ブラックボックス3
悠長に話を続けようとするサーマンに、ミライが口を挟む。
「ずいぶん余裕そうじゃないですか。どこにいるのか分かりませんが、語り始めようなんて」
「すまないが、勘違いしないでもらいたい。あくまで必要だと感じたことを実行しているだけです。君たちは我々の話を聞き、我々は君たちにあることを協力してもらう。ギブアンドテイクですね」
ミライたちは言外に逃げるのは不可能だという圧を感じた。そもそも、相手の数が分からない以上迂闊には動けない。
「というわけで、少し話をしますね。まあ、立ち話になってしまいますが」
「さあさあ、そこで止まっててくださいね」
サーマンがそう言うと、前方の山中から人型の機械が姿をあらわす。少し遠いので分かりづらいが、全長二十メートル程だろうか。ラックワイトと呼ばれた女性が乗っている機体で、頭部の上の方はバンダナを巻いているようにのっぺりとしている。少し目線を落として腕部を見ると、トンファーのようなものを装備している。それより下は……完全に森に阻まれて確認できない。
「立ち話か、了解した。ぶつかるなよ、ミライ……うちの支部にもあんな感じのが一機あったのだよ」
ミライとイセンはラックワイトの機体の前で速度を落とし、ホバリングの態勢に入る。
「しかし、本当に何も教えられていないのですね。君たち二人が乗っているのはハイブリッド型なのに、一つの形態しか知らないようで。ちょっとモニターに呟いてみてくださいよ。トライアルって。着地の衝撃には注意してくださいね? すぐ口を閉じないと舌が切れるかも」
何かを察したイセンは高度を落として言葉を呟こうとしたが、対照的に探求心からか、ミライはその場でサーマンの言葉を口に出した。
「えーと、トライアル!」
『承知しました。トライアル移行に伴いβ形態からα形態へ形態換装』
「おお!? ぐっ!」
「……トライアル」
ミライの機体も目の前の機体と同じように人型の形を取る。と同時に浮力を失ったそれは地面を踏みしめる。イセンの機体も同様だったが、着地の衝撃は断然少なかった。
「さすが機動力の為に形態換装を取り入れた機体だ。プロペラ部を背負い込むような造形が心を揺さぶる……」
「すいませんサーマン少尉、童心を思い出さないでください。あ、念のため言っておきますが、あなた方のタイプは相当古いもので、ヘリの形でも振り切ろうなんて考えないでください。どうせ戻れないと思いますが」
「あ、はめられましたよイセンさん!しかもまだ口がビリビリするー」
「待て待てミライ。ここで変なペースを作るなよ。こちらとしても話は聞いておきたい」
各々がペラペラと話し始め、場が混沌としてきたが、サーマンが再び口を開いた。
「まあ話を戻すんですが、元々ファクテムが見つけたものはタイパーという物質そのものでなく、不時着したインスヴァイト本体なのですよ」
「不時着? また厄介な物を落としてくれたな」
「あなた達だってその厄介な物を使ってるじゃないですか。それにインスヴァイトの模造品も作って世界を……まあそれはそっちの政治の都合であって深入りする気はありませんが」
「なるほどな、遠路はるばるここまで来たのはそのオリジナルがここにあるからか」
「そうですね。模造品しか見当たらなくて正直飽き飽きしてた所なんですよ」
二人が問答する中、ミライはサーマンの言葉を思い返していた。
彼は、最初に残り三つと言っていた。人型になるこの二機と、イセンの言う人型の一機が彼らにとってのオリジナルなのだろう。
「え? でも自分らはもう一機の場所は知りませんよ」
「そうですか、まあ特に問題はないです。何機でもインスヴァイトがあったことが重要なので。インスヴァイトの資料が……まあいい。一機あると無いとじゃ大違いなので。操者と一緒なのも良い。ですがファクテムめ、あいつは本当に余計なことをしてくれた」
「操者と一緒? 貴様ら本当に何をさせるつもりだ?」
「サーマン少尉、それ以上ここで言うのは……」
「今隠していてもすぐにバレることです。まあ、あなた方も宇宙旅行は初めてでしょう?」
サーマンがあまりにもあっさりと放った言葉によって、ミライとイセンは言葉が詰まる。何から話せば良いのか分からないまま、サーマンが続ける。
「こちらとしても極力任せたくは無いのですが、何せ誰かのせいで腕を負傷してしまいましてね。人が足りないのですよ、誰かのせいで」
「もしや、ファクテムが?」
「察しが良いですね。こちらとしても帰らなくてはいけないので、少し手伝ってはくれませんかね」
重苦しい雰囲気に誰もが迂闊には喋り出さない。サーマンが掛ける言葉を探っている内に、話を切り出したのはミライだった。
「じゃあ、自分が行きますよ。実質選択肢なんて無さそうですし!」
「ミライ……私も行くぞ。宇宙旅行なんて昂ってくるな」
「お二人とも、ありがとうございます。元々二人いないと厳しかったので助かりますね」
言ったものの、ミライは心配げに顎に手を当てる。一体これから何をさせられるのだろうか。




