↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Neva Eva  作者: 真樹
幸せのカタチ
PR
35/61

02

 目の前にいる男前のお兄サン。

 キーファクロイツ・ヴァリニス。


 ……あー、ホント。見れば見るほどリト兄そっくりだ。何ですぐに気付かなかった、オレ。

 顔立ちだけでなく、笑い方とかちょっとした仕草とか、よく似てる。親子だねー……ってか、オレ、リト兄が結婚したことすら知らなかったんですけどォっ!?


 恋人はいた。いたのは、知ってる。

 で、多分その人と結婚したんだろうとは思う。

 その結果が目の前にいる年上の甥。…………あ、リアルに年月の流れを感じる。



 お前達の名前を訊いてもいいか、と尋ねてくるお兄サンに、オレは微妙に引き攣った笑いを返しながら言った。



「…………ラズです」



 家名もフルネームも勘弁してください。



 オレはアナタの叔父さんです、なんて告げる勇気はもっとない。















 交易都市、グランディスタ。



 それが、オレが生まれ育った街の名前だ。


 王都から少しだけ離れた位置にあるこの街は、王都と地方を結ぶ主要な街道が集まり、かつ海に面していて航路も十分に整備されていたので、結果として交易都市として栄えてるらしい。街の中心部はいつもたくさんの人で溢れてて、あまり見ることのない珍しい品物なんかもたくさん目にすることができる。



 とは言っても、オレのここでの記憶はそんなに多くない。

 だって、10歳の誕生日を迎えたその直後に、『学院』に入学するために家を出たしなぁ……。それからずっと寮生活だし、滅多に家に戻ることもなかったし。


 それまでだって、実のところ家で生活してた時間っていうのが結構短かった。

 母さんが、身体弱い人だったんだよね。だから空気の綺麗なトコに静養ー、って別荘地? みたいなとこにいたんで、月の半分ぐらいはそっちで生活してた。家とそこを行ったり来たり。

 んで更に、「お前を家から出すとまず間違いなく迷子になる」とか何とかで、オレが街の方に出ることも稀だった。ていうか、よっぽどのことがないと出してくんなかった。


 迷子って……否定はしないけど。いやできないけど。

 人通り半端なく多いし、路地とか結構複雑に入り組んでるし。背の高い建物が多いもんだから、見通しも悪くて方向感覚も狂うし…………オレ絶対どっかで怪我するし。


 うん、まぁそういう話はとりあえず置いておくとしても、だ。

 ちょーっと今、判明してしまったイッタイ事実がひとつね、あるワケですよ。


 …………実際、今の今まで気付いてなかったんだよね。



「…………え、アレ、ここホントにグランディスタ??」



 ここが自分の生まれ育った街だということに。


 いや、ちょっと待って。本気で気付かなかったオレって どうなの!?

 そしてフィルに背負われてる今の状態っていうのもどうなんだオレ。結構もういい歳だよオレ!? …………とか、思わなくもないんだけどさ、うん……。

 ……だって足痛いんだもん。歩けないんだもん。セレに任すと問答無用でお姫様抱っことかされるんだもん……!

 ホラ、他に選択肢ないじゃんか!



 …………いや違う。その問題は割と些細なことだ。

 むしろアレだ、ここがグランディスタだってことに、本気で気付かなかったオレが心底どうなんだって話で。


 …………間が抜けてるとか、ちょっと自分でも思う。思うけど……っ!


「今更それを訊いちゃう辺り、ラズらしくてむしろ安心するよ、俺ー」


 ぽふぽふと頭を撫でながらそんなことを言うのはやめろ、セレ。果てしなく落ち込むから。


 ていうかさ、気付いてたんなら教えてくれてもいいじゃん!とか思うわけだ、オレとしては。

 だってここがグランディスタなら、オレの家があるわけだから実は宿を取る必要とかもないわけだし、何より危うく気付かないままスルーして『学院』に帰るとこだったっていうか……。


「まさか気付いてないとは思わなかった」


 オレの発言を受けて、すっぱりきっぱりフィルが言い放った。


 …………あの、フィルさん。正直すぎるその発言、刺さる。ぐっさりとオレに刺さってる。

 ソウデスネー、と同意を返すしかなさそうなその内容がすんごいイタイ。何も言わないから、家に帰るのは後回しにするのかと思っていたんだ、と付け加えられたフィルの言葉は、痛いというか居た堪れない。ごめんね! そもそも気付いてなかったんだよ!



「? 何か問題でもあったか?」


 後ろでごちゃごちゃと喋っていたオレ達を、前を歩いてたお兄サンが振り返った。……甥っ子とは敢えて呼ばない。呼ばないよ。オレが喰らうダメージが半端ないから。


「あ、いえいえ、何でもないですー」


 セレがへらりとした笑顔でひらひらと手を振った。お兄サンは少しだけ首を傾げたけど、そうかと言ってまた前を向いて歩き出した。……何というか、本当に大人な対応をする人だ。

 実際大人な、年上の甥…………いや、考えない考えない。忘れるのは無理だとしても、せめて今は考えないよ。

 無駄な抵抗と言うなかれ、結構必死だオレ。



 ほんの少し、温さを孕んだ風が通りを駆け抜けてゆく。そこに僅かに潮の匂いを感じ取って、オレは顔を上げた。

 港は、街の南側にあるんだっけ……?? ほとんど行ったこともないから、よく覚えてないけど。


 この街にあるもので、オレの記憶の中にあるものは、そんなには多くない。


 自分の家とか、そのご近所さんとか。

 たまーに連れてって貰ってた街の賑やかさとか、教会の鐘の音とか。

 広場で遊んでるちっちゃい子の楽しそうな声とか、時折風に雑じる潮の匂いとか。


 覚えてるのは、そんなもの。



 ―――― そう、今正に見えてきた、見覚えのある屋根とかさ。



「……あ」



 小さくオレは声を上げた。





 ここだ、と案内されたお兄サンの家は、そりゃもう当然の如くオレの生家だったわけで。

 あっはっはー、懐かしいね! …………って、笑ってる場合でもなく。


 いや、うん、懐かしいのは懐かしいんだ。

 白っぽい、少しくすんだ色合いの石壁と、焦げ茶色の屋根。

 玄関前に敷き詰められてる石畳とか、そんなものが記憶にあるままの形でそこにあった。そういうのは、素直に懐かしいと思う。

 …………でもね?



「…………えぇっとぉ?」



 何か一部懐かしくないっていうか、何だこれっていうか ―――― ぶっちゃけ、オレが覚えてるよりも家がかなり大きくなってるっていうか。


 いや、とりあえず玄関先近辺に覚えはあるんだ。家の壁や屋根とかのカラーリングにも覚えはあるんだ……!

 でも、覚えのある範囲よりも何か更に左右に広がってる建物とか、家をぐるっと取り囲んでる立派な塀とか、ちゃんと手入れされてるっぽい綺麗な庭とか…………極めつけは向こうに見えてる離れっぽい建物とか。な、なかったよね?! 絶対なかったよね!?


「うっわー、立派なお屋敷だねぇ……」


 隣でセレがそんな暢気な声を上げた。

 …………だよね。やっぱこれ、お屋敷って言うよね。家じゃなくて。


 え、何だこれ。久々に見た自分の家がちょっとしたお屋敷になってるとか、何だ、どんなドッキリだそれは。


 セレの言葉に、お兄サンがちょっと苦笑しながら口を開いた。


「……そうか?」

「そうですよー。お庭にもう一軒家が建ちそうな広さですし。もしかしてオニイサン偉い人ですか?」


 にっこりとセレはストレートにそう訊いた。

 豪邸に住んでる人……イコール偉い人、って思考回路は正直どうかと思わなくもないけど、ちょっと自分でも似たようなこと考えてたから何も言えない。いやだって偉い人って大抵すんごいとこに住んでるじゃん!


 おっとりのんびりとしたセレの口調は、こういう時ちょっと得だ。まるきり他意を感じさせない。

 お兄サンにもそれが判ったのだろう、苦笑したまま軽く首を左右に振った。


「いや、私というよりは父だな。一応将軍職に就いているから……」

「しょ……っ!?」


 将軍!? なに今将軍って言った!?



 いつそんなに出世しましたか兄上様……!



 将軍て……アレだよね!? 中央の要職じゃん! 偉い人、っていうかすんごい偉い人って言わないか、それぇっ!?


 そりゃ、ね。そりゃ、さぁ……、元々父さんも軍職の人だったから、リト兄が軍関係の仕事に就いててもその辺は別に不思議じゃないんだけど……よりにもよって将軍……。どんだけ出世したんだ、兄上様。ていうか何があった、この30年。



 今になってリアルに年月の流れを感じてるオレは、ちょっとどうなんだ。

 今更、とか言われそうだけど、ホント今になって。ううう、ちょっと頭の中ぐるぐるする……。

 許容量なんて年上の甥っ子に会った瞬間にオーバーしちゃったんだから、もうちょっとこれ以上は勘弁して欲しい。



 まぁ……とりあえず、将軍の自宅なら、これぐらい大きくても不思議じゃない、っていうか、これでも質素な方なんだろうなぁ、とは思う。


 うん、でもね。でもさ。

 世間一般の基準から言えば、この家だって十分すぎるほどに大きいわけで。

 要するに、何が言いたいかというと、だ。



 お兄サン、この家全然狭くないと思う……っ!



 立派な門をくぐりながら、現実逃避気味にそんなことを考えた。



「…………ラズ、大丈夫か?」

「…………あんまり」


 結構今いろいろ必死だよオレ……!

 フィルの気遣いに、駄目なカンジの答えを返してたら、お兄サンがそれを別の意味で取ったらしい。


「すまない、怪我をしているんだったな。早く手当てをしないと……」


 あぁ、いえいえそうではなく。

 ぶっちゃけ、足の怪我よりも他の何かがずっしりと重傷なカンジです。でも心遣いありがとうございます。


「まぁ、とりあえず上がってくれ ―――― あぁ、今帰った」


 先立って玄関のドアを開けたお兄サンが、そこにいた初老のお爺さんにそう声を掛けた。


 …………ん? あれ? 何か……。



 ん? と違和感に首を傾げたオレを他所に、お爺さんはお兄サンの上着や荷物を受け取りながら、「お帰りなさいませ」とにこやかに応えた。


 …………って、え、「お帰りなさいませ」?

 …………え?


 えぇと……? と首を傾げたオレの方へと視線を移したお爺さんが、やっぱりにこやかな笑顔のままお兄サンに訊いた。



「後ろの方々は、お客様でございますか?」

「あぁ。すまないが部屋を用意してくれ」



 お兄サンは、ごく自然にお爺さんにそう言った。

 お爺さんは、ごく自然にかしこまりました、と一礼して去ってゆく。



 あのちょっと。……え、もしもし?

 え、あのこれ日常? 普通? いつも通りってことでオッケー?



 ってことは、アレだ。うん。




 …………すみません。何かオレ、来るトコ間違えた気がします。






















 改めて見回した玄関は、オレの知ってる面影を残しつつも、格段に豪華になっていた。


 とりあえず、心底ありえないと思います。なのに、頬っぺたつねってみたら痛かったってどういうことだろう。……現実だなんてちょっと認めたくありません。



 フィルに言って降ろしてもらった玄関内部は、下に敷かれた絨毯がふかふかでした。何だこれ。えホントにこの上土足で良いの? 僅かにとはいえ足が沈むんですけどこれ。


 すまないがここで少し待って貰えるか、と言うお兄サンに「お気遣いなくー!」と心の底から返答し、とりあえず現実逃避気味に上へと視線をやれば視界に入ったのはとても豪華なシャンデリア。

 …………あれは……なかったなぁ……。絶対なかったよなぁ……っ。


 んで、今度は下へと視線を落とせば、目に入るのはふかふか絨毯で。

 …………絨毯はあったけど、こんなふかふかはしてなかったよね。うん。さっきも思ったけど、ホントに土足でいいのかこれ。


 そんなことをつらつらと考えていた、その時。



「―――― あ」



 セレが短くそう声を上げたのと、オレがえ? と思ったのは、ほぼ同時だったと思う。

 んでもって。



「ただいま戻りました――」



 一拍置いて、聞き覚えのない多分少年の声がそう言ったのと、オレの後頭部にガコン! と鈍い衝撃が走ったのも、ほぼ同時のことだった。









 えー……っとぉ……、気が付いたら、玄関の絨毯と仲良くなってました。マル。

 あ、絨毯ホントにふかふかだ。


 …………いや、うん。そんなことを実感してる場合でもなく。ていうか実感したら駄目な気もする。でも実感しちゃった。ふかふかです。おかげで地面に倒れた衝撃が軽減です。


 でもやっぱり痛いものは痛いワケで。

 じんわりじわじわと痛みを訴える後頭部に手をやりながらむくりと起き上がり、オレは思ったままを口にした。



「…………痛い」



 いやもう、とりあえずその単語しか出てこないカンジですよ。

 だってここ、ついこの前も打ったとこじゃん! あああ、しっかりばっちりたんこぶになってる……。

 ついでにさっき怪我した足首も痛い。痛いとこだらけだな、オレ! でも何が痛いかって言われたら、オレの運動神経のなさが一番痛いワケだけれども。……自分で言ってて悲しくなってきた。


「まぁ……痛いだろうな……」

「イイ音してたしねぇ。ドアの平面が後頭部にクリティカルヒット、だしー?」


 同意を返したフィルがひょいとオレを持ち上げて立たせてくれ、その隣でセレが怪我の具合を確かめながらざっくりと状況を説明してくれる。

 そうか……さっきの衝撃ってソレか。玄関のドアか。


「ていうか、ホントにこういうところも相変わらずなんだねー?」


 何が楽しいのか、にこにこと笑顔を浮かべたセレがそんなことを言う。楽しいのはオレの不幸か? 肯定を返されそうで途轍もなくイヤなんだけど、そうなのかセレ。


「こういうとこ、って……」

「んー? ラズは運動神経に加えて運もないんだよね、って話」

「…………」


 にっこりすっぱりと、セレは言い切った。


 何かそんな会話、確か前にもした。フィルとしたね。

 どうせ……どうせね! オレは運動神経も運もないですよっ!? 自覚があるから言い返さないよ! ……でもセレの馬鹿。



「…………すまない。まさかそんな所に人がいるとは……」


 ―――― と、聞き覚えのない声が、頭上から降って来た。

 うん? これって、さっきの……。


 顔を上げれば、そこにいたのはやっぱりというか何と言うか見覚えのない少年で。

 多分、状況を考えればアレだ。オレの後頭部にヒットしたというドアを開けたのが、この少年だったというワケだな。いやうん、オレは大丈夫! むしろ災難だったね、少年!


 すごく複雑そうな表情で謝罪の言葉を口にした少年 ―――― 少年と呼んでるけど、多分オレよりは幾分年上だと思われるその人は…………何というか、そこはかとなく嫌~ぁな予感を彷彿とさせてくれる人だった。


 いや、別に少年が悪いというわけじゃなくて、少年の顔を見た瞬間に今度はオレが複雑な気分になったというだけで。



 …………似てるんだよね。うん。


 ただもうべらぼうに、お兄サンに、というかリト兄に似てるんだよね、この少年も。



 ……あ、嫌な予感する。

 ていうかデジャヴ。激しくデジャヴ……!



「すまない、弟が失礼を……」

「あ、弟さんなんですかー?」

「そうだ。……本当に、兄弟揃って申し訳ない」


 お兄サンが苦笑を浮かべながら、でも心底申し訳なさそうに謝ってくれた。

 でもオレはそれを聞いて、あぁやっぱりとちょっと落ち込んだ。



 お兄サンの弟……イコール、リト兄の子供。

 ということは、必然的に ―――― 少年もオレの甥っ子かあぁっ……!



 そりゃね! いてもおかしくはないんだけどねっ? ……そんなサプライズは、できれば一人で打ち止めをお願いしたいところだったというか……、うん。とにかくそんなカンジ! 許容量のメーターはとうの昔に振り切れたんだってば!


 またしても年上っぽい甥っ子の出現に、何だかオレの精神が居た堪れない。

 がっくりと脱力したオレに、お兄サンがちょっと慌てたみたいに口を開いた。


「大丈夫か?」

「……心配はいらない」

「怪我とは別のとこで、ちょーっとダメージ受けてるだけですからー」


 オレの代わりに、フィルとセレがフォローらしきものを入れてくれた。……フィルは真剣にフォローしてくれてるんだろうけど、セレはその辺ちょっと怪しい。楽しんでる割合の方が高そうだお前。

 でも、言ってることが大当たりなのはさすがだと思うけど。


 あははーっ、と笑顔で手を振るセレに、お兄サンはちょっと戸惑ったような表情になった。


「ダメージ……?」

「怪我とは、別のところ……?」


 その隣で、そっくり同じような表情で弟くんが首を傾げる。……兄弟! そういうとこ、ホント兄弟……っ! そんでもって、ホントにリト兄の子供だそっくりだ……っ!

 それを面白そうに眺めやったセレは、ふとオレの後頭部に視線を落とし、ありゃ、と呟いた。


「あー、何か思ったよりも腫れてるかもー? フィル、湿布薬残ってたっけ?」

「さっき額に貼ったので最後だ。だいたい頭に貼るわけにもいかないだろう」

「それもそっか。んじゃ、せめて冷やしとこう」

「あぁ、それじゃ、今氷を……」

「あ、イエイエ」


 人を呼びかけたお兄サンを遮って、セレがひらひらと手を振った。



「手間取らせるのも悪いんで ―――― コレで」



 ひらり、とセレが翻した手のひらに、一瞬雪の結晶が舞う。ひんやりとした冷気を纏った手を、セレはオレの後頭部へと当てた。あー……、冷たくて気持ちいい……。


 水にセレの闇の力をプラスした、ちょっと応用編の魔法。

 結構高度と言えば高度な魔法なんだけど……ぶっちゃけコレ、氷枕とかアイシング以外で使ったことないよね。どうなんだその事実。

 前にいっぺん、もっと別のことに使おうよコレ、と訴えたことがあるんだけど、「えー、むしろ他にどう使えって?」と返された。これが一番の有効活用、ってことらしい。

 …………いかん、反論の台詞が何ひとつ出てこない。だって今正に絶賛活用中。ひんやりと大変気持ちが良いですハイ。



「お前……」


 何かすぐ近くから声が聴こえて、ん?と思って顔を上げれば、思ったよりもずっと近くに弟くんがいた。……ていうか弟くん、オレよりも背が高いな。目線がちょっと上……あ、今何かヘコんだ。


 弟くんは、何か驚いたみたいなカオをしていた。

 そして、その表情のまんま、弟くんは訊いた。



「お前、魔法使い、か……?」



 えぇっと……?

 何かどっかで聞いたことのある台詞だなぁ……。

 しかも、一度と言わず、二度三度。…………何でだかよくコレ言われるよね、って台詞。


 でも、いつもとちょっと違うのは、その台詞を向けられたのはオレじゃなくて ――――……、


「えー、俺?」


 弟くんの視線を受け止めて、セレはきょとんと首を傾げた。それから冷気を纏った自分の右手を見て、あぁ、と納得の表情になると、逆の手をひらひらと振ってみせる。


「あー、違う違う。魔法使いなのは、俺じゃなくてー……」


 言いながらセレはひらひらと振っていた手で、ひょいとオレを指差した。


「こっち」


 ……人を指差しちゃ駄目だろお前。

 そう思うんだけど、今ここでソレを言うのはやっぱ野暮ってモンなのかな……。そもそも、こっちって何だ、こっちって。



 つられるようにして、弟くんがオレを見た。……えぇっとぉ?

 あれ何ていうかオレ、この視線もどっかで見たことある。何かこれも、何でだかよく貰うよねー、って類の視線。


 ものすごーく疑わしげな視線をオレへと固定した弟くんは、負けず劣らずのものすごーく疑わしげな声で言った。




「………………これが?」




 これ、って……。

 さりげにヒドイな、弟くん。



 いや、あの、うん。疑わしいってのは十分判った。ていうか、伝わったからさぁ……。




 せめて、人扱いでお願いします。ええ、せめて。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。