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待ち望んだ瞬間(ロイド視点)

「私、ルディ・クランベルクはリザード・カルファン公爵令息との婚約を破棄したいと思います」


 ルディ嬢がそう言い切った。私は誰にも気付かれないよう、抑え目なガッツポーズを取る。


 抗議をするリザードを軽くあしらい、彼女は魔法石の録音を流し始めた。


 なんだこの胸糞悪い会話は。ルディ嬢を犬だと?絶対に許さんからな。それに、もしかしてこの流れだとあのシーンの音声も…。と思っていたら録音が途切れた。


「どうか認めてください」

「自分の首を絞めないでください」


 ルディ嬢の必死の訴えにリザードは口籠る。早く認めて仕舞えばいいものを。焦れったいな。私自ら終わらせてやろう。


「リザード殿、もう言い逃れは出来ないだろう。早く認めたほうが自分のためではないのか」

「ですが…自分はルディのことを本当に大切に…」


 鼻で笑わせてくれる。ルディ嬢を大切にしてるだと?怒りで頭が爆発しそうだ。


「もうよい。それではルディ嬢に続きの音声を流してもらうとしよう」

「それは!それだけはおやめください!」

「では、認めるのだな」

「…………はい」


 さっさと認めれば良いものを。こんなにも往生際が悪いとは…。うーん、このまま帰すのは惜しいな。そうだ、いいことを思いついた。


「リザード殿とニーナ嬢の婚約をここに認める」


 リザードが石化したように固まる。横目でニーナ嬢を見ても同じように固まっている。いい気味だ。…おっと、いけない。腹黒い面が出てしまったな。


 もうそろそろいいだろう。私が合図をすると、何事もなかったかのようにパーティーは再開された。


 すると、ルディ嬢が話しかけてきた。私はまた別の誰かに彼女を取られてしまうのではないかと焦り、その場で思わず求婚してしまった。隣でマルクスが頭を抱える。


「何かのご冗談でしょうか…?」


 やっぱり、子供の時のことは覚えてないようだ。私の名前も伝えてないわけだし、無理もないか。じゃあ、無理に思い出させる必要はないよな。いつか…思い出してくれると嬉しいが。とりあえず別の理由を話そう。


「冗談なんかじゃないよ。ルディ嬢の行動力と、先程までの凛とした姿勢、それに君の真っ直ぐな瞳に惚れたんだ。どうかな?」


 そう言うと、彼女は真っ赤になって俯いた。可愛い…。今すぐに答えを求めたら断られてしまう確率が高いから、とりあえず昼食にでも誘ってみるか。


 お昼の提案をすると、彼女は了承してくれた。


 本当に今まで、ルディ嬢は手の届かない存在だと思っていた。それが今、私の目の前で耳まで真っ赤になりながら私の誘いに応じてくれた。これ以上に嬉しいことはない。


 パーティーもお開きになり、執務室に戻るとマルクスが仁王立ちで待っていた。


「事前に説明があってもよかったんじゃないか?」

「すまんすまん、つい」

「ついって何だよ!王太子妃だぞ?そんな簡単に決めていいわけ…」

「簡単じゃない、ずっと…ずっと待ち望んでいたんだ」

「どういうことだよ、頼むから俺にも分かるように説明してくれ」


 しょうがない、マルクスには説明しておくか。将来の宰相に離れられては困るからな。私はルディ嬢との出会いについて簡単に説明した。


「なるほどな。ずっと恋焦がれてた相手だったって訳か」

「そうだ。だから、お前がなんて言おうと彼女を王太子妃にするからな」

「おい、誤解するなよ。反対なんてしないさ。ただ、お前がルディ嬢に固執する理由を知りたかっただけだ」


 そう言うとマルクスは「今日は遅いからもう休むわ。お前の片思い中の話、また聞かせろよ」と揶揄いながら出て行った。


 そして、まだ実感の湧かない私は、誰もいなくなった執務室で目の前の書類に手をつけることができず呆然としていた。


 とりあえず父上と母上には明日説明しよう。きっと喜んでくれるはずだ。今はもう少しこの余韻に浸りたい。


 ゆっくり目を瞑り、大きく深呼吸をした。


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