<空から熊>
ズドン!
すごい音と同時に目の前に、一寸焦げて体の各所から白煙を上げた身長2mくらいの巨大な「テディベア」が降ってきた。
足が半分地面にめり込んでるよ……その足と地面の間にはさっきまで俺と秀吉を追いかけていた正体不明の黒いやつが挟まってもがいているのが見える。
何を言っているのかわからないって? いや、俺だってそうだ。
どういった流れでこうなったかというと……
水浴びをして疲れた俺は一寸だけ昼寝した後なぜか子犬を拾ってリンゴを取りに行ったんだ。
……一行でこれだけ説明できるということに驚いたわ。
まあ、それはおいといて
ここしばらくお世話になっていたリンゴの木をとうとう食べつくしてしまって途方にくれていた俺は秀吉の案内で森の奥のほうへ歩いていったんだ。
すると、湖から離れてしばらく行ったところに同じようなリンゴの木があり、こっちはまだいくつか実がなっていた。
大喜びで秀吉に礼を言ってリンゴをもぎ取り食べていたらいつの間にかそこにそいつがいた。
「うううー!」
突然、秀吉が何かに対して唸りだしたので、なんだ? と思って秀吉がにらんでいる方向をボーっと眺めた。
はじめは周りの森の木が作っている影だと思った。
動いて見えるのは風でも吹いて木が揺れてる所為なんだろうと。
でもそれは何日か前に遠目で見た、黒いいびつな影のような骨組みのような、普通にモンスターっぽい何かだった。
一番に目が行くのは噛み合わせを考えていないようなギザギザの歯が並んだ大きい口。
全体の大きさは大型犬程度。
生き物なら普通付いてくる鼻とか目に当たる部分が見当たらない。
ひと噛みで俺の腕ぐらいは持っていかれそうだ。
口の中は何も見えず暗い穴のようになっている。
四つん這いでこちらを見上げるように、その穴のような口を向けている所から何らかの方法でこちらがいる方向を認識しているんだろう。
それにその大きい口だけの頭を支えるにしては細すぎる胴体に手足。
これは一体なんなんだろう?
やっぱりこの世界はゲームでこれは敵モンスターなんだろうか?
でも俺は銅の剣も装備していないし冒険者の服どころかいいところ布の服だけしか装備してないぞ?
あんまり急だったのでびっくりしてしまい、逃げるどころか声を出す余裕もなくて、息を止めていればそいつが勝手にいなくなってくれるんじゃないか? と信じてもいない可能性を検討してしまうほどだった。
「わんっわんっっ!」
秀吉は小さいからだの癖にそいつと真っ向から向き合って威嚇していた。
どうせ仮想世界の中の出来事だろうと思って今まで過ごしてきたが、どうにも嫌な予感が止まらない。
それに、この世界の痛みのフィードバックは異常なほどリアルだ。
ただ、本能的に分かったのはこのままにしておくと秀吉も自分も多分このモンスターの餌食になる。
冷静に考えればここでモンスターに倒されればもしかしたらログアウトできるかもしれない。
だが、そんな思考を持つよりも今はただ逃げ出したくて仕方なかった。
とっさに手に持っていたリンゴをモンスターに投げつけてモンスターの注意がそれた隙に秀吉を呼んで逃げ出した。
さっきまですくんでいた足がなんとか動いてくれた。
どちらの方向へ逃げれば良いとか、そういったことはまったく思いつかず、ただ当てもなくがむしゃらに走った。
モンスターはあまり早くないのだが妙にかくかくした気持ちの悪い歩き方で追いかけてくる。
途中何度も森の中の張り出した枝が手や顔を打つ。
痛い。
それに走ってる所為で苦しい。
喉が焼けるようだ。
運動不足がたたって一番先に音を上げたのはモンスターでも秀吉でもなく俺だった。
ヒューヒュー言っている自分の呼吸音がうるさい。
森の中少し開けたところを見つけたのでそこを目指して最後の力で走った。
モンスターがどうやってこちらを認識しているのかがわからなかったので藪に隠れるより見通しのいい場所にいたほうがましだろうととっさに判断したためだ。
ちょっとした空き地のようになっているスペースに倒れこんで荒い息をついた。
すぐそばに秀吉がいてハアハア言いながら何でこんなところで止まるのか? といいたそうな目でこちらを見ている。
答えてやれる余裕が俺にはない。
それに、これ以上藪を走る体力はもう無い。
そこへ、ぎこちないおかしな歩き方でモンスターがやってきた。
もう後5mもない。
どうやら俺はここでやられるようだ。
酸欠でガンガンなる頭のなかでなんとなく冷静にそんなことを考えた。
◇ ◆ ◇
そこに冒頭のあれだ。
そいつは空から降ってきたように見えた。
ふざけた見た目に似合わずその両手には長さ20cmほどもある長い爪を持ちそれを器用に使って踏みつけていたモンスターの解体を始めた。
みるみるモンスターは削れて行ったが、助かった! という気持ちと、よく考えればこの変なテディベアが味方だという保証がないことに気がついてしまった。
単にテディベアもどきが空腹でモンスターに飛び掛っただけだったら、それを食い終わった時満腹になっていなければ、次の獲物は自分達だろう。
見つからないよう秀吉をそっと抱えてこっそり逃げ出す俺。
どうやらモンスターの解体に夢中でこちらには余り注意を向けていなかったようだ。
無事逃げ出せた後、森の中を周囲を警戒しながら歩き回り、秀吉と一緒にどうにか湖にたどりついた時はもう夕方だった、焼け付くようにひりひりする喉を潤してその日は終わった。
<空から熊>(後書き)
木が揺れてる性
木が揺れてる所為
走ってる性
走ってる所為
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