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5話 ~ストーカー~

 


 計太はビニール袋を目の高さに掲げた。


 中にあるのは、フェルトを継ぎ接ぎして作られた小さな指人形だ。


「何かえるか?」


 流星の問いに、計太はいつになく真剣な面持ちで答えた。


「強い……というか、執拗な念がもってる。多分、犯人の手作りだね」


「そこから犯人を探し出せるか?」


「それは無理だよ。この東京にどれだけ人がいると思っているのさ」


「そうか……」


「流星の見解はどうなの?本職なんだから、多少の見当くらいはついているんでしょ?」


「根拠のないただの想像だ」


「それでいいよ」


「それなら言わせてもらう。私の見解はこうだ。犯人は、桜さんが家にいるかどうかの『不在確認』をしたがっている。ドアの前に人形を置き、それが動いているか否かで、対象の行動パターンを把握する。手法自体は空き巣が使う『マーキング』と呼ばれるものだ」


「さすがだね」


 計太の賛辞にも流星は表情を変えなかった。


「しかしそのために指人形なんていう凝ったものを使う例は聞いたことがない。つまりこれは、単なる窃盗目的ではなく、桜さんという個人への異常な関心……つまり、ストーカーの可能性が極めて高い」


「……ストーカー」


 桜がその言葉を、重く繰り返した。


「驚かせてしまったら申し訳ない」


「いえ、実は私もその可能性は考えていました。ただ、そうでないことを祈っていました。もしそうなら、犯人は私の生活圏内にいる『顔見知り』である可能性が高い……。」


「どうしてわかるの?」


 計太が問いかけた。


「ストーカー規制法が対象とする事案において、加害者の約八割は面識のある人間です。そしてその中でも、恋人や知人といった『親密圏』に属さない、いわゆる『一方的な顔見知り』による犯行は、最も予測が難しく、エスカレートしやすい傾向にあります」


 専門用語を交えたその口調は、被害者というよりは、冷静な捜査官のそれでだった。


「今回のケースでいえば、犯人は私の生活サイクルを把握しようとしています。私が何時に出勤し、何時に帰宅し、どのタイミングでドアの外を確認するか……。これは『行動観察』と呼ばれるものです」


「さすがは東大、半端なく賢いね」


「ということで計太、後はよろしく頼む。私たちは仕事に行かなければならない」


「もうそんな時間か………まあ、事情は大体わかったよ」


 計太は時計を見上げた。


「計太はこれから何をするつもりだ?」


「私も興味あります」


「何かをするのは僕じゃない」


「え?」


 桜が小さな疑問符を発した。


「二人にはこれから仕事場でラブラブイチャイチャバカップルになってもらう!」


 計太はびしっと指さした。






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