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6話 ~ラブラブバカップル大作戦!~

 



 深夜一時。文京区本駒込に佇む古い一軒家。


 その二階の一室、静寂を切り裂くように激しいノックの音が鳴り響いた。


「おい計太! 起きているのは分かっているんだぞ。早く出てこい!」


「ちょ、ちょっと……何事!? 騒々しいなあ」


 中から現れたのは、眠たげな目をこする童顔の呪術師、芦屋計太だ。しかし、扉の前に立っていた義兄・流星の姿を見た瞬間、計太の眠気は吹き飛んだ。


 モデルのような長身と整った顔立ちは相変わらずだが、その表情にはかつてないほどの疲労の色が濃く滲んでいる。


「……流星。いつも言ってるじゃない、家の中で警察官をやるのは止めてくれって」


「お前の言う通りに、この一週間、上原と……その、バカップルとやらを演じてみたがな。何も起こらなかったぞ」


「へー、そうなんだ」


 計太が他人事のように応じた瞬間、流星の堪忍袋の緒が切れた。


「お前、俺を馬鹿にしているのか!?」


「ひっ、ちょ、ちょっと……苦しいってば!」


 流星は計太のパジャマの首元を掴み、乱暴に吊り上げた。その低くドスの利いた声は、さながら「マル暴」の刑事だ。普段、どんな時でも崩さない「私」という一人称が「俺」に変わっていることからも、彼が限界を超えて憤慨しているのが見て取れる。


「この一週間、俺がどれだけの恥辱に耐えてきたと思っている。それもこれも、お前の『勘』を信頼していたからだぞ!」


「落ち着いて、落ち着いてよ流星! ほら、深呼吸!」


「……くそっ」


 流星は珍しく汚い言葉を吐き捨てると、ようやく計太の首元を離した。力なく壁に背を預けたエリート警察官の姿は、あまりにも痛々しい。


「何も起こらなかったからって、作戦が失敗したわけじゃないよ」


 計太は乱れた襟元を整えながら、不満げな声を上げた。


「どういうことだ?」


「どうしたんだよ流星。いつもの冷静さはどこに行ったの? 相当疲れてるんじゃない?」


 計太に指摘され、流星は額を押さえて低く唸った。


「……ああ、そうだ。疲れている。恥辱と心労で判断力が鈍っているらしい。だから、わかりやすく説明してくれ」


「わかったよ……。いい? 僕が二人にバカップルを演じてもらったのは、犯人をあぶり出すためだ。僕たちの推理によれば、犯人は上原さんのストーカー。そうだよね?」


「ああ」


「ストーカーの多くは、被害者の身近にいる人物だ。そうなると、真っ先に疑うべきは二人の職場である警察関係者になる。二人が職場でラブラブな姿を見せつければ、犯人は居ても立ってもいられなくなって、何らかのアクションを起こすはずだ。ドアに指人形を置くような奴だよ? 我慢できるはずがない」


 計太は流星を諭すように続けた。


「犯人からは何のアクションもなかった……。それはつまり、警察関係者が容疑者である可能性が極めて低くなった、ということだよ。喜ぶべきことじゃないか。警察官が同僚にストーカーしてたなんて事実がバレたら、それこそ大不祥事なんだから」


「……そうだ。確かに、計太の言う通りだ」


「やっぱり相当疲れてるみたいだね。いつもの流星なら、こんなこと説明しなくたって気づくはずなのに」


「……すまなかった。つい、カッとなってしまった」


 流星は深く溜息をつき、弟に対して率直に頭を下げた。


「分かってくれればいいんだよ」


 計太は安堵の息を吐いた。


「……で、この後はどうすればいい?」


 流星の目が、鋭く計太を射抜く。


「まさか、これで終わり(無策)というわけじゃないだろうな」


「そんな怖い顔しないでよ……。作戦はあるにはあるけど、ちょっと言い出しづらくて」


「はっきり言ってくれ。今の私には、余計なことを考える思考力が欠けているようだからな」


「……それじゃあ、言うよ。次は、上原さんの家の近所で、二人のラブラブっぷりを見せつけよう!」


 その言葉が終わるか終わらないかのうちに、東大卒のエリート警察官・芦屋流星は、糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。







最後まで読んでいただきありがとうございました。


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