ブラックボックス8
二人がとことこと外に出ると、下の方をうろちょろしながらサーマンがポケットを探っている。
「あった、聞こえますかね、お二人さん」
「イセンだ。こっちは良いぞ」
「ミライです。自分も大丈夫です」
サーマンは受信機を探していたらしく、二人の声が聞こえるとふっと息を吐いた。
「良かったです。じゃあ、さっきブランクモードで操作出来ていたので、モードCに移行してレバーを倒しましょう」
「了解だ。感情は……嫉妬いや、羨望、エンヴィーだ」
サーマンはイセンが呟くと補足するように話す。
「あまり自分にない感情だと発動しないので注意してくださいね」
「分かった。問題ない……解除はどうすればいいんだ?」
イセンがそう返すと、答えが届く前に、ブラックボックスの縁が黒く発光し、音声を発する。
『操者のフォルダは該当なしの為、新規作成されます。エンヴィーのファイルは該当なしの為、新規作成されます。操者のCデータを本機とリンクします』
ミライやサーマンから見たら内部の事は良く分からない。しかし、その時イセンの乗っていた機体、ダルクは黒く発光した。いや、パーツの縁から光が溢れているのは、ダルクの内部から光を放っている様にも感じ取れる。思い出したように操縦席のレバーを倒すと、ダルクの赤い籠手から黒い刃が伸びる。
「あー上手く発動して良かったです。ダルクは戦闘時に籠手で切りつけるのがコンセプトのインスヴァイトでベッズよりは後期です、けど全体として見ると大分最初期の機体になりますね」
気持ち早口のサーマンを横目に、イセンは自由に機体を操る。器械体操のように宙返りをしてみたり、全力で走ってみたりと、色々だ。
「自分もやりますね。感情は好奇心、キュリオシティ。これ英語である必要無さそうですね」
『操者のフォルダは該当なしの為、新規作成されます。キュリオシティのファイルは該当なしの為、新規作成されます。操者のCデータを本機とリンクします。』
イセンに続き、ミライの機体も黒く発光する。レバーを倒すとトンファーのような部分が強化されている。
「ベッズはダルクの兄弟機と言われているのですが、どちらも複雑な機構が取り入れられる前の機体なので、武器ではなく腕部で攻撃するとでも言うような力強さがありますね。ま、銃を装備できないので遠距離戦は不得手、戦果も特には残せなかった節はあるんですけども」
サーマンの話を途中で放棄し、ミライは反復横飛びの様に、ピョンピョン跳ねている。インスヴァイトの跳躍力を試し……もとい、楽しんでいる。
「イセンさん、ミライさんって薄々思ってはいたのですが、少々独特ですね」
「ここ数日まともな人間の方が少ないんだが……この機体ら、さっきとはうってかわって操作がしやすいな。これ使ってバレーでもすれば良い娯楽になりそうだ」
「戦争が終わったらやってみたいですね……」
二人がまるで新種の競技を覚えたかのように、色々と遊んでいると徐々に日が暮れてきた。
「お二人とも、そろそろ帰りますよ。疲労感などはありませんか」
「大丈夫です。解除は……やろうと思えば出来ますかね」
少しすると、ミライの乗っていたダルクの発光が収まる。次いで、イセンの乗っていたベッズも元の色へと戻る。
「ではでは、こちらにどうぞ。っとと、イセンさん踏み潰そうとしてませんか!?」
「すまんなサーマン。死んでも死ななそうなもんでな、つい」
「勘弁してくださいよ」
本日二度目のインスヴァイト操縦は無事に終わり、二人は荷物を持って割り当てられた部屋に行く。
「お邪魔するぞ。まあ、誰も居ないわけだが」
「イセンさん、幽霊が居たら怖いじゃないですか」
「挨拶してもしなくてもいるものはいるし、いないものはいないだろ」
そこは二段ベッドに作業用の机が一つある部屋で、窓からは相変わらず木々しか目に入らない。
「もう飯の時間かもしれんぞ。さっき作った麻婆豆腐、熱いうちに食べたかったがまあいい」
「作ってましたね、麻婆豆腐。自分は辛くても食べられますけど、他の人はどうなんでしょうか」
「まあそこまで辛いものにはしてないし、大丈夫だろう。多分」
正直のところ空腹でヘロヘロな二人だったので、ミライはベッドの上段に、イセンは下段に荷物を投げ置き、食堂へと歩いていく。
「お、二人さんは……とりあえず奥の方でいいか。こっちの方に適当に座っといてくれ」
最初に話し掛けてきたのはティラーだった。ガヤガヤしている食堂で案内してくれるのはありがたいな、とミライは思った。
「よし、みんな揃ったな! それでは乾杯でもしましょうか」
「これはあくまで普通の食事ですし、普通に食べますよ。いただきます」
サーマンの合図と共に一同声を合わせて、食事を始める。サーマンとラックワイトの対応を少し不思議に感じていた二人にミライの横にいたミルミドがひそりと説明する。
「ラックワイト中尉の音頭はいつも事故るので止めましょうと我々で決めてるのです」
「本人が気付いてないのは厄介ですね」
お腹の空いた二人がようやく食事に手を付けようと言うところで、麻婆豆腐を食べていたサーマンがイセンに声を掛ける。
「これ、もしやイセンさんが?」
「いかにも」
「辛くないですか? 辛いというか汗かいてきますよこれ」
「美味くないか?」
「美味い美味くないの問題じゃないんですよ。美味いけど。いや、確かに美味しいですね。でも辛いんだよな……」
少しづつ早口になるサーマンにイセンがコップを渡す。
「まあ、これでも飲むといい」
「あ、水ですね! 良かった、ありがとう……空じゃないですか! なんで人に空のコップ渡すのですか?注いでほしいんですか? 馬鹿なのですか?」
サーマンの横に座るライが何も入ってないコップと自分のコップを交換してイセンをにらむ。
「地球人の作った食事はどうかね?」
「特に何も。私はサラダのが好きですね」
ライはこれ見よがしに、ティラーの作ったサラダを食べる。
「いつもはサラダに文句たらたらなのよ、ライ」
今度はミライがそれを聞いて少し笑ってしまい、ライににらまれていた。




