ブラックボックス1
滞在最終日。ミライとイセンは挨拶回りを済ませ、辺境の地で知り合った六人に見守られ機体に乗り込む。二つのヘリコプタの形をしたインスヴァイトは、隣り合わせに並んでいる。ミライにとっては初めての任務だったのと、久し振りの操縦になるのでやや緊張した顔立ちであった。イセンの方は任務も慣れたもので、ややイレギュラーはあったがいつも通りの帰路となる。
「それでは皆さん、どうか元気で!」
「もし今度操者と出会っても迷惑を掛けることのないようにな。まあ、久々に思い出に残る任務になったよ」
挨拶もそこそこに出発しようとした時、イセンが少し気だるそうにしている女性……レティに声をかけられる。
「あんた私たち以外にも知り合い作ってたの? てか、あいつこの村で見たことないんだけど。まあ、私ら帰るわねー。朝は眠いわー」
そう言われてよくよく辺りを見回すと、黒い服を着た男が近付いてきた。何かの隊服のように見えるが、いまいち見覚えがない。
「こんなところにあったんですね。残り三つのインスヴァイト、取り立てに参りました」
「はい? もーう人には触らせないですからね。さあ帰った帰った!」
気持ちはりきって変な男を追い払おうとするミライだが、その男の格好を観察していたイセンが制す。
「まて、ミライ。こいつ拳銃を持っているぞ!」
今は国という括りもないが、特別な区域を除いて銃刀の類を一般人が所持することは許されていない。
「人の話を聞く気が無いんですかね。すぐには撃てませんしそんな強張らなくても」
そう言うと男は左腕を空中でひらひらと振った。袖から包帯の先のようなものがちらりと見えた。
「話を聞く気がない? 答える必要も無いだろう。我々操者がインスヴァイトを渡すなど。あと、忠告だが、拳銃を見せびらかすのはやめておけ。発砲されかねんぞ」
「無知に気付けないなんて運が悪いですね。自覚ない無知は天災みたいなものですから……この星の人はすぐ発砲するんですね」
言葉こそ丁寧なものの、あまり好意的ではない彼は、右手を口元にかざし、ボソボソと何か呟いている。どうやら携帯端末のようなもので誰かとやり取りをしているらしい。
「そうだ、私サーマンと言います。今後ともお見知りおきを」
そう名乗り一礼するサーマンを尻目に、イセンはインスヴァイトを出せとミライに顎で示す。サーマンという男に一抹の気持ち悪さを感じたが、ひとまず機体を駆れば付いてこられる筈も無いだろうといった判断だ。少なくとも地球上に存在するいかなるものでも、という意味だが。
ふう、とイセンがため息を吐く。ずいぶんと手のかかる大人が多い村だが、もう面倒を見る必要もない。ミライがインスヴァイトのコックピットを閉じるのにイセンも合わせる。
「ああ! もう会うことは無いだろうな! 今度取り立てに来るなら遠路はるばる支部まで来いよ!」
言うが早いかイセンはインスヴァイトの動力を付け、インスヴァイト特有の耳鳴りのような作動音が周りに響く。
「全く……人の話を聞かないですね。こちらも出ますよ」
もう機体が音を上げて発進しようとしている中、誰も聞こえないような声でサーマンが呟いた。




