13話 ~根元~
初めて指人形を手にしたのは、幼稚園の頃だった。
クラスの女の子が持っていたそれを、自分でもなぜそんなことをしたのか分からないまま、根元は口の中に放り込んでいた。体中が温かくなって空を飛んでいるような気持になった。
どうしても、あれが欲しくてたまらなくて、母親に泣いて頼んだが、あっけなく断られた。思い悩んでいた根元の目に留まったのは、一枚のチラシだった。
それを指に巻きつけてみた瞬間、吸い付くように自分の指を包み込んだ。あまりの嬉しさに叫んだのを覚えている。
次に思いついたのは、その紙に顔を描くことだった。
最初に描いたのは、例の指人形を見せてくれた女の子の顔。それを指にはめると、まるで本物の彼女を手に入れたような、宝物を独占したような昂揚感に包まれた。指人形で再現された彼女は、本物以上に美しく自分だけに微笑んでくれた。
それ以来、指人形は根元にとって「唯一の現実」となった。
好きな女ができるたび、その女の指人形を作った。技術は磨かれ、人間も動物も、思うままに作り出せるようになった。
その狭い世界の中で、根元は常に絶対的な王だった。誰もが彼の命令に素直に従い、煩わしい人間関係も、理不尽な拒絶もそこには存在しない。誰にも邪魔されないその時こそが、根元の幸せのすべてだった。
(この世界が、本物だったらいいのに……)
何度も、血を吐くような思いで願った。だが、神も仏もその願いを叶えてはくれなかった。だから根元は神職でありながら、神など露ほども信じていない。毎日毎日、指が千切れるほど祈っても届かなかった。そんなものは、この世にいるはずがないのだ。
彼女のドアの前に指人形を置いたのは、生存確認のためだけではない。
(彼女なら、私の指人形を気に入ってくれるかもしれない。きっと褒めてくれるはずだ)
そんな淡い期待があった。もし彼女と二人で、この指人形の世界を共有できるなら……。それは、一人で遊び続けてきた根元にとって、初めての救済になるはずだった。期待は、いつしか確信へと変わっていた。
けれど、彼女は裏切った。
知らない男と幸せそうに微笑んでいた。あまりの光景に頭が真っ白になり、気がつくと、彼女を模した指人形たちの首をすべて切り落としていた。
言葉にする必要はない。これだけで十分に伝わる。
それでも、根元は彼女を許すつもりだった。彼女が這いつくばって謝罪し、金輪際他の男とは関わらないと忠誠を誓うのであれば、この寛大な心で包み込んでやろうと思っていたのだ。
だが、彼女はその慈悲すらも裏切った。
「許せない、許せない、許せない……っ!!」
煮えたぎる殺意が臨界点を超えた。根元は腰に下げたサバイバルナイフを、音を立てて鞘から引き抜く。
「きえええええええええーーっ!!」
甲高い、獣のような咆哮が真夜中の寝室に響き渡った。
根元は全体重をかけ、人型に膨らんだ毛布の胸元を目がけて、容赦なくナイフを突き立てた。
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