王城に宿泊!2 79
大浴場を満喫し、ほかほかのラーシュ君が浴室から出てきた。もちろん、お世話係のメイドさん達も後に続いてきている。
「この世の楽園ってのは此処にあったのか……」
「すごいな、大浴場って……」
ミケルとロルフは呆けた顔でそんなことを口にしていた。アーベルは無言である。横目で見てみると、三人とも髪や獣の耳、尻尾がふんわりしている気がした。明らかに艶も出ているし、流石は王城で使っている石鹸ということか。
そんなことを思っていると、通路の奥から二人の人影が現れた。いや、奥にメイドがいるから三人か。
「あ、ラーシュ様」
イリーニャがこちらに気が付き、手を振りながら走ってくる。
「おお、凄い綺麗になったね」
走ってくるイリーニャの赤銅色の髪が艶やかに揺れていた。きらりと光を反射する見事な艶髪である。耳と尻尾もふかふかしている気がする。
近づいてきたイリーニャの頭を撫でてみると、予想通りサラサラで気持ちが良かった。
「えへへ」
嬉しそうに目を細めたイリーニャを横目に見てから、リネアが腕を組んでこちらを睨む。
「ちょっと? 私も湯浴みをしてきたんだけど?」
そう言われて視線を向けると、確かにいつもより髪が輝いていた。見事な金髪だ。しかし、普段から手入れが行き届いているリネアの場合、イリーニャほどの変化はない。
「いや、リネアはいつも綺麗じゃないか」
そう答えると、リネアは一瞬押し黙り、そっぽを向いた。
「そ、そうよね? 分かっているじゃない」
怒ったように返事をするリネア。うむ、少し照れているな。
「それじゃ、明日は朝から迎えに来るから。おやすみ」
リネアはそれだけ言うと、世話係のメイドを連れて立ち去る。それを見送っていると、イリーニャが自分の髪を自分で撫でながら微笑んでいた。よほど気に入っているらしい。
メイド達に連れられて、髪や尻尾がサラサラになったイリーニャやアーベル達と一緒に王城内を移動する。広い王城内で食堂や大浴場まではそれなりの距離があった。その間、何人も執事やメイドとすれ違ったが、誰も獣人に対して差別的な態度をとることは無かった。
これは、リネアの客人という認識を皆が持っているのか。それとも、テオドーラ王国内の獣人の扱いが他国とは違うのか。
「まぁ、過ごしやすいならそれが一番だけどね」
何にせよ、王城内は極めて快適だ。案内されて割り当てられた部屋に戻ると、すぐに奥の部屋に行ってベッドに横になった。
「うわ~、美味しい食事をして、高級なベッドで横になる喜び!」
流石は王城内のベッドである。素晴らしい寝心地だ。バタバタと足を動かして喜んでいると、イリーニャがくすくすと笑った。
「私も、こんなに良くしてもらったのは初めてです。こんなところで寝て良いのでしょうか?」
そう言いつつ、イリーニャはそっとベッドに腰かけて感触を確かめる。耳がぴこぴこ動いているので、ベッドの品質に感動しているようである。
「来客扱いみたいだからね。あ、騎士団の臨時講師にも就任予定だから、あのテオドーラ王国の騎士から先生って呼ばれちゃうかも。師匠も良いなぁ」
冗談交じりに返事をすると、イリーニャは楽しそうに笑った。
「凄いです。流石はラーシュ様ですね」
「ふふふ。ラーシュ先生と呼びなさい」
ベッドに寝転がりながら、イリーニャとそんな話をして笑う。なんだかんだで、僕とイリーニャも修学旅行みたいになってしまったのだった。
翌日、静かな王城の一室で目を覚ます。イリーニャと一緒に廊下に出ると、騎士が一人、外で待機していた。
「おはようございます。ラーシュ様」
「あ、おはようございます」
返事をすると、騎士は目を細めて廊下の奥を指し示した。
「他の方々は朝食の為、食堂へ移動しております。もしよろしければご案内いたしますが、いがかでしょうか」
そう問われ、すぐに頷く。
「三人とも早いなぁ。それじゃあ、お願いします」
「承知しました。それでは、こちらへ」
案内してもらうと、食堂近くでもう良い匂いが漂ってきていた。騎士が食堂の扉を開けると、その香りが一段と強くなる。
「おお、ラーシュ!」
「朝から凄いぞ!」
食堂に入ると、ミケルとロルフがこちらに気が付き、声を上げた。
「おはよう。皆早いねぇ」
「おはようございます」
イリーニャと一緒に挨拶をしながら食堂の奥へ向かう。アーベル達はもうおかわりタイムなのか。テーブルには空の食器もあった。
僕とイリーニャが椅子に座ると、メイド達がそっと隣に立つ。暗殺者のように音を消しているではないか。
「ラーシュ様。今朝はアシュのスープとレイルサラダがございます。また、肉か魚でしたらどちらがお好みでしょうか?」
「お魚にしようかな?」
「承知いたしました。それでは、魚料理を三種と料理に合うパンもご用意いたします」
メイドはそれだけ言って一礼し、踵を返す。そして、次のメイドが現れた。
「ラーシュ様。お水と果実水がございますが、どちらになさいますか?」
「果実水で」
「はい。それでは、失礼します」
二人目のメイドは音もなくグラスに果実水を注ぎ、一礼して去って行った。いつの間にかテーブルには白い布と水の入った木の器が置かれている。指を洗えば良いのかと思い、水の中に指を入れてから白い布で拭った。
さぁ、食事だ。
そう思って顔を上げると、唖然とした表情のミケルとロルフの顔があった。
「ど、どうしたの?」
驚いて尋ねると、二人は顔を見合わせてからイリーニャに視線を移す。
「……本当にラーシュは貴族だったんだな」
「俺たちは朝から驚いてばかりだったぞ」




