14話 ~罠~
刺すような強烈な室内灯が、微睡む闇を瞬時に焼き払った。
「うをっ!?」
不意を突かれた根元太蔵が顔を上げると、そこには二人の男が立っていた。
一人は、余裕の笑みを浮かべた少年のような印象の小柄な男、芦屋計太。
そしてもう一人は、モデルのような長身に涼やかな顔立ちをした青年、芦屋流星。
「お前……っ!」
根元の視界に焼き付いたのは、流星の姿だけだった。
たった一度、神社の境内で目にしただけ。だが、彼には分かっていた。愛しい上原桜を奪い去った、憎むべき敵の顔だ。
「予想通り、まんまと罠に嵌まってくれたな」
「……桜はどこだ? 桜を出せ!」
「ここにはいないよ」
「嘘をつくな小僧! 私はあいつがこのマンションに入っていくのを見たんだ!」
逆上する根元に、計太が追い打ちをかけるように告げた。
「マンションに入ったのは確かだけど、この部屋じゃないんだな、これが。いざという時のために別の空き空き部屋を借りておいたんだよ。上原さんは今、そっちで安全に過ごしている」
「なんだと……っ! くそっ!」
逃げ場を失った根元に、流星の峻烈な宣告が飛ぶ。
「根元! 無駄な抵抗はやめて武器を捨てろ。お前には住居侵入罪、殺人未遂罪、ストーカー規制法違反、そして器物損壊罪が適用される!」
「黙れ……黙れよぉおおお!」
流星の放つ「正論」は、根元の劣等感をこれ以上ないほど激高させた。
流星はあまりに完璧すぎた。端正な容姿、明晰な頭脳、そして迷いのない正義。その輝きは、日陰で指人形を弄んできた根元のような人間の心を、激しく乱し、歪ませる。
(この男さえいなければ、彼女は私のものだったのに!)
呼吸をするように叫び、根元は憎悪の塊となって流星に飛び掛かった。
「はい、残念!」
次の瞬間、根元は床に叩きつけられていた。
「くそ、なんだ、何が……動けない……!」
まるで複数人の男に組み伏せられているかのように、指一本動かせない。
「そりゃそうだ。お前の体は今、僕の支配下にある」
ベッドのスプリングが小さく鳴り、計太がその端に腰を下ろした。
「僕は呪術師でね。お前が残していった指人形の残骸を利用して、これを作らせてもらったんだ」
計太の手には、手のひらサイズの藁人形が握られていた。
「身動きできないだろう? ここに足を踏み入れた時点で、お前の負けは決まっていたんだよ」
「ふざ……ふざけるな、離せえええ!」
どれほど声を張り上げても、怒りを込めても、体は金縛りにあったように微動だにしない。
「刑務所の中で、これからじっくり頭を冷やすんだな」
「許さねえ……何年かかっても、絶対にお前たちを殺してやる! 出てきたら必ずだ!」
恨み言を吐く根元に、計太は冷ややかな視線を向けた。
「そう簡単には出てこれないと思うよ。これだけの事件が起きれば、警察だって『本気』で捜査を再開させるだろうからな」
「何を言ってやがる!」
「お前の奥さんのことだよ。一人旅の最中に行方不明になったという、美恵さんのことだ」
根元の顔から、一瞬で血の気が引いた。
「知らねえ! 私はそんなこと知らねえ!」
「僕は呪術師だからね。探し物を見つけるのは得意なんだ。タダ働きは大嫌いだけど、お前の罪を重くするためなら協力は惜しまない。……とりあえず、境内あたりから捜索を始めてみようかな?」
「やめろ……やめろおおおおおお!」
根元の絶望に満ちた雄叫びをかき消すように、パトカーのサイレンが近づいてきた。
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