ブラックボックス6
「興味津々と言った感じだが、ミライの方に着いていっても良かったんじゃないか?」
「嫌よ。サーマン少尉は雰囲気が怖いし。この会話だって『陰で好きに言ってくれますね』とか言って出てきそうな不気味さもあるじゃない」
「ですね! サーマンさんは怖いよ」
イセンは酷い言われ様だと思いつつ、確かにいきなり出て来ても不思議じゃないかもと少し納得する。
「あ、でも尊敬はしてるからな。俺らの部隊のエース級だし、あんなに上手くインスヴァイトを使える人は早々いない」
「その、サーマン少尉はラックワイト中尉の部下ではないのか? どこかそうでない雰囲気もするんだが」
そうイセンが尋ねると、は少し気まずそうに頭をかいて説明を始める。
「そうね、私達の部隊は他の部隊とは少し変わってて……」
だからこんな辺境の地に来させられたんだけど、と小声で聞こえたが、イセンは耳に入っていないフリをした。
「今は戦時下にあるんだけど、数年前まではそんなこともなくってね。私達の軍事組織……PCPは災害時の避難救助とかのがメインだったわけよ」
「なるほど。で、これから部隊の話になると言うことか」
「そうよ。戦争が始まると、今までとは違った技術、能力を上層部が欲してる訳で、従来の階級に釣り合わない実力の人もいるの」
ここら辺で大体読めてきたイセン。ミルミドも納得してるような彼の顔を見て、話を続ける。
「そんな人や規約違反とかで問題ある人をぶち込む部隊がココ、ジャンダルムって言うの。あ、私は別に悪いことはしてないわ。強いて言えば会議で居眠りがバレただけね」
イセンはまあまあ素が真面目なので、ちょっとしたショックを受けたが、今度はティラーが口を開く。
「物は言いようですね先輩!」
「ティラー、たまに貴方の口を本気で縫いたいときがあるわ……」
「言論を物理的に縛るのは良くないです。物理じゃなくても勘弁ですが」
「失礼、この話に続きはあるのかな?」
「あらごめんなさいね。それで、ラックワイト中尉は……まあ対人戦闘があまり上手くない人だったのよ。それでこの部隊、ジャンダルムに流されてきて、問題児の少尉の面倒を見てる……のか見られてるのか」
なるほどな、と全貌を聞きうなずいたイセンは、今度はティラーの方に向き直る。
「それで、ティラー殿もなにか聞きたいことがあったのでは?今度はこちらから話そうではないか」
イゼンがそう言うと、待ってましたとばかりに目を輝かせる。まるで子犬みたいだな、とイセンは思った。
「イセンさんとミライさん含めて地球の人って人型の方はあまり使わないよな。こっちの星では元々人型の機械が発展してたんで、非人型の方こそあまり使われなかったんけど」
「そうなのか。こっちの星では元々人型は無かったからな」
長距離輸送とかが大変そうだと思いつつ、イセンも答えた。
「そもそもインスヴァイトは心と深く関わっているので、人間と同じ形の方が出力が大きくなるんすよ」
「そんなんでも影響するのだな、なるほど」
「そもそもブラックボックスをもっと上手く使わなくちゃインスヴァイト自体使いこなせないっすよ」
「ブラックボックス?」
「おたくらがブラウザーでの検索だったり、音楽の再生だったりに使ってたモニターだよ。インスヴァイトのブレインみたいなもんだし大事にしてあげてね」
今度撫でてあげるかなと思いつつ、代わりに一つの疑問を口にした。
「サーマンに促されて口に出したトライアルも、ブラックボックスが勝手に変換してくれたというのはなんとなく分かったが、機体のことをブランクとサーマンが呼んでいたのは何だったのだ?」
確かにこの艦に入る前に『お互いブランクで』とサーマンが呟いてたのをイセンは思い返していた。
「ブランク……インスヴァイトは人の心を使いますが、なんの感情もない……いや、乗ってる人が無感情で操作と言うのはほぼほぼ無いけど、インスヴァイトに対して感情を提供しないとブランクというモードになるな」
「感情を提供?」
不思議そうな顔でティラーを見るイセンだが、ティラーは得意気にうんうんと頷き、次の言葉を発する。
「人型でインスヴァイトを起動するときはトライアルでない限り心を消耗するのだが、何かしらの感情をブラックボックスに渡すと最大限力が発揮できる状態になるんだ。同時にセーフティが解除されて操縦席のレバーを横に倒せるのだけど、直感的な物だし説明なしでもやろうと思ったらできると思うぞ」
「そんな簡単に言うものなのか……」
少し困惑するイセン。こういうことはミライの方が腑に落ちるのかと頭の隅で考えていた。
「ちなみにその時のインスヴァイトをモードCと呼んだりするな。感情は喜びでも怒りでも好きにどうぞって感じだけど、モード中はその感情が希薄になるから大体ネガティブな方が良いんじゃないかな」
楽しそうに話すティラーの一方、退屈そうな顔をしているミルミド。それにしても、非人型の時は原則引くなと言われていたレバーだが、そんな使い方があるのか。
「ちなみに、モードC? はブランクモードと何か違うのか? ミルミドさんはそう言うことには詳しいかな?」
話を振られて、意外そうな楽しそうな顔でイセンの方を向くミルミド。
「そうね、宇宙に出るとブースターの速度や推進力は変わらないのだけど、質量が大きくなるの。でも実際に質量が大きくなるにしてはつじつまが合わないから、無重力化で重くなると表現してるわね」
「現地人でもよく分からないのか」
「何よ、悪かったわね」
三人の会話はインスヴァイトを中心に盛り上がっていった。イセンは二人が思ったより友好的で喋るのが好きだと分かり、思ったより時間が過ぎるのは早そうだと思った。




