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どうぞ、ご勝手に。その真実の愛とやらで、精々人生を楽しんで下さい  作者: 逆立ちハムスター


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静寂と新緑の風

ルカスに「終わりにしましょう」と告げたあの朝から、数ヶ月の月日が流れた。


あの後、家を飛び出していったルカスは、最初の数週間こそ「おい、飯はあるか」「少し金を融通しろ」と、何食わぬ顔で時折戻ってきた。かつての私なら、情に流されて残ったスープくらいは差し出していただろう。けれど、あの日、詰所所の前で私の心は完全に冷え切っていた。鍵を厳重にかけ、彼の言葉をすべて無視し続けると、ルカスの足は次第に遠のいていった。

月に数回、週に1回、そして――ここ3ヶ月は、すっかりその姿を見せなくなっていた。


寂しい、なんて思っている暇は、1秒もなかった。


私は早朝の涼しい空気の中、畑から収穫したばかりのトマトをカゴに詰めながら、汗を拭った。

ルカスがいなくなってからの私は、とにかく仕事に没頭した。没頭せざるを得なかった、というのが正しい。ルカスの保釈金と被害弁償のために、両親の形見の貯金も含めた我が家の全財産――金貨2枚分――をすべて失ってしまったのだから。


毎月の税金、明日のハーブの仕入れ代、自分の食費。それらを稼ぎ出すために、私は寝る間も惜しんで大釜の前に立ち、働き続けた。


けれど、そんな死に物狂いの努力は、裏切らなかった。


「エルサちゃん、おはよう! 今日もあの『保存の素』を3個おくれ。こないだうちの旦那が夜勤の時に持たせたらさ、『お湯を注ぐだけで、淹れたてのトマトの旨味と、元気が出る活力が身体に染み渡る』って大喜びだったんだよ」

「奥さん、おはようございます! いつもありがとう。今日は新しく、少しピリ辛のスパイスをブレンドしたものもあるの。冷え込む天気の日にはぴったりよ」

「おや、じゃあそれも1個試してみようかねえ」


そんな庶民たちの温かい口コミが、少しずつ、けれど確実に街の下町に広がっていった。

私の作る保存の元は、普通の乾燥野菜とは違う。独自の製法によって、素材の細胞を破壊せずに劣化成分だけを飛ばすため、お湯を戻した時のフレッシュさが段違いなのだ。さらに、微弱ながらも「疲労回復」の魔力を循環させているため、炭鉱夫や洗濯婦といった肉体労働者たちの間で「安くて、美味くて、元気が出る秘薬のような秘薬」として、隠れた人気商品になっていた。


今月の収支を計算した革袋を振ると、ジャラジャラと小気味よい音が響いた。

ルカスが残していった莫大な損失を、ようやく完全に補填し終えたのだ。それどころか、今月からはしっかりと「利益」として手元に残るようになり、経営は安定の兆しを見せていた。


「よかった……。これで今年の冬は、ひもじい思いをせずに乗り越えられるわ」


胸をなでおろし、冷え切ったハーブティーで喉を潤した、まさにその時だった。

我が家の年季の入った木の扉が、規則正しく、上品な音で3回、ノックされた。


「はーい、どなたですか?」


乱暴に叩く音ではない。市場の常連さんにしては、少し遠慮がちで洗練された響き。

不思議に思いながら扉を開けた私は、そこに立つ人物を見て、思わず言葉を失った。


そこにいたのは、仕立ての良い、深い紺色の外套をまとった若者だった。

上質なウール生地、銀の細工が施されたボタン。一目で、下町の人間ではないと分かる。整った顔立ちに、聡明そうな灰色の瞳。彼は私を見ると、育ちの良さを感じさせる完璧な一礼をした。


「突然の訪問、失礼いたします。私は王都に本店を構える『ヴァルター商会』の者で、レイナード・ヴァルターと申します。……あなたが、この素晴らしい保存食を作られている、エルサ・モルツさんですね?」


ヴァルター商会。

その名を知らない人間は、この国にいない。大陸全土に流通網を持つ、泣く子も黙る大商会だ。その息子のレイナードが、なぜこんな辺境の小さな農家に?


「ええ、私がエルサですが……大商会の若旦那様が、私のような者に何の御用でしょうか?」

私が警戒を隠さずに尋ねると、レイナードは端正な顔に人当たりの良い笑みを浮かべた。


「単刀直入に申し上げましょう。街中で噂になっている、あなたの『保存食』を拝見しました。あの驚異的な復元率、そして保存技術……素晴らしい。我がヴァルター商会は、あなたのその『製法』と、その製法を他所に漏らさないという『独占権』を、高値で買い取りたいのです」


独占権の買い取り。

ルカスがかつて言っていた「貴族に高く売りつける」という言葉が脳裏をよぎり、私は一瞬、胸がズキリと痛んだ。大商会が目をつけたということは、私の技術にはそれだけの価値があるのだろう。


しかし、私はゆっくりと首を横に振った。


「レイナード様、わざわざお越しいただいたのに申し訳ありませんが、そのお話はお受けできません」


「……おや、金額を聞く前にお断りですか? 我が商会としては、あなたが一生、裕福に暮らせるほどの金貨をご用意するつもりですが」


レイナードは意外そうに眉をひそめた。私は苦笑しながら、彼を小さな台所へと案内し、我が家の「心臓部」を見せた。


「理由はそのレシピにあります。私の……いわゆる秘薬とやらは、ただ紙に書かれた手順通りに作れば完成する、というものではないのです。素材の水分量、その日の湿度、そして何より、魔力を大釜に流し込む際の微弱な『差異』……などなど。私自身、自作のレシピを元にしながらも、最初は何度も何度も失敗し、大釜を爆発させかけたり、中身をただの炭にしてしまったりして、ようやく体で覚えた『技』なんです。だから、レシピだけを渡しても、おそらく同じものは作れませんよ」


それに、と私は続けた。


「これは、冬場や天候不良、不作などで新鮮な食事を食べられない、庶民の皆さんのために作ったものです。大商会に独占されて、貴族向けの高級品になってしまっては、私の本意ではありませんから」


私の言葉を、レイナードは静かに聞いていた。彼の灰色の瞳が、品定めするように私をじっと見つめる。やがて、彼はフッと感心したようなため息をついた。


「なるほど……単なる職人の頑固さではなく、確かな技術への自負と、明確な理念をお持ちのようだ。買い叩こうとした私の非礼をお詫びします、エルサさん」


彼はもう一度、今度は商人としてではなく、一人の人間として深く頭を下げた。


「では、少し条件を変えましょう。独占権は諦めます。あなたの理念通り、市場での販売も今まで通り続けてくださって構いません。ただ、その『手書きのレシピ』と、私への『実演による基礎指導』だけで構わないので、買い取らせていただけませんか? 我が商会の優秀な魔導錬金術師たちなら、あなたの技術を完全には再現できずとも、そのアプローチから新しいヒントを得られるはずです。どうでしょう?」


独占権なし、販売の継続も許可。それでいて、レシピの共有だけで良いという、破格の譲歩だった。

それでも私は、自分の技術を切り売りすることに少しの躊躇いを感じていた。……その時だ。


パチパチ、バチッ……!


台所の隅に移動させた、年季の入った「錬金台」から、不穏な火花と異音が上がった。

私は慌てて稼働を遮断する。


「あちゃ……また逆流しちゃった」


この錬金台は、亡き両親の幼少期からずっと使われている骨董品だ。ここ数ヶ月、保存食の大量生産のために酷使し続けたせいで、内部のよく分からない回路がすっかり焼き切れてしまっていた。先日、街の技師に見てもらったが、「古すぎて交換部品がない、そもそも部品があっても修理はできるか分からない。直ったとしても、すぐに壊れる可能性が高い。また、最悪、いつ爆発してもおかしくないから、買い替えるしかない」と匙を投げられていたのだ。


最新の魔導錬金台を導入するには、どんなに安く見積もっても金貨十数枚は下らない。

ようやくルカスの借金を返し終え、生活が安定してきたばかりの私には、そんな大金をすぐに用意することは不可能だった。この錬金台が完全に壊れたら、私のビジネスも、庶民への保存食の供給も、すべてストップしてしまう。


(……背に腹は代えられない、か)


私は古い錬金台を見つめ、それからレイナードのまっすぐな瞳を見た。


「レイナード様。……そのお話、お受けします。ただし、一つ条件があります」


「何でしょう? 可能な限り、ご要望にお応えします」


「今すぐに、この場で契約書を交わし、現金を支払っていただくこと。そして、私の技術を悪用しないと誓っていただくことです」


「それなら、お安い御用です。商人として、契約の遵守は命より重いですからね」


レイナードは懐から手慣れた様子で羊皮紙の契約書を取り出し、その場でサラサラと特約を書き加えた。お互いにサインをし、魔導インクで親指の印を捺す。契約は成立した。


私は、長年書き溜めていたシミだらけのレシピノートを開き、レイナードの目の前で大釜に向かった。

古い錬金台をなだめすかしながら、どのように魔力を循環させ、水分を均一に飛ばすのか、言葉と実演を交えて丁寧に、詳細に、詳しく解説していく。レイナードは一言も聞き漏らすまいと、真剣な眼差しで私の手元を見つめ、時折、鋭い質問を投げかけてきた。さすがは大商会の息子、物覚えが恐ろしく早い。


「――以上が、私の技術のすべてです」


実演が終わり、大釜の中に美しい琥珀色の乾燥ペーストが完成したのを見て、レイナードは深く息を吐き、パチパチと拍手を送ってくれた。


「素晴らしい。紙の上だけでは決して理解できない、実に見事な技だ。いやはや、これほどとは……正直予想以上でしたよ。そして、これが約束のものです」


レイナードがテーブルに置いたのは、ずっしりと重い革袋だった。紐を解くと、中から眩いばかりの黄金の輝きが溢れ出た。


「【金貨20枚】です。あなたの技術への、我が商会からの正当な対価です」


金貨20枚。普通の庶民なら数十年は働かなくても暮らせるほどの大金だ。

私はその重みを受け止め、レイナードを見送った後、すぐにその足で中央通りの大手の魔導具店へと向かった。

これほどの大金を家に置いておくのは恐ろしいし、何より、古い錬金台は今すぐにも限界を迎えている。私は迷うことなく、最新式の高性能魔導錬金台の購入手続きを済ませ、明日の午前中に配送してもらう手配を整えたのだった。


翌朝。

私は、いつになく弾む足取りで台所の片付けをしていた。


古い錬金台から、使い慣れた鍋や器具を取り外していく。数十年間、我が家を支えてくれた相棒への感謝を込めつつも、私の胸は期待で膨らんでいた。


(ついに、最新の錬金台が来るのね……!)


正直に言えば、昨日レイナード様と契約を交わした瞬間は、自分の大切なレシピを手放してしまったことへの不安や寂しさがなかったわけではない。けれど、こうして現実的に限界を迎えていた古い錬金台を見つめると、やはりあの決断は正しかったのだと思える。

最新の設備があれば、材料の消費効率も上がるし、一度に作れる保存食の量も3倍に増える可能性がある。そうなれば、もっと多くの人々に、もっと安く、美味しい食を届けることができる。


「よし、受け入れ態勢はバッチリ。いつでも来てください、職人さん達!」


時計の針が午前11時を回った頃。

家の前で、パカパカと小気味よい馬の蹄の音と、ガラガラという立派な車輪の音が止まった。


(あ、やっと来たんだわ! 思ったより豪華な馬車で運んできてくれたのね。やっぱり高いからかしら?)


私は嬉しくなって、エプロンで手を拭きながら、勢いよく扉を開け放した。


「お待ちしておりました! どうぞ、中へ――」


言いかけた言葉が、喉の奥で凍りついた。


そこに立っていたのは、大きな木箱を抱えた魔導具店の職人ではなかった。

代わりにそこにいたのは、仕立ての良い、いや、仕立てが良すぎて下町の風景から完全に浮いている、エメラルドグリーンの高級シルクの外套をまとった男だった。


胸元には、これ見よがしに大きなアメジストのブローチが輝いている。髪は不自然なほどツヤツヤに整えられ、香水の強い匂いが鼻を突いた。


「よお、エルサ。久しぶりだな。相変わらず、薄汚いつらしてんなぁ」


男は、品下る笑みを浮かべながら、片手を腰に当てて言った。


「……ルカス?」


久しぶりに見る、私の元夫。

けれど、かつて詰所の牢屋から泥まみれで出てきたルカスの面影は、そこにはなかった。外見だけは、まるでどこかの新興貴族か、羽振りの良い大商人のように着飾っている。


「な、何その格好……。一体……一体どうしたの!?」

呆然とする私を見て、ルカスは待ってましたとばかりに、大声を上げて笑った。


「ハハハ! 驚いたか? 当然だよな! お前みたいな泥臭い女には、一生縁のない高級ブランド『ルミエール』の特注品さ。いいか、エルサ。俺はついに『勝ち組』に回ったんだよ!」


ルカスは我が物顔で、勝手に我が家の敷地に足を踏み入れ、自慢げに胸のブローチを指さした。


「あの後さ、裏通りのカジノで一世一代の大勝負に出たら、ダイスが神がかり的に、次々揃ってよ! 気付けば一晩で金貨50枚の大金をブン取ったんだ。その勢いで、王都で一番高級なテーラーで身なりを整えて、中央通りの高級クラブに繰り出したら……なぁんと、そこに出入りしてた大商会『フルーリア商事』の頭取の娘が、俺に一目惚れしちまってさぁ。まあ、俺の口説きが強かったがな」


フルーリア商事。確かに最近、王都の貴族たちの間で急速に勢力を伸ばしている、生鮮食品専門の商会だ。


「今や俺は、そのお嬢様の『最愛の婚約者』様だ。どうだ? ん? これぞ真実の愛だよな。ああ、それとな、それだけじゃねえぞ? フルーリア商事の『特級重役』の肩書きももらった。今の俺のビジネスが何か、お前みたいなバカに教えてやろうか?」


ルカスは私の顔の前に指を突きつけ、勝ち誇ったように言った。


「南国の珍しいフルーツや、北の海で採れた新鮮な高級魚……それをな、氷属性のエレメンタルの精氷石でキンキンに冷やして、新鮮な状態のまま王都の高級貴族たちの屋敷へダイレクトに届ける『極冷鮮度便コールド・エクスプレス』さ! 贅沢に飽きた貴族のバカどもが、こぞって金を払う払う。今や毎日、金貨が山のように転がり込んでくるんだよ!」


彼はフンと鼻を鳴らし、我が家の古びた台所や、大釜を蔑むような目で見回した。


「それに比べて、お前はなんだ? ええ! 相変わらず、あんな貧乏人向けの泥臭い、犬の餌みたいな不味い保存食をまだやってるのか? ハッ、笑わせるな! 銅貨数枚をチマチマ集めて、一生そうやって泥水すすって生きてろよ。俺はこれから、お嬢様と一緒に、貴族たちの華やかな夜会サロォンに出席しなきゃならないんだ。お前もどうかと思って寄ったんだが、その格好じゃな。まったく、あれほど忠告してやったのに、何も変わってないみたいだし。はぁ、やれやれ、住む世界が違うんだよ、住む世界が!」


ルカスの口から次々と飛び出す、私への罵倒と、傲慢な自慢話。


かつての私なら、これほど見下され、侮辱されれば、悔しさで涙を流していただろう。あるいは、言い返そうと声を荒らげていたかもしれない。


けれど、今の私は、ただ静かにルカスを見ていた。

彼の着ている服は確かに一級品だ。けれど、彼の内面――お金への異常な執着、他人を見下すことでしか自分の価値を証明できない歪んだプライド、地道な努力を嫌い、一攫千金の快楽に溺れる性質――は、あの頃と、何一つ変わっていない。


むしろ大金を手に入れ、身不相応な権力を得たことで、その「歪み」は以前よりも肥大化し、修復不可能なほどに腐りかけているように見えた。


「……ルカス」


私は感情を交えず、ただ本気の、心からの「心配」を込めて、静かに告げた。


「あなたは、本当に何も変わっていないのね」


「あぁ? 何言ってんだ、これだけ変わっただろ!」


「外見とお財布の中身は変わったかもしれない。でも、その中身こころはあの時のままよ。……魔法や魔導具を使って生鮮食品を冷やして運ぶビジネス、確かに今は珍しくて儲かるかもしれないわ。でも維持費や、魔力結晶のコスト、それに途中で不足の事態が起きたりしたら? 貴族相手のビジネスは儲けが多いけど、責任は桁違いよ。リスク管理は本当に大丈夫なの? 大商会の重役という責任の重さを、あなたは本当に理解して動いているの?」


ルカスの顔から、一瞬だけ余裕の笑みが消え、不快そうな歪みが走った。


「お前には関係ないだろ! お嬢様が俺の言うことを何でも聞いてくれるんだ、問題ねえよ!」


「他人の虎の威を借るだけの栄華は、長くは続かないわよ。一攫千金のギャンブルで得た幸運なんて、一瞬で弾ける泡のようなもの。ルカス、これ以上調子に乗っていると……いつかまた、あの牢屋の時よりも、もっと、もっと酷い目に遭ってしまうわよ。今すぐその傲慢さを改めて、地道にビジネスを学んだ方がいい。これはチャンスよ。そして元妻としての、最後の忠告」


私の本気の忠告。けれど、今のルカスの耳には届かなかった。

彼は一瞬、怯んだような目を見せたものの、すぐにそれをかき消すように、大声を上げてせせら笑った。


「ひゃははは! 相変わらずお前は、そうやって他人にケチをつけるのが趣味なのか? その陰気な小言も、今となっては貧乏人のひがみにしか聞こえなくて懐かしいぜ!」


ルカスは外套をひるがえし、我が家の敷地から出て行った。


「じゃあな、エルサ! 一生、そのカビ臭いスープの煙に巻かれて死んでいきな!」


彼は、表に停めてあった、金細工の施された豪華な馬車へと乗り込んだ。御者が鞭を振るうと、馬車は下町の泥を派手にはね上げながら、王都の中央通りへと去っていった。


残された私は、その馬車が残した土煙を見つめながら、深く、深い溜息をついた。


「……言っても無駄だったわね。でも、これで本当に、すべて終わり」


ルカスへの情も、未練も、そして心配すらも、これで最後だ。彼は自分の選んだ道を進み、私は私の選んだ道を進む。


「お待たせしましたー! 魔導具店『アルケミア』です! 最新型の魔導錬金台、お届けに上がりました!」


ルカスの馬車が去ったのと入れ違いに、今度は元気に満ちた職人たちの声が響いた。大きな荷車には、ピカピカに磨き上げられた、最新式の魔導錬金台が載せられている。


「はい! お待ちしていました!」


私は笑顔で職人たちを迎え入れた。

ルカスの持っていった偽りの華など、私には必要ない。この最新の錬金台と、私を待ってくれている庶民たちの笑顔。それこそが、私の確かな財産であり、未来なのだから。


私はエプロンをきゅっと結び直し、新しい一歩を踏み出すために、大きく息を吸い込んだ。

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