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ブラックボックス2


空に飛び立ったインスヴァイトは村を出発して数分、山々と密集する木の上を飛んでいた。でイセンは溜め息をついた。そして、スーッと息を吸いミライに賛辞を送った。


「ミライよ! 最後の最後に手間取りはしたが、初任務完了おめでとう! まあここで事故でも起こしたら台無しだが、大丈夫だろう」

「ありがとうございます。なんやかんやでイセンさんと一緒で良かったです。それにしても山ばかりですね」


最初は村が切り開かれていた場所と、僅かに繋がっている道が見えていた。少し飛行を続けていると、下には緑、上には青色の世界が広がっている。


「確かに味気ない景色だ。そうそう、村を退避させる原因となった山だが、ここらで一番高い三千メートル級の活火山なのだそうだ。村から我らの支部の方角にあるらしいから、案外近くを通っているかもな」

「中々高いんですね。まあ、遠近感が掴めないのでどの山かまではよく分かりませんが」

「まあ、緑が広がっているうちは関係なさそうだ」


その時、二人のインスヴァイトの通信に別の声が割り込んできた。サーマンのではない。若い女性の声だった。


「サーマン少尉は失敗したのか。もしくは新パイロット君の能力テストか。どちらにせよ、私には貴方たちを止める義務がある!」

「あーミライ、映画かなんかの音が漏れているぞ。あと、運転中は映像を見るな。よそ見運転防止だぞ」

「え、イセンさんの方じゃないんですか? ちなみにイセンさんこそ一昨日アニメ見てたの知ってますからね」

「げっ」


色々と危機管理が出来ていない二人の遥か前方に声の主の機体があるのだが、森林に紛れてヘリの中からは目視できない。


「失敗だなんて。こうなることは折り込み済みですよ。七手詰の将棋を最後まで詰めるか、六手目で相手が降参するかの違いです。従って、こちらが負けることはないです」


もうひとつの声を聞いて二人の表情が強張る。面識はほぼ無いが猛烈に聞き覚えのある声だった。


「もしや、先程会った拳銃男か」

「くっ! サーマン少尉! も、もしかして聞こえてましたぁ?」

「わざわざ例え話をしたのに聞いてないとでも? ラックワイト中尉殿」

「ラック? ワイト? イセンさん、どっちがファーストネームなんですかね」

「多分だがラックワイトがフルネームではないぞ」


謎の通信、インスヴァイトへの妨害等と色々な条件は揃っているがいまいち真剣なムードには至らない。

ただ、各々が好きなことを好きなタイミングで喋っている現状に痺れを切らしたのか、イセンが場を取り仕切る。


「私含めてごちゃごちゃでまとまりがないな! とりあえずサーマン、ラックワイト? 貴方達は何をしに来たのだ! というかこっちの声は聞こえてるのか?」

「…………あ、ラックワイト中尉、私が喋りますね。何をしにというと最初から言ってますが、インスヴァイトを返して貰いに来ただけですよ」

「そこが分からないから聞いている。おちょくってないで真面目に答えてほしいのだが」

「それはマジで言ってます? 一応真面目に答えてるんですが」

「私の記憶にはインスヴァイトは民間から貸されたものではないぞ」

「……そう、ですか」

この四人、双方の間に何か重大かつ単純な食い違いがあるのでは。そしてそれは相手も薄々感づいている。イセンもまた確証はないが、会話の中でそう感じた。それはそれとしても今まで各々が好き勝手喋りすぎてここまでたどり着くのに少々時間がかかった。


「……」


イセンがどう話を切り出そうか迷っていると、サーマンの方から話しかけてきた。


「どうやら本気で言っているようですね。それでは逆に聞きたいのですが、一体誰が作ったと思ってるのですか? 別に団体でも個人でも良いですがね」


恐らくだが、この後述べていく組織は物語の核心に触れることは無いのだろう。少なくとも、自分の常識を超えた所に正解があると予測をたてるイセン。


「まずは現在インスヴァイトを運用しているARTSや、インスヴァイトを使って世界画一化計画を進めているヴァースという組織。ARTSとの繋がりも深いし、大体団体だとここらが妥当か」


もっとも、この内に研究施設を擁する組織は無いがな! 心の内でそう思いつつ、サーマンが口を開くまで他に関係ありそうな名前を探す。


「個人だと思い当たるのは結構あるな……ヴァース所属、世界画一化計画の最高顧問ファクテム氏。ファクテム氏の旧友、ARTSの司令部長であるジョウ、そしてタイパー研究所所長の新明的人……は違うな。研究所が出来たのは十年前、ただでさえ研究所も無かったのにインスヴァイトを個人で作れるとは思わんな」


イセンは思い当たる人物をひとしきり挙げたが、そもそも新物質を発見し数年で組織を成長。必要な次世代の機体を作り上げるのはほぼ不可能だ。オーパーツとも言える道具を盲目的に頼ってきた今、ツケを払う時なのかもしれない。


「だから私達はマジに言ってるんですよ、取り立てに来ましたと。ちなみファクテムという名前が出たのは興味深いですね」

「特には個人的な感情は沸かないがな。強いて言えば、たまにテレビで見せるメディア向けの笑顔が嫌いだったな」

「それは良かった。少し話をするうちにあの犯罪者を謗ってしまうかもしれないからね」



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