
ファルー、ミルミドは銃の射程距離に入るまでなだらかに蛇行しながら詰めていく。
「あー、ヌーフの機体を操る諸君、抵抗を止めてくれて良いんだけど」
「銃を構えて言う台詞とは違くねえかよ!」
二人が射程距離に入る前に後方の敵機がスナイパーライフルのような銃を発砲する。だが、発射されたのは鉛などではなく黄色いビームであった。
「危な、ミル曹長あいつ人を撃ってきましたよ」
「あら、緊張を解すための軽口かしら? 付き合っても良いわね」
狙撃されるも、二機の回避行動に対して中々ビームが命中しない。
「兄貴! 見られてると命中しないよ!」
「ペル、焦るな。奴らに射撃戦は不利だと思わせればそれで良い。後は俺のモーニングスターで一人ずつ叩き潰す!」
そう言うとウェンを上回る出力で一層加速する。兄貴と呼ばれた方はあっという間にファルーと肉薄する。すかさずファルーは抜いていたライフルをしまい、ウェンの体躯の半分程ある剣を抜いた。
「いっせーのぉ」
「よいせっ!」
元より本体にぶつける気がないのか、最初の一撃は剣と棍棒がぶつかり合った。ファルーは若干後ずさり、相手の機体は大きく後方へ飛ばされた。
「やべえな、正面からじゃ勝てねえな」
「兄貴! 本格的にやべえですぜ!」
「バカ野郎! やられる前に横からどつくんだよ! 技術だ力じゃねえ簡単だろ!」
焦りを見せる男に勝機を見出だしたのか距離を詰めるファルー。
「ど、どいつもこいつもバカ野郎共がよお!」
勢いのまま今度は本体に斬りかかる。寸前で棍棒を合わせて難を逃れる。
「兄貴ィ……」
「なんだってんだ! こっちは取り込み中だぜ!」
「右足が無くなっちまったよぉ……」
「ハァ!? なんだって!」
思わずモニターに目が映る。しまったと思い、再び目の前に視線を移すと、今度は避けようのない一撃が叩き込まれていた。
「クガァッ……」
「あなたらの方こそもっと口を慎むべきでしたね……」
銃の有効射程に敵を入れ、素早く仕留めたミルミドが先に母艦へと帰艦する。
「まさか奴らとこうも早く接敵するとは思わなかったが、はぐれものか独断専行での強行軍だろう。二人にとってはある意味実戦を目にする良い機会になったのではないでしょうか」
「ないかな。と言われましても……」
「頭が若干重いが問題ないぞ。うむ」
「……」
食堂でミライとイセンに話しているラックワイトが笑顔のまま固まっていると、ミルミドがやって来た。
「お疲れ様ですラックワイト少尉。シャワーを浴びて参りましたー」
「ああミル、ご苦労様だ。私は艦の操縦しか出来ないからな……」
少し悔しそうな様子のラックワイトにミライが尋ねる。
「でも、ダルクはラックワイトさんの機体じゃないんですか?」
「あれは廃品回収みたいなもんだよ。要らないからと押し付けられたのさ。先程の敵も私みたいなのが隊を組んでると思って攻めてきたのだろうな……」
ラックワイトの自嘲が混ざったため息が重い。
「まあ、ジャンダルム二回目の勝利です。私を労いなさいよ」
「あれ、二回ってことはあまり実戦経験はないんですね」
「そうよ、緊張したんだから」
自分も頑張らないと、そうミライは決意した。




