人生最悪の日①(リザード視点)
ニーナとダンスをしている時に事件は起こった。
「私、ルディ・クランベルクはリザード・カルファン公爵令息との婚約を破棄したいと思います」
今なんて言った?誰と誰の婚約を破棄するって?
聞き間違いかと急いでルディの元へと向かい、問い詰めるも「聞き間違いではございません」と言われてしまう。
どうしてだ。心当たりは…ある。でも、バレるはずはない。今まで3年間も隠し通せたのだから。そう自分に言い聞かせていると、ルディが何やら魔法石を取り出した。
「まずはこちらをご覧ください。先週の昼食時、リザード様との会話です」
なんだ、全然大丈夫じゃないか。たしかに舞台鑑賞は断ってしまったが、これのどこが婚約破棄の理由なのだ?
「リザード様、魔法石は2つ用意しております。最後までお静かにお願いします」
問題はこの2つめの録音だった。どうして…その音声をお前が持っているのだ…。これはニーナの家で…。
周りからの視線が冷たく突き刺さる。
「婚約者の誘いを断っておいて、なんて最低な奴なんだ」
「ルディ様、犬扱いされて可哀想」
「あんな奴、婚約破棄されて当然だ」
ざわつく周囲の声が徐々に大きくなるが、それが気にならないくらい心臓の音がうるさい。なぜなら…この後の音声を流されてしまったら私は到底生きていけなくなってしまう。
私とニーナがベッドに移動した音声が聞こえ始め、もうダメだと頭を抱えそうになったその時。プツンと魔法石の音声が途切れた。
た…助かったのか…?
「これでも心当たりはないとおっしゃいますか?」
「リザード様。この後の音声をここで流してもよろしいのでしょうか。せめてもの情けでここでストップしたのです。ニーナ様との逢引きの件、婚約解消を企んでいた件、どうか認めてください」
もう言い逃れはできないかもしれない。でも、ここで認めてしまえば婚約破棄された上に、私もニーナもどんな結末が待っているのか…考えるだけでゾッとする。
なんとかこの場を切り抜け、婚約解消に持っていく方法はないものか。ルディのことだ、あいつはなんだかんだ優しいから、あの先の音声を流すことはないだろう。上手く丸め込めれば…そう思っていると、予想外の人物がルディに助け船を出した。
「もうよい。それではルディ嬢に続きの音声を流してもらうとしよう」
それだけはだめだ!そもそも、なぜ殿下がルディの肩を持つ?まるで今日断罪されるのを知っていたかのように。
そして思い出した。ロイド殿下が『余興』と言ってこの騒動を始めた人物だと。あの時はニーナとのダンスに夢中になりあまり真剣に聞いていなかった。
きっとルディと予め打ち合わせしてたんだな…。でもなぜだ、なぜバレた…。もしかして、先週の昼食の時に中庭でニーナと会っていたのを見られたのか…?いや、そうに違いない。
もう大人しく認めたほうが良さそうだ。殿下が出てきてしまってはルディを丸め込む前に音声を流されてしまう。
苦し紛れに認めると、殿下は満足そうな顔でルディにバトンタッチする。そして、ルディから最終宣告をされ、私はパーティーを後にしようとすると…。
「ねぇ、まだ話は終わっていないよ?」
ロイド殿下が私のことを静止する。さすがに王太子の言葉を無視できない。恐る恐る振り返ってみた。
「リザード殿とニーナ嬢の婚約をここに認める」
は…?
「そ…それはどういう…?」
「いやな?婚約者を蔑ろにしてまでもお互いを思いやる2人の姿に深く感心したんだよ。だから、婚姻をまとめてあげようと思ってね」
まずい、言い訳が出来ない。私1人でも信頼を回復するには膨大な時間がかかるはず。それなのに、ニーナと婚約するとなれば、関わりたくもないと皆が私から離れて行くだろう。
そして私は悟った。ロイド殿下の手によって、貴族社会から追放されたのだと。
ニーナも断罪の舞台に上げられ、2人は会場中に響き渡る大きな拍手を受けた。
なぜこんなことになってしまったのか…。私はただ…婚約解消したかっただけなのに…。
パーティーが再開され、私とニーナはすぐに会場を後にした。
・・・
「ニーナ、私たちはもう…」
「リド様、話が違うじゃないですか!」
「それは…」
たしかにあの日、後ろを確認しなかった私にはもちろん非があるが、屋敷内にスパイがいたことに気づかなかったニーナにも非があるはずだ。それなのに私だけ責められるのは筋が違うのではないか。
「私も悪いが、ニーナの家にスパイがいたのが決定的な証拠になってしまったのではないか」
「え、私のせいにするんですか?!」
「別にニーナのせいにしようとはしてないが、お前にも原因はある」
「さいてー」
ニーナはそう言うと、私に思いっきり平手打ちをした。私は一瞬何が起こったのか分からなくなる。
「私たちもう貴族社会では生きて行けなくなるのよ。それに、王族から認められた婚姻は避けられない。こんなことならもっと上手くやれるボンボンを落とすんだったわ」
「ニ…ニーナ?」
明らかに様子が変わったニーナに驚きを隠せない。今までの可愛くて優しくて、私のことを大好きだったニーナはどこに行ったのだ。
「もういいわ。詳しいことはまた後日話しましょ。私はもう疲れたから帰るわ」
そう言い残すと、ニーナは馬車に乗り込み去っていった。馬の足音は聞こえなくなり、私は誰もいなくなった道にただ1人取り残された。




