ブラックボックス4
協力することで気を良くしたのか、サーマンの口調がいくらか緩くなる。
「イセンさん、ミライさん、こっちですこっち。右です……あ、動いた」
当然ながら人型の形態の操作は地球で習ったことはない。それでも直感で基本の動き程度はなんとかこなせそうだ。
「いやはやお二人とも飲み込みが早いようで」
とことこ歩く二人の前で見せつけるように、背部ブースターを利用して先行するトンファー持ちのインスヴァイト。しばらくすると森林が開けてきた。改めてインスヴァイトの全容が見えるようになったが、青を基調として所々黒く無骨なマシンのパーツも確認できる。ミライにはモニター越しに中々魅力的じゃないかとイセンが呟くのが聞こえた。
「ここら辺にあるはずですよね、サーマン少尉」
「そうですよ。あなたがお持ちのデバイスを使って視覚化してください、ラックワイト中尉」
そうでした、とやや慌てたようにラックワイトと呼ばれた女性が応答する。それから少しして、目の前に巨大な船のような物体が姿を表す。底面と甲板は白く、間は黒い塗装がされている。なんとなくマストや帆のないタイタニック号を想起させる形だ。
「すまない、この船かなんかに乗る前に一つよろしいか」
「はい、なんでもどうぞ」
「ここに来るのは同意したし事情も理解している。だが、ほとんど二つ返事でこんなことに巻き込まれるのは納得がいかない」
「心変わりですか?」
サーマンにそう問われると、別に見えるわけではないが、金髪をふるふると横に振る。
「いや、一発殴らせろ。機械と機械でな!」
「あらら、イセンさんてお茶目な方なんですね」
「そうですよ~、絶叫されると耳が痛くなるのが珠に傷ですけどね」
「あなた、一体何をしでかしたの」
ラックワイトとミライは二人が話している裏で雑談に花を咲かしているように見える。
「え、あー……良いですけど、そこまで操縦出来ます? こちらも一応回避くらいはさせて貰いますので。あと、どうせならミライさんも一緒に来てみては?」
「はい、了解です」
「サーマン少尉? 随分乗り気ですのね」
「では、かかってきてくれて結構!」
その言葉と同時に駆け出すイセンと、とことこ走って後に続くミライ。先に格闘の射程に入れたのは勿論イセンだが、殴ると言ったのに回し蹴りを放つ。イセンの目の前の機体は、トンファーで蹴りを受けて力を逸らす。
「やりましたよサーマン少尉!」
「やりましたねの間違いでは?」
「ぐっ! 中々反動がすごいではないか」
「ここでやめますかね?」
「何を! まだまだやらせて頂く!」
とは言ったものの、思ったよりも疲労が激しくなる。この形態のがいわゆる心の消費が大きいのだろうか。
「じゃあ、今度は私が行きますよ。正直ロボットで戦うの、少し憧れてたんですよね!」
とことこ走りで追い付いたミライ。右手で頭部を殴りにかかるが、これは体勢を低くしかわされる。
「ナイスだ、ミライ!」
低く屈んだ所に今度はイセンの機体がアッパーを繰り出す。
「ん、あれ……ぐうっ!」
「ダメですよ中尉、いつまでも宇宙戦気分じゃ」
最初に殴りに掛かった際に、拳こそ当たらなかったものの、こっそりと足を踏んでいたミライ。イセンに対して後退しようとしていたが、それが叶わず咄嗟に仰け反ったものの頭部に強い衝撃が加わる。
と、ここでイセンとミライが新たな事実に気がつく。
「む? 今声をあげたのは……」
「ラックワイトさんの方でしたね……」
「そりゃあ、あなた方に置いてかれて流石に先回りは出来ませんからね」
サーマンの冷静な言葉に対してラックワイトがうめきつつ呟く。
「人に戦わせてダメだしとは鬼畜なやつ……」
「参考にはなりましたけどね。ミライさん、意外と卑怯な手も使うんですね。私としては割と評価したいのですが。まあ今みたいに上手く近接が入れば、機体が壊れず敵を無力化出来るわけですね。双方ともブランクの状態のインスヴァイトでここまで効果的な打撃を与えたイセンさんもお見事でした」
「ブランク? あ、うむ。まだ貴様と殴り合いは済んでないがな!」
「私とはまたの機会でもよろしいでしょうか。ほら、腕も負傷していますし。ささ、艦が開きますのでどうぞこちらに」
と、三人の後方で木々の倒れる音がする。新たにラックワイトの乗っていたインスヴァイトと酷似した物が現れる。一つ違う点として、トンファーの代わりに真っ赤な手甲のようなものを装備している。
「っと、ようやく追い付けた。わざわざ操縦ご苦労様でした、ライ軍曹」
「こちらこそお疲れ様です」
サーマンとは違う男が先にコックピットから降りてくる。負傷したサーマンの代わりにサーマンの機体を操縦していた彼は、そっけなく一言述べると一足先に艦の中へと入っていった。
「それじゃ我々も入るか」
サーマン達に続き一同が回収されると、イセンはふうっと少し大きな溜め息をついた。これがやっと落ち着けるという意味か、ここからが本番だという意味かは分からない。




