王城に宿泊! 78
「……本当、不思議ね」
それだけ呟くと、リネアは僕とイリーニャの顔を交互に見た。続けて何か言おうと口を開いたが、その時、扉のドアが外から開かれた。
「……む」
現れたのはアーベルである。アーベルは椅子に座っているリネアの姿を見てから、こちらに目を向けた。
「後にした方が良いか?」
アーベルがそう尋ねると、リネアが腰を上げた。
「大丈夫よ。あ、そういえば、後で浴室に行くと良いわ。話が済んだら、廊下で執事かメイドに声を掛けてね」
「おお、湯浴み! ありがとう」
リネアのその言葉に、大喜びで返事をする。それに笑いつつ、リネアは部屋を出て行った。それをイリーニャは部屋の外まで付いていき、見送る。
その様子を横目に見て、アーベルがこちらに歩いてきた。
「良かったのか?」
「うん、大丈夫」
返事をすると、アーベルは頷いて椅子に座る。そして、用件を口にした。
「今日の話で、ラーシュは村にとって良い条件を得ていたように思う」
「ん? ああ、そうだね。破格の条件だと思うけど」
そう答えるが、アーベルは難しい顔をしていた。もしかして、もっと村にとって利があるように交渉すべきだったということだろうか。しかし、欲張りすぎるのも問題である。後ろ盾も無く、大した実績もない中では十分過ぎる条件だったと認識していた。
「……足りなかった?」
聞き返してみると、アーベルは小さく息を吐き、首を左右に振った。
「……違う。俺には、ラーシュ達の会話が完全には理解できなかったのだ」
アーベルは無表情ながら、どこか悔しそうな雰囲気があった。
「……どうして、あんな話になったのかということかな? それとも、訓練の内容についてとかかな?」
そう尋ねると、アーベルは低く唸った。
「自分なりに理解しているつもりだ。だが、恐らく完全な理解ができていないのだ。すまないが、詳しく教えてくれないか」
「良いよ。一つずつ、説明しようか」
そう言って笑い、王との交渉内容や、今後どうなるかという話まで説明をしたのだった。時間にして二時間。みっちり勉強した。
アーベルのこの真面目な性格はとても良い長所だと感じていた。流石は元村長である。
その後、リネアに言われた通り廊下に出て、メイドに声を掛けてみた。
「水浴びか」
「水を温めて使おうぜ」
まだ修学旅行気分のミケルとロルフはワイワイと賑やかに部屋から出てきた。とても楽しそうである。
「いや、王城の浴室を使えるみたいだよ」
「ヨクシツ?」
「まさか、あの浴室か? 湯浴みができるやつ」
二人はぎょっとした顔になって振り返る。まぁ、それなりに稼いでいる商人でもないと浴室なんて持ってないからね。
「それでは、ラーシュ様達はこちらへ」
「イリーニャ様はこちらへお願いします」
ミケルとロルフが部屋から出て騒いでいると、いつの間にかメイドたちが五人も集まっていた。僕とアーベル、ミケルとロルフにはメイド四人が付き、イリーニャには一人のメイドが付いて案内してくれた。
「え? 中まで付いてくるの?」
服を脱いで浴室に向かおうとすると、付いてくるメイド達。それに驚いていると、先に素っ裸で走っていったミケル達の声がした。
「おい! ラーシュ!?」
「浴室ってこんなに広いのか!?」
そんな声を上げながら、浴場の方から顔を出す二人。
修学旅行か。
思わず突っ込みそうになったが、苦笑いを浮かべて後に続いた。そりゃ、王城なんだから、浴室も広く作られているだろうさ。
そう思って大人な態度でアーベルと一緒に浴室に足を踏み入れたが、僕自身もテオドーラ王国という超大国を舐めていた。
「……へ?」
思わず、そんな声が洩れる。なにせ、そこには冗談みたいに広い大浴場が広がっていたのだ。いや、地球でのリゾートスパみたいな施設に比べれば規模は小さいが、まさかこの世界でこんな豪華な大浴場を見ることがあるとは思っていなかった。
浴場自体の広さはバスケットコートほどだろうか。二段になっており、お湯が二段目の浴槽から一段目へと流れて落ちてきている。壁や柱、天井は石造りだ。お湯は無尽蔵に流れており、一段目の浴槽の容量を超えた分はそのまま外に流れ出ている。浴室の隅には排水溝があるようだ。
「……な、なんて贅沢な大浴場だ」
思わず、そんな感想が口から出る。それに、アーベルが唸った。
「……これは、誰かが常に水の魔術と火の魔術を使っているのか?」
そんなアーベルの質問に、首を左右に振って答える。
「いやいや、多分上水道と水車を使って二階に水を運ぶ流れがあって、水を加熱する為だけの水槽か部屋があるはずだよ。後は、そこを通って水がお湯になって、延々と流れ込んでいるんじゃないかな?」
そう答えると、世話係らしきメイド達が顔を見合わせている姿が目に入った。仕組みについては正解だろうか。
「おーい。入って良いのか?」
「入ってみたいぞ」
色々考えていると、ミケルとロルフが足をバタバタさせながらそんなことを言った。男子中学生はもう我慢ができそうにない。
「一度、身体を洗って入るんだよ。えっと……」
そう口にして周りを見てみる。あ、銭湯じゃないから体を洗うエリアとかないのか。せめて、お湯で体を流して入るか。
「我々がお世話をさせていただきます」
「え?」
そこへ、メイドから声を掛けられた。振り返ると、メイド達はいつの間にか服が変わっており、下半身も短パンといういで立ちになっていた。
「ささ、こちらへ」
メイド達はそんなことを言いつつ、木の椅子を持ってきて座るように促す。椅子の隣には桶と布が置かれている。
「え? ここに座れば良いのか?」
「そうみたいだぞ」
ミケルとロルフは早く風呂に入りたいのか、ウキウキで木の椅子に座った。長い毛の尻尾がぶんぶんと揺れている。それを見て、ミケルとロルフの世話係であるメイド二人が笑みを浮かべた。
「それでは、失礼します」
メイドはそう言って、二人にお湯をかけていく。そして、桶から灰色の塊を出した。油や灰を使って作った石鹸だ。
「洗髪をさせていただきます」
「お、おお?」
「ぬぉおお……」
メイド達は何故か目をギラギラと輝かせて二人の頭を洗い出した。それを見て、他の二人のメイドも椅子を並べ、桶を横に置く。
「さぁ、ラーシュ様。こちらへ」
「アーベル様もどうぞ」
僕の世話をするメイドは普通だが、アーベルを呼ぶメイドの目はギラギラしている。それを見て、アーベルの尻尾が下に下がった。あ、耳も下に向いているぞ。もしかして風呂嫌いなのか。
「……宜しく頼む」
見ていると、観念してアーベルは椅子に座った。そして、わしわしと洗われていく。あっという間に泡まみれになっていくアーベル。ミケルとロルフも横に並んでいる為、泡まみれ三兄弟といった様相だ。
「それじゃあ、髪だけお願いします」
元貴族として、僕は堂々と椅子に座り、そう告げる。ラーシュ君はもう十歳なのだ。自分の体は自分で洗えるぞ。あ、背中だけは洗ってもらえば良かったか。
そう思っていると、メイドが目を細めて口を開いた。
「いえ、全て私にお任せください。ラーシュ様はそのまま座っていていただくだけで大丈夫ですよ……ふふふふ」
「え?」
なんと!『
僕の職業適性には人権がなかったらしい』の2巻が5月発売!
皆様、是非チェックしてみてくださいね!ヾ(≧▽≦)ノ
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