平穏な日常
婚約破棄騒動から3日後の6月18日。私は今、サリーの家の庭園でお菓子と紅茶を頂いている。
あの日婚約破棄を告げたあと、気苦労が多かったせいか、熱を出して2日ほど寝込んだ。正確には2日目の夜には熱も下がり、普通に夕食も食べれたのだが、大事をとってもう1日安静にとお父様に言われてしまい、結局今日まで休んでしまった。
風邪をひいているわけではないので人に移す心配もなく、何しろ家にいてもつまらない…。そのため、外出の許可をとって私はサリーが学園から帰ってくるタイミングを見計らいハングレッド侯爵家に訪れた。
「いらっしゃい、ルディちゃん」
「こんにちは、おば様。サリーはもう帰っているでしょうか」
「それが、まだなのよ。いつもなら帰ってるはずなんだけどね…とりあえず上がって」
「ありがとうございます」
どうやらサリーはまだ帰っていないらしい。私は庭園に移動し、綺麗な花を眺めながら彼女の帰りを待った。
待つこと30分…。
「お待たせ、ごめんね!」
「おかえり、お邪魔させてもらってるわ」
「いいよ、ちょっと待ってね、アフタヌーンティーの用意するように言ってくる」
「分かったわ」
そして、戻ってきてサリーが目の前に座る。
「もう体調は大丈夫なの?」
「うん、もうばっちりよ。明日からは学園にも行くつもり」
「それなら丁度よかった!」
「丁度良かった…?」
何が?と聞こうとした時、サリーは近くに置いてあったスクールカバンの中から1枚の封筒を取り出した。
「はい、これ。ロイド殿下から」
「え?!!」
お昼を誘ってくださったのに私が体調を崩してしまって、ご一緒できなかったから…お怒りになってしまったとばかり…。私が封筒を前に固まっていると、サリーから声がかかる。
「なんか色々考えてない?大丈夫よ、軽い気持ちで開けてみ?」
王太子様からの手紙を軽い気持ちで開けられるわけないでしょと言いたい。でも、そんな余裕もなく、素直に頷くと、封筒にそーっと手を伸ばし、封を切る。すると、1枚の便箋が出てきた。書かれていた内容は…。
ルディ嬢へ
サリー嬢から事情は聞いている。体調は大丈夫か?早く元気になって学園に来いよ。
P.S.その時には以前に約束したことを忘れるんじゃないぞ。
ロイド・サーベスト
手紙を読み終えると、サリーがニヤニヤとこちら見てくる。
「な…何よ…」
「べつにぃー。ルディが休んだ日にロイド殿下が私たちの教室まで探しに来てたとか、体調を崩したって伝えたら心配そうにしてたな、とか色々思い出してただけ」
殿下が…私のことを心配してくださっていたとは思ってもいなかったわ。嬉しい…。でも、なんで私のことをそんなに気にかけてくれるのかしら。あの事件の前は接点なんてなかったのに。
事件…。私はパーティーの最後に殿下から言われた言葉を思い出してまた赤くなってしまう。そして、恥ずかしさを誤魔化すようにサリーに話しかける。
「サ…サリー!あなた、この手紙の中身知ってたの?」
「いや?でも、ルディの様子を見れば大体何が書いてあるかは分かるね」
「うぅ…」
1人で慌てる私の様子を見ながらサリーは楽しそうに紅茶を飲んでいる。
「いいね、青春って感じ」
「揶揄わないでよ、もう!!」
そんな言い合いをしていると、あっという間に時間が過ぎる。飲み干したコップにおわかりの紅茶を注いでいる時に、サリーが思い出したように言う。
「そういえばさ、ルディは寝てて知らないと思うけど、リザード様って実家から縁を切られたらしいよ。次期当主は弟に変えるってさ」
「えっ…」
まさかそんな展開になっているとは思ってもいなかった。実家で匿われて二度と会うことはないと思っていたけど、その実家にさえ見放されていたとは。
「じゃあ今はどこに?」
「だーいすきなニーナ様のところに婿入りしたって噂よ。学園にも姿はないし、ニーナ様の家に行く機会もないから確かめられないけどね」
「そうなの…」
間違ったことをしていたのは向こうなのに、リザード様のその後を聞いたら、断罪したことを少し申し訳なく思ってしまった。
まあ、少なくともニーナ様がいれば大丈夫でしょう。あんなにも想い合っていたのだから、今後どんな困難も乗り越えられる…はず。
その後もサリーと様々な話を楽しみ、気付くともうすぐ日暮れ。そろそろ帰らないと心配をかけてしまいますわ。
「今日はありがとう。そろそろお暇するわ」
「わかった、じゃあまた明日ね!」
玄関まで送ってくれたサリーにお礼を言い、別れた。帰り道、手元の封筒を見てロイド殿下を思い出してしまう。明日からどんな顔して会えばいいのでしょう。
ルディの顔が再び夕焼け色に染まった。
これにて本編は完結となります。
ここまで読んでくださりありがとうございました!




