12話 ~侵入~
窓枠とガラスの隙間にマイナスドライバーを差し込み、テコの原理で静かに持ち上げる。
「ピシッ」
暗闇に、硬いものが弾けるような小さな音が響いた。空き巣が多用する、音を立てずに侵入する手口——『こじ破り』だ。
根元は出来た穴に太い指を突っ込み、内側のクレセント錠を静かに押し下げた。
周囲を警戒しながら、あらかじめ黒いスプレーで塗装し、闇に溶け込ませた小さな脚立に登る。
サッシが擦れる音を殺し、窓をゆっくりと開けた。
(許さない……絶対に……)
部屋に侵入した根元は、暗がりの中で歪に笑っていた。
煮えくり返るような怒りで全身が滾っているというのに、なぜ自分が笑っているのか、彼自身にも分からなかった。
真っ先に目に飛び込んできたのは、部屋の奥にあるベッドだった。そこには人型に膨らんだ毛布がある。
——上原桜。
彼女と出会えたのは、運命だと信じていた。
境内で初めてその姿を見た時から、その清廉な美しさに心を奪われた。彼女が参拝にやって来る土日が、一週間のうちで唯一の、そして最大の生きがいになっていた。
拝殿の前で、彼女はいつも長く、深く手を合わせていた。
(きっと、何か悩み事があるに違いない。私が救ってあげなければ)
そう思い、話を聞いてやりたいと願ったが、素の状態では声をかける勇気など出なかった。酒があれば——酒さえあれば、いくらでも弁が回るというのに。
すれ違った際に、彼女が会釈をしながら挨拶をしてくれるだけで、根元の心臓は不整脈を起こすほど高鳴った。
そんな平穏で、一方的な「幸せ」が狂い始めたのは、彼女が参拝に来ない週があってからだ。
一体何があったのか。男ができたのか。そればかりが頭を支配し、思考を黒く染め上げた。
気が遠くなるほど長く感じられた一週間。次の日曜日に彼女が現れた時、根元は歓喜と同時に、暴力的なまでの不安に襲われた。
(来週は、もう来ないかもしれない。二度と会えなくなるかもしれない)
その恐怖に突き動かされ、気がつけば彼女の後を付けていた。最初から自宅を突き止めるつもりなどなかった——はずだった。
しかし、そうして彼女の住処を知り、生活を覗き見る権利を手にしたと歓喜した。そして根元の股間は猛烈にいきり立っていた。
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