(初稿版)第四章・第二節:クレア・モリス
木曜の午後。
クレア・モリスは昼食の時間にあわせて、資料の一部を追加で届けに来た。
> 「ついでに、昼でもどうです? NSAのカフェには期待していませんけど」
クレアの軽口に、A.N.Hは少しだけ迷った。だが、その資料の中身を読み進めるうちに、彼の頭の中はある仮説で埋め尽くされていた。
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昼時のカフェは空いていた。
政府職員向けの施設らしく、装飾もなく、内装は機能本位のベージュ一色。
安いトレイの上には、サンドイッチとぬるいコーヒー。だがA.N.Hの目は、それらをまったく見ていなかった。
彼は資料のコピーに目を落としたまま、唐突に口を開いた。
> 「これ、見てください……ここ。構成成分が地球由来と断定できないにもかかわらず、表面は通常の酸化反応を示している。つまり、大気中で安定している」
クレアはパンにかじりつきながら、目だけで返事をした。
> 「はい、見ましたよ。D3群の残骸ね」
> 「もしこの物質を、弾丸として加工して──高初速で射出した場合……!」
彼の声が少し大きくなった。
周囲の客が一人、ちらりと振り向いた。
A.N.Hは、それに気づかない。
> 「弾頭は、衝突の際に一時的に変形する。軌道上で人体に接触すれば、その形を保ったまま多重貫通が可能。しかも――」
> 「元の形に戻る。だから損傷が残らない」
クレアが穏やかに補足した。
A.N.Hは驚いたように彼女を見た。
> 「……わかるんですか?」
> 「文書管理部は伊達じゃありません。物理学は専攻外だけど、報告書の“表現”には慣れています。魔法の弾丸が、どう“言いくるめ”られたかも」
A.N.Hは一瞬黙った。
だが、すぐにまた勢いを取り戻した。
> 「これはただの陰謀論じゃない。証拠はある。形状記憶とは違うんです。あれは加熱によって形を“記憶”させる。でも、この物質は──抵抗そのものに応じて瞬時に変形し、直後に回復する」
> 「つまり、理論的には……“思考する金属”ですよ」
クレアは、手を止めた。
> 「その言葉、どこかで聞いた気がするわね」
> 「僕はまだ断定していません。でも、これは兵器開発ではなく、“技術の出処”の問題なんです。1963年のダラスで使用されたそれが、1947年のロズウェルで拾われた素材だったとしたら──」
> 「政府は、魔法の弾丸ではなく、魔法の素材を隠している」
最後の言葉は、まるで何かが“つながった”確信に満ちていた。
クレアは、ゆっくりと紙ナプキンで口元を拭きながら、彼をじっと見つめた。
> 「それを、どこまで報告書に書くつもりですか?」
> 「全部です」
その瞬間、彼女の微笑みは、わずかに消えた。




