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婚約者の愛が重すぎるのでわからせようと思います!  作者: 朝比奈未涼


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2.私の王子様




ルーカスは私のたった1人の王子様だ。

優しくて、美しくて、そして何よりも大きな愛で私を包んでくれる。


夜、日記を書き終えた後、私は自室のバルコニーからなんとなく夜空を見上げ、ルーカスのことを考えていた。


ルーカスはいわば、この夜空に輝くたった一つの月のような人だ。

対する私はどこにでもいるようなごくごく普通の存在。

焦茶の鎖骨より少し長い髪も、丸い新緑の瞳も、顔立ちさえもこれといって特徴がない。

いわば、この夜空に無数に瞬く星のようだ。


そんな私の婚約者があの特別な月だなんて。


すごく、すごく幸せだ。

だが、彼の愛はあまりにも深く、重すぎる。

その愛に幸福を感じる時ももちろんあるのだが。




「……はぁ」




複雑な思いが口から小さな息として漏れる。

自然と下がった視線の先、私の手首には、シンプルなシルバーの腕輪が光っていた。


紫と緑の小さな魔法石が埋め込まれているこれには、対となる腕輪がある。

その対となる腕輪の持ち主はもちろんルーカスだった。


この腕輪さえあれば、対となる持ち主のことを何でもリアルタイムに知ることができる。

腕輪から見える映像で相手が何をしているのか、拾える音でどんな話をしているのか、さらにはどこにいるのかまでもわかる。


例えば私が今、ルーカスが何をしているのか知りたいと思えば、この腕輪の力でそれができるのだ。

これはルーカスから私に贈られ、半ば強制的につけられたものだった。


離れて暮らす私たち。それでもこれさえあれば、どこにいてもルーカスを感じられる。




『とても似合っているよ。ゾーイ』


『ありがとう、ルーカス。……ん?あれ?ん?』


『どうしたんだい?』


『こ、これ、外れない?』


『あぁ。そうだよ。これはね、お互いが死ぬまで外れないんだ』




初めてこの腕輪を贈られ、直接手につけてくれたルーカスの微笑みを思い出す。


ああ、私のルーカスはなんて愛おしいの…。

と、思っていた時期もありましたよ、ええ。


あの時、まるで王子様のように跪き、私の手に触れたルーカス。

最高に高鳴る鼓動と同時にわずかに感じた違和感。


それは成長して、今では私の首をゆっくりと締めている。


いや!嬉しいのよ!

私なんかをあんなにも深く愛してくれて、身に余る光栄なの!

けれど、重い!

重すぎる!


この腕輪もお互いをずっと感じられる…という部分ではいいのだが、この〝ずっと〟という部分が少々息が詰まるのだ。

まるで四六時中監視されているようで、気が抜けない。

もし、ルーカスがこの腕輪から私を見ている時に何か彼の気に触れることをしたらと思うと…。


考えただけで頭が痛くなる。

それをなんとか宥めなければ、誰かの人生を台無しにしてしまうのだから。


…しかし、いつでも相手を見られるということは私も同じだ。


どんなに頭を悩まされても、やっぱりルーカスを愛していることには変わりない。

ふとした瞬間に会いたくなるし、こういった静かな夜に彼への想いを焦がすものだ。


ーーーよし。


心の中で小さくそう言うと、私は腕輪の機能を起動した。

ブンッと小さな起動音と共に、腕輪から映像が映し出される。

映像から機能を選ぶと、今現在腕輪から見える映像が目の前に現れた。


暗いルーカスの部屋に、クシャッとなっている綺麗な布団。

「すぅ…すぅ…」と聞こえる規則正しい寝息はルーカスのものだ。

どうやらルーカスは今、寝ているようだ。


ルーカスは確か仕事で明日は早いと言っていた。

だからもう寝ているのだろう。




「ふふ」




愛おしい人の無防備な姿につい笑みが溢れた。


最初はこうやってルーカスを盗み見ることに罪悪感があった。今でももちろんある。

けれど、私もルーカスに盗み見られているのだから、少しならいいかな…と欲を抱いてしまった。


可愛い、私の婚約者。

こうやって彼の寝息を聞きながら、共に眠りに落ちたい。朝は彼の全てで始まり、昼は仕事の合間を縫って彼に会いに行くの。

全てが終わった夜には、共に食事をして…。


彼のことを考えれば、考えるほど愛おしさが込み上がってくる。




「…会いたいわ、ルーカス」




思わず呟かれた私の言葉は、誰に届くことなく、夜空へと消えていった。


ーーーその時だった。


ザザッと突然、腕輪から映し出されていた映像にノイズが入る。

見たことのない不具合に、「ん?」と首を傾げていると、次の瞬間にはバルコニーにルーカスがいた。


いつもなら綺麗にセットされている濃い紫の髪が夜風に吹かれて、サラサラと揺れている。

ゆるいガウン姿のルーカスはまさに今まで寝ていました、といった格好をしていた。


そう、彼は今の今まで確かに寝ていた。

その様子を私はこの目で見ていた。

なのに彼は、今、目の前にいる。

おそらく転移魔法を使ってきたのだ。

転移魔法は膨大なお金も技術もいる、こんなにも気軽に使えるものではないというのに。




「…え、ル、ルーカス?」




彼に会いた過ぎて彼の幻でも見ているのか。


この目の前の幻が本物なのか確かめようと、とりあえずルーカスの頬に触れてみると、指先に確かな温もりを感じた。


…本物だ。




「えぇ!?ルーカス!?」


「ああ、ゾーイ。俺も会いたかったよ」




驚く私に、ルーカスが嬉しそうに笑う。

夜空を背に微笑むルーカスはなんて綺麗で、美しいのだろう。

月なんかより、よっぽど輝いて見える。


…ではなくて。




「え、え!?な、なんで、急に!?寝てたよね!?」




盗み見ていたことなんて隠そうともせず、ルーカスに疑問をぶつける。

するとルーカスはその美しい瞳を細めた。




「そうだね。でも君の望みなら喜んで飛び起きるよ」




こ、答えになってない!




「わ、私の声が聞こえてたの!?」


「ああ。君の声はいつでも聞こえるようにしているからね。俺の世界には君がいないと」




愛おしげにこちらを見つめるルーカスに、思わず言葉を失ってしまう。

な、なんて、すごい愛の重さ…。

計り知れない、ルーカスの愛…。


呆れてしまう。けれど、会いたいと言った瞬間、飛んできてくれるルーカスを愛おしく思う私もいる。


とてもとても複雑だ。




「…来てくれるのは嬉しいよ?けど明日早いんでしょう?無理しないでよ、ルーカス」


「無理?無理なんてしていないよ?むしろゾーイが俺に会いたいと言ってくれた。そしてゾーイに会えた。これで俺は明日も頑張れる」




ふわりと微笑むルーカスの言葉はなんて甘いのだろう。

これだから彼を愛することをやめられない。

胸が高鳴って、高鳴って、苦しいのは、彼のせいだ。




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