スペースライフ2
「あの……昼食の準備をしようと思うんだが、大丈夫か?」
「私は大丈夫だ! ティラー君!」
「ちょうど良いところに来ましたね。水を貰って良いですか。私はまだ酔ってないですけど、俗にいう念のためってやつですね」
彼らの使っているテーブルの上には三分の一ほど中身が削られた750mlのウイスキーが鎮座している。一方、役目を終えた同じ瓶が床に転がされている。ティラーにとってはサーマンがこのようなものを放置すること自体珍しかったので、今後全ての事柄を話し半分に聞いておくことにした。
「イセンさん、歩けるかい?」
「ふは、余裕で歩けまする! お水はそっちかー!」
「あ、イセンさん、私の水ですよ!」
「二人分ありますよ、よく見てください……」
水を求めるゾンビのような二人だが、とりあえず席の端に水を置いたので、ティラーは若干散らかっているテーブルをきれいにする。
「サーモン……」
「サーマンです」
「サーモンよ」
「もう何でも良いです」
「サーマン、私もミライと同じくジャンダルムに協力しよう」
「あ、聞きました? ティラー軍曹! 言質を押さえといてください!」
台ふきんを絞りながら、うんざりした様子のティラー。まあ、状況が状況だし承諾するしかないだろうというところ。ただし、ジャンダルム側としては自分から言い出してくれるのはありがたい。酔っぱらいではあるけども。
「よーし、ミライの後をおうぞー。案内しろサーモン」
「こっちでございますうー」
お互い肩を組んで歩いている筈なのに、二人ともずるずる足を引きずる音が聞こえてきそうな、頼りない足取りで食堂を後にする。ちょうどいなくなってくれたと、ティラーが水を片付けようとすると、サーマンの方の水がまるで減ってないことに気付いた。一抹の不安を抱えつつ、昼間の料理に取り掛かることにした。
「あ、お疲……酒臭っ! いつから飲んでるんですかお二人とも!」
モニターを観察しているミルミドがこちらを見て顔をしかめる。
「いつからって、朝からですよ。イセンさん、そっちのドアに突っ込んでください」
「了解した!」
文字通り突っ込むイセン。当然ドアは開いてない。
「ハァー、ここを! 開けて! モードCを起動してレバーを横に倒す! 分かりましたか?」
「了解した!」
「返事だけはしっかりしてるんだから……」
「あ、ミライさんの方も見てて貰って良いですか?」
了解! と言わんばかりにモニターの方に歩いていくが、サーマンが途中の段差で盛大に転んだ。
「まあ、良いです。どのみち帰ろうかと思ってたところですし。ミライさん、終わり方は先程述べた通りですので、適当にやめたくなったら切り上げちゃってください。サーマン少尉は出すときはそれなりの場所で出してくださいね」
そう言い残し、サーマンと入れ違いでトレーニング室を抜けるミルミド。
「サーマン! 揺れが気持ち悪いぞ!」
「私も少し揺れがキツいです……」
「お前は操縦してないだろうが!」
さっきまで和気あいあいとしていたトレーニングルームだが、あっという間に地獄のような空間になってしまった。サーマンは前のルームモニターに突っ伏しており、イセンは岩やデブリに機体ウェンをぶつけ、その衝撃で酔いを回らせるという悪循環に陥っていた。
「イセンさん、何やってるんですか……」
「ん? ミライじゃん。ルーム同士で繋げられるのか」
「そうみたいですね。右側のモニターをいじってたら出来ました」
モニターに映るイセンは顔面蒼白だがテンションはやたら高く、ミライは初めてこの人何やってるんだろうと思った。
「ウェンは増産されている中では比較的新しい機体ですので、ブラックボックスとノーマルモニターのデュアルモニター式を採用しているのです。私のダルクやお二人の乗ってた旧式のインスヴァイトより機能性も出力も高いのですよ!」
「相変わらず機械の話になると長いな」
「え? 本当ですかね。そんなー」
実のところラックワイトからも昔指摘を受けたことがあるのだが、今一本気にしていなかったのだ。何気にショックだった為、サーマンの酔いが微妙に覚めた、
「よし!」
「イセンさん、どうしたんですか?」
「少し手洗いに行ってくる! 止めないでくれ!」
二人は誰も止めねえよと思いつつ、トレーニング室を出るイセンを見送った。サーマンはどうせ昼食に間に合わないだろうという判断から、イセンの使っていたルームの電源を落としに行った。
「…………」
イセンがいなくなったので、サーマンは少し落ち着いてミライの様子を見ているが、中々に操縦が出来ている。岩石群を抜けて行くにも、ブースターだけに頼らず、主に足を使ってうまく着地、姿勢の制御をして進んでいる。もっとも、多少はブースターの出力を下げているようだが。
「うーん、暗いなー」
ミライはミライで、サーマンとは一対一で喋る機会が無かったので、一人勝手にそわそわしていた。




